新規事業の4つの失敗パターンとそれぞれの解決法

新規事業の成功率は、「千三つ」(せんみつ)と言われている。残念ながら、新規事業はほとんど成功しないというわけだ。(もともと千三つは、1000に3つしか正しいことを言わないというような意味合いの言葉で、ビジネスにおける千三つとは、限りなく割合が低いことを意味する)
確かに、店頭にはさまざまな商品が並び、Amazonで検索すれば似た様な製品がいくつもヒットする。そしてアプリケーションについても何百万以上もあるため、他社が提供しているアプリとの差別化は簡単ではない。
しかし、よくある失敗理由や失敗パターンを事前に知っておくことで初歩的な失敗を避けることは可能だ。本記事では、事前に知っておきたい新規事業の失敗理由や失敗パターンを大きく4つに分類して紹介したい。
- 顧客ニーズの見極め不足
- 市場参入タイミングの見誤り
- 経営資源の不足
- 協業判断の見誤り
1と2は新規事業の企画段階、3と4はローンチ後の段階の話だ。それぞれの段階での新規事業の失敗理由と具体的によく起こるシチュエーションを事例を交えつつ紹介し、解決法のヒントを紹介しよう。
新規事業の立ち上げ準備段階の2つの失敗理由
新規事業を立ち上げる際によくある失敗理由は、以下の2つに分類される。
- 顧客ニーズ(ペインポイント)の見極め不足
- 市場参入タイミング(コンペリングイベント)の見誤り
企画当初は緻密に市場調査やユーザー調査をしているにもかかわらず、新規事業のさまざまな判断を上司に仰いでいるうちに、いつしか会社の中で判断されやすい様な理由付けをしてしまうことがある。
最初は製品やサービスをユーザーニーズ中心で検討していても、社内の意見や権限が強いと少しずつ社内固有の理屈に飲み込まれてしまい、いつしか内向きな判断基準を重視してしまう。
結果として、顧客ニーズ起点のマーケットインの取り組みから、プロダクトアウトの取り組みに変わってしまい、市場からかけ離れた製品・サービスを投入する。これが失敗のメカニズムだ。
それでは、まず2つの失敗理由について、ひとつずつ見てみよう。
1.顧客ニーズ(ペインポイント)の見極め不足
新規事業を企画するときに、市場ニーズやユーザーニーズが無い事業を企画することはほとんどない。しかしやっかいなのは「ニーズ」という言葉の捉え方だ。
お金を払ってでも解決したいニーズか?
もし、ニーズという言葉を「コストを削減したい」「生産性を上げたい」という風に“No”がない要望だと認識していると、新規事業の成功確率は大きく下がってしまう。
確かにこういう要望はあるだろうし、実現できれば嬉しいことに変わりはない。しかし、企業はより具体的で圧倒的な効果がなければ導入の検討をしないのだ。極端に言えば、「コストが現状の10分の1になる」「生産性が2倍になる」という様に大きな効果を期待できなければ検討の机上には乗らない。
しかし、具体的な数値で示すことよりもっと重要なことは、「お金を払ってでも解決したいニーズ」を見つけることだ。
ペインポイントとはお金を払ってでも解決したい痛点
「利便性が高まる」「顧客満足度が上がる」と言われても、業界や業種によってそれがお金を払ってでも得たい成果なのかは変わってくる。
私たちは、この「お金を払ってでも解決したいニーズ」を通常のニーズと区別するため「ペインポイント」と呼んでいる。失敗する新規事業では、「ペインポイント」までニーズの深掘りができていないことが多く、表面的なニーズの解決にとどまっていることが多い。
逆に言えば失敗する確率を低くするためには、「ペインポイント」を見つけるまで新規事業の投資を最小限にすることだとも言える。
解決法:そのニーズは本当に対価を払うに値するペインポイントか検証する
既存事業では顧客との関係や販路などの要因で商品が売れていくことがあるため、対価を得られるニーズまで見極めて開発しなくても売上は伸びていく。
しかし新規事業は企業にとって何らかの飛び地になるので、既存事業の強みはそのまま活かせないことが多い。
新規事業を失敗させないためには、次の3点を気をつけて欲しい。
- 企画段階につかんだユーザーニーズは不確定要素がたくさんある
- 実行段階でユーザーニーズに対価を払うか検証する必要がある
- 対価を払って利用しようとした(または利用してくれた)初期顧客の声を検証する
リーンスタートアップ手法では、ペインポイントを見つけるために、簡単にでも構わないので、サービスの骨格部分だけを、実際にユーザーに利用してもらうことを勧めている。
そして、得られたペインポイントを元に改善を繰り返す。その時、単なる改善ではなく、ペインポイントを踏まえることがポイントになる。
2.市場参入タイミング(コンペリングイベント)の見誤り
もう一つの失敗理由は、市場参入タイミングの見誤りだ。
適切な市場参入タイミングを見極めるのは難しい判断となるが、失敗確率を減らすアプローチとして「コンペリングイベントの見極め」が挙げられる。
市場や事業が劇的に変貌する瞬間を捉える
コンペリングイベントとは、企業やユーザーが変化せざるを得ない必然的な状況のことを指す。
例えば、今後施行される「消費税10%」や「東京オリンピック」はまさにコンペリングイベントといえる。それ以外にも新制度の導入やセキュリティやリスク拡大につながる出来事もコンペリングイベントだ。
新規事業では、こうしたコンペリングイベントを活用しない手はない。むしろ、コンペリングイベント無くして、新規事業を世に広げることはできないと思っておいて良いだろう。
失敗する新規事業には、コンペリングイベントをうまく活用していないことで世の中のトレンドに乗り切れず顧客を増やせない事業がある。
「サービスは良かった」「製品自体の質は負けていなかった」という思い出話になる新規事業は、こうしたコンペリングイベントをつかめていないことが多い。
ただしコンペリングイベントは企業の新規事業を待ってくれない。そのため世の中の流れに合わせてスピーディーに事業を立ちげなければならない。なぜなら、時間経過によって新規事業の失敗確率が急に高くなるからだ。コンペリングイベントというのは周知のトレンドとも言える。つまり、他社よりもタイミング良く市場に参入して顧客を取ることも一つの戦略になる。
コンペリングイベントと参入タイミングを見計らう
もちろん、スピードが早ければ必ず成功するわけではない。コンペリングイベントに合わせてユーザーがどう動くのかは業界や市場によって違う。したがって、コンペリングイベントに合わせて参入や撤退のタイミングを見極めていく必要がある。
例えば、仮想通貨の広がりは大きなコンペリングイベントで、そのマイニング事業は数年前まで魅力的な事業だった。
ところが今ではマイニングに必要な設備や電気代といった投資と収入があっという間に見合わなくなり、参入数年で大きな損失を出す企業が相次いだ。コンペリングイベント自体の見誤りはなくても、参入のタイミングの見誤りによって新規事業が失敗することもある。
解決法:コンペリングイベントの特徴を分析して、戦略を立てる
失敗確率を下げるためには、対象としているコンペリングイベントの特徴を深く分析しておくしかない。スタートアップの中にはコンペリングイベントのタイミングに合わせて売却を図る企業もあるほどだ。
新規事業の立ち上げ後の2つの失敗パターン
ペインポイントとコンペリングイベントをうまく捉えて、首尾よく新規事業を立ち上げたとして、その後に見られる失敗パターンは次の2つだ。
- 経営資源の不足
- 協業判断の見誤り
大企業はスタートアップと比べて潤沢な経営資源があるが、例えばAIエンジニア不足や海外企業との競争で失敗することがある。
また参入タイミングが良いと、多くの協業話が舞い込んでくるが、それら一つ一つの交渉の積み重ねでじわじわと失敗に転落してしまうこともある。
顧客を順調に獲得し、収入を増やしたからといってもそのまま成功するとは限らないのだ。
3.経営資源の不足
新規事業の立ち上げ時は、人員も予算も限られているため、できる限り少ない経営資源で推進することが一般的だ。
ところが経営資源を必要以上に抑えてしまった結果、積極的に投資する競合企業に市場シェアをとられてしまうことがある。いわゆる「市場を見極める目があったのに競り負けた」という新規事業だ。
こうした競り負ける新規事業は撤退判断も難しく、大きな損失を出すことがある。
競合他社が他の新規事業に影響を及ぼした事例
事例を挙げると、インターネットの常時接続の黎明期、2000年代にソフトバンクが突如発表した月額固定料金のADSL事業(YahooBB)は、まさに競合他社からすれば大きな誤算となった新規事業だった。
ただし、先行企業がリスクを取ることで新しい市場を形成してくれることもある。ADSLは結果的に多くの企業のビジネスチャンスになったといえる。
解決法:外部要因の動向から最悪のシナリオを想定する
いずれにせよ、外部要因によって失敗する確率が高まる事業を立ち上げている場合は、常に外部要因つまりライバルの動向に気を配っておき、最悪のシナリオを想定して準備しておくしかない。
攻めながら守りについても考えておくことは簡単ではないが、「大失敗するよりもリスクヘッジを行っておくほうがずっとマシ」と考えて欲しい。
4.協業判断の見誤り
新規事業を発表して以来、引き合いが絶えず契約がどんどん取れていく、そんなシチュエーションにあると、協業の話が舞い込んでくるようになる。協業話は良い話もあれば、そうでない話もある。
協業話について言えることは、考えている以上に多くのリソースを奪われるということだ。
協業のメリットとデメリット
舞い込んでくる協業話を真面目に対応していくと、本業がおろそかになるということも起こり得る。一方、うまく協業話をとりまとめることができれば、市場の中で勝ち馬のポジションを取ることができ、「とりあえず組んでおいた方がいい」相手としてさまざまな交渉を有利に進めることができる様になる。
この時、新規事業の担当者は以下の選択肢が発生する。
- 意図的に多くのリソースを割いて、筋の良い協業話に対応
- リソースを割くことを忌避して、自力で推進
いずれにしても、好調にスタートを切り出して顧客を獲得した新規事業が、段々と当初の強みを失って徐々に失速して、数年後には時流から取り残されるということはよく起きている。こうした失敗パターンは、協業話に行き当たりばったりで対応することが原因で発生している。
解決法:協業話のためのリソースを確保する
協業話はリソースを想像以上に削がれる。解決策は短期的な魅力だけで判断するのではなく、中期的にどういう事業に育てていきたいか、ということを決めてそこからブレずに協業をとりまとめていくしか方法はない。
新規事業担当者からすれば協業話は魅力なものだ。そこで外部コンサルタントを活用して、客観的に協業の良し悪しを評価してもらうことも一案だと覚えておこう。
短期目標と中期目標を織り交ぜながら、市場のリーダーになれる様に、協業話をまとめていくには、外部の専門性やスキルの高いスタッフを加えるなど、段階に応じて必要なリソースを確保することも重要になる。
まとめ
本記事では新規事業の失敗理由について考察してきた。振り返ると、新規事業の企画段階に2つ、立ち上げ後に2つの以下の合計4つだ。
- 顧客ニーズ(ペインポイント)の見極め不足
- 市場参入タイミング(コンペリングイベント)の見誤り
- 経営資源の不足
- 協業判断の見誤り
企画段階のペインポイント見極め不足とコンペリングイベント深掘り不足は、新規事業の立ち上げ初期段階では致命傷になりかねない。
また首尾よく新規事業を立ち上げて、顧客を獲得できたとしても、経営資源の適切な投下不足や協業話の適切な捌きができれなければ、中期的には失敗確率は高まっていく。
もちろん、失敗要因は上記以外にもさまざまだが、一見当たり前に見えるこうした失敗理由への対処を準備できていることで成功確率は向上していく。
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