リスキルとは?企業が押さえるべき人材育成の意味・メリット・施策を解説
公開日:2022.11.17更新日:2025年6月18日

目次
なぜ今「リスキル」が企業に求められるのか
近年、「リスキル(Reskill)」という言葉を耳にする機会が増えました。
これは単なるバズワードではなく、変化の激しい時代を生き抜くために企業が本質的に向き合うべき「人材戦略」の一つです。
急速なデジタル化、生成AIの普及、少子高齢化による労働力不足など、企業を取り巻く環境は複雑化しています。
こうした中で、従来のスキルセットだけでは立ち行かない場面が増えており、現場に即したスキルを柔軟かつ継続的にアップデートする必要性が高まっています。
特に注目すべきは、「既存の社員」に対して新しいスキルを付与するという視点です。
新たな人材を採用するのではなく、現在の戦力を再構成・再教育することで、社内の知見や文化を活かしながら企業変革を推進する。
この流れこそが、リスキルの根幹にあります。
本記事では、リスキルの意味や「リカレント」との違いを押さえた上で、企業が実務レベルで取り組むためのステップや施策、導入事例を解説します。
人事や経営企画、教育部門の方にとって、戦略的にリスキルを活用するための実践的なヒントとなることを目指します。
リスキルとは?リカレントとの違いを整理
「リスキル(Reskill)」とは、企業内の既存社員が新たなスキルや知識を習得することを指します。
たとえば、事務職の社員がデータ分析やプログラミングなどのITスキルを学ぶようなケースが該当します。目的は、職務の変化に対応できるようスキルを更新し、企業競争力を高めることです。
一方で、しばしば混同されがちなのが「リカレント(Recurrent)教育」です。
リカレントとは、働きながら定期的に学び直す“生涯学習”のようなもので、既に持っている知識や技術を再習得・再整理することに重きが置かれます。例えば、キャリアの節目で大学に戻って専門分野を学び直すような活動が該当します。
比較項目 | リスキル | リカレント |
学習の目的 | 新しいスキルの習得 | 既存スキルの再習得 |
タイミング | 職務変化に応じて随時 | キャリアの節目など定期的に |
学習スタイル | 働きながら(オン・ザ・ジョブ) | 一時的に業務を離れて学ぶ場合も |
このように、リスキルとリカレントは似ているようで明確な違いがあります。
企業としては「どちらを目的とするのか」を見極め、社員のキャリア段階や事業の方向性に応じて使い分けることが重要です。
リスキルが注目される社会背景と企業課題
企業がリスキルに取り組むべき理由は、単なる流行や制度導入の波ではありません。背景には、構造的な社会変化とビジネス環境の急激な変容があります。
① デジタルシフトの加速とDX人材の不足
新型コロナウイルスの影響も相まって、業務のオンライン化やAI・データ活用といったデジタル化が急速に進展しました。しかし、その流れに対応できるデジタル人材は深刻なほど不足しており、即戦力となる人材の採用はコストも時間もかかります。
その結果、既存社員のスキルを再構成する=「リスキル」が、より現実的かつ戦略的な選択肢となっているのです。
② 働き方・キャリア観の変化
「人生100年時代」と言われる現在、キャリアは一度学んで終わりではありません。特に中堅・ベテラン層においても、柔軟なスキル更新が求められるようになりました。
これまで人材育成は若手中心でしたが、今や中高年層にも継続的なスキル開発の機会を設けることが、組織力の維持に直結する時代です。
③ 自己啓発に頼らない「組織的な学習機会」の必要性
「学ぶかどうか」は個人任せにしていては、タイミングや負荷の差が生まれ、組織全体としての底上げにはつながりません。特に業務と並行してスキルを習得する場合、企業側の制度設計と支援体制が不可欠です。
このように、リスキルは人材開発の新しい選択肢というだけでなく、「変化に耐え得る組織づくり」の一環として、あらゆる業界で注目されているのです。
リスキル導入のメリットと注意点
リスキルは企業にとってコストを伴う投資である一方、得られるリターンも大きく、戦略的に取り組む価値があります。ここでは、導入による主なメリットと留意すべきデメリットを整理します。
リスキル導入の主なメリット
1. 社員のキャリアアップとモチベーション向上
新たなスキルを身につけた社員は、自信や達成感を得ることができ、仕事への主体性や満足度も高まります。キャリアの可能性を広げることで、中長期的な定着やパフォーマンス向上にもつながります。
2. 新市場への対応力を高める
業界トレンドや技術革新に即応するスキルを組織内に備えることで、新規事業やサービス開発の推進力になります。リスキルはイノベーションを支える土台とも言えます。
3. 生産性の向上
たとえば、業務の自動化ツールを習得すれば、ルーティン業務を削減し、高付加価値な業務へリソースをシフトできます。リスキルは、限られた人材リソースの中で成果を最大化する手段です。
4. 採用コストの削減
外部から新しい人材を雇うよりも、既存社員を戦力化するほうがコスト・文化適応面で効率的です。即戦力化と離職防止の両立を図れる点で、経営効果も高い取り組みです。
導入時の注意点・デメリット
1. プレッシャーによる心理的負荷
スキル習得を「義務」と捉えられてしまうと、過度なストレスやモチベーション低下につながる恐れがあります。選抜や評価制度に対しても慎重な設計が求められます。
2. 時間と業務の両立が難しい
リスキルは、通常業務と並行して進めるケースが多いため、繁忙期には学習が進まない、または業務に支障が出るリスクもあります。あらかじめ業務調整や支援体制を整えることが不可欠です。
3. スキル習得後の「流出リスク」
学んだスキルを武器に転職されるのでは、という懸念は少なからず存在します。しかし、習得スキルを活かせる環境整備や、キャリア支援体制の構築によって防止は可能です。
4. 導入準備に工数がかかる
対象者の選定、プログラム設計、研修手配など、導入初期は部門横断的な調整が必要です。人事部門だけで完結させず、各部門との連携フローを事前に描いておくとスムーズです。
リスキルは万能薬ではありませんが、環境と制度設計次第で企業全体の変革を後押しする大きな武器となります。
次章では、実務レベルでリスキルをどう進めるべきか、その具体ステップを解説します。
リスキルの実務的な進め方 現場で機能する3ステップ
リスキルを効果的に進めるには、理念だけでなく、実務に即したステップ設計が欠かせません。ここでは、企業がリスキルを導入する際に押さえるべき3つのステップを紹介します。
ステップ1 目的と必要スキルの明確化
最初に重要なのは、「なぜリスキルを行うのか?」という目的を明確にすることです。
企業の経営課題や事業戦略と接続し、「必要となるスキルセット」を可視化することで、社員の理解や納得感も得られやすくなります。
部署ごとに必要なスキルを洗い出す、現場のニーズをアンケートで把握するといったプロセスを設けると、より実態に即した設計が可能です。
ステップ2 学習機会と環境の整備
リスキルの効果は、学習機会の提供だけでなく、「どのような環境で学ぶか」にも左右されます。
- 業務との両立がしやすいオンデマンド型のeラーニング
- 部署間連携によるOJT型プログラム
- 短期集中型の社外研修
など、自社に合った形式を選定し、業務に支障を与えず、かつ学びが定着する工夫が求められます。
また、学びを支援する風土や制度(例:学習時間の確保、費用補助など)を整えることも、継続的な取り組みの鍵になります。
ステップ3 実践と評価の機会を設ける
スキルは学ぶだけでは定着しません。実務で活かして初めて、組織への価値として還元されます。
- 異動やプロジェクト参加による活用機会
- スキルを活かした新しい役割の提案
- 成果や成長を評価に反映する制度の整備
これらを組み合わせることで、学びを組織的に“使える知”へと昇華させることが可能です。結果的に、社員のエンゲージメント向上や、離職リスクの抑制にもつながります。
リスキルを形骸化させないためには、こうした「実務に根ざした運用設計」が不可欠です。
次章では、人事施策としてリスキルをどう制度化すべきか、具体的な施策設計の観点から解説します。
人事担当が押さえるべき施策設計と制度づくり
リスキルは「人材開発の取り組み」であると同時に、「制度設計」が必要な経営施策でもあります。
ここでは、人事部門を中心に企業が整備すべき主な制度や仕組みを紹介します。
① 評価制度と連動させる
スキルを習得しても、それが評価や報酬に反映されないと、社員のモチベーションは維持できません。
学びの成果を適切に可視化し、昇進・昇格・報酬への反映が明確な評価制度と連動させることが重要です。
たとえば、特定のスキル獲得に対するインセンティブ付与や、スキルグレード制度の導入などが有効です。
② キャリアパスの柔軟性を確保する
せっかく新しいスキルを習得しても、それを活かせるポジションがない場合、社員の成長は停滞してしまいます。
部署異動や兼務制度、プロジェクト制の導入などを通じて、多様なキャリアの選択肢を設けることが重要です。
社員の「やってみたい」「試してみたい」を受け止める体制が、リスキル定着の土台となります。
③ 出向制度や外部リソースの活用
社内に十分な機会や育成資源がない場合、外部企業への出向や越境学習の機会を設けるのも有効です。
たとえば、異業種との人材交流、スタートアップ出向、副業制度などにより、実践的なスキル獲得と刺激的な学習環境を両立できます。
形式的な座学にとどまらない「リアルな経験値」を重ねる場の提供が、今後ますます重要になるでしょう。
④ スキル選定は「現場ファースト」で
施策がうまく機能しない理由の一つに、「学ばせたいスキル」と「現場で必要なスキル」が乖離しているケースがあります。
スキル選定は、現場部門へのヒアリングやアンケートを通じて、リアルな業務課題と結びつけて設計することが基本です。
現場ニーズに基づいた学びは、活用度も高く、社員自身の納得感も生まれます。
制度や仕組みづくりは、施策を「一過性の取り組み」ではなく、「文化」として根付かせるための大切な要素です。
次章では、実際にリスキルを導入している企業事例を紹介しながら、施策の実践イメージを掴んでいきます。
企業のリスキル導入事例
リスキルは理論や制度設計だけでなく、実際の導入事例から学ぶことが多くあります。
ここでは、代表的な企業2社の事例を紹介しつつ、どのように施策が実行されているのかを具体的に見ていきます。
みずほフィナンシャルグループ オンライン講座×キャリア支援制度
みずほグループでは、社員が主体的に学ぶ文化の醸成を目的に、オンライン講座を中心とした学習支援制度を整備しています。
特徴的なのは、副業の解禁や「自分磨き休暇」といったユニークな制度を組み合わせて、時間面でも学びを支援している点です。
また、社員が獲得したスキルを実務で活かせるよう、トレーニング公募制度など「発揮の場」も設けられており、学びとキャリアを有機的に接続する仕組みが整っています。
ダイキン工業|産学連携による専門スキルの獲得
ダイキンでは、AIや情報技術の専門スキルを社員に習得させるため、大阪大学と連携した本格的な教育プログラムを展開しています。
9か月にわたる長期カリキュラムには、20〜40代の社員が幅広く参加。演習や実務適用を重視したカリキュラムによって、現場での即戦力化を目指しています。
同社では、国内外の拠点をまたいだリモートOJTも実施しており、リスキルを通じたグローバル対応力の強化にもつなげています。
補足:事例を活かす視点
成功事例から得られる示唆は次の通りです:
- 「学びの機会」だけでなく「活かす機会」をセットで設計すること
- 社員のライフスタイルや希望を尊重した、柔軟な制度設計が求められること
- 社外との連携やリモート環境を活用することで、スケールと質を両立できること
自社の業種や人員構成に合わせてカスタマイズすることが、事例を自社の戦略に活かすポイントです。
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次章では、こうした施策や制度が定着し、社員に活用されるために必要な「仕組みづくり」の考え方をまとめます。
まとめ:社員が納得し、活用されるリスキル施策へ
本記事では、「リスキルとは何か?」という基本的な理解から、実務に落とし込むためのステップ、制度設計、そして企業事例までを紹介してきました。
改めて重要なポイントを振り返ると、以下の3点に集約されます。
- 目的と現場課題に基づいたスキル設計
リスキルを成功させるには、「学ばせたいスキル」ではなく、「現場で求められているスキル」に寄り添った設計が不可欠です。
経営視点だけでなく、現場の声を反映した柔軟なプログラム設計が、納得感と実効性を高めます。
- 制度化による継続性と公平性の担保
社員任せの自己啓発ではなく、評価・キャリア支援・時間確保などを制度として整備することで、継続的かつ全社的な取り組みへと昇華できます。
企業文化として学びを定着させるには、「仕組み化」が鍵です。
- 成果の“見える化”とキャリアへの接続
スキルの習得を成果として認め、それがキャリアの可能性につながると社員が実感できれば、リスキルは“投資”として受け入れられます。
「学び→活用→評価→定着」という流れをつくることが、リスキル施策の真のゴールです。
人的資本経営が叫ばれる今、リスキルは単なる教育施策ではなく、「変化に対応できる組織」をつくるための戦略そのものです。
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この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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