日本企業のDX推進における課題とは?背景や具体的対策について解説
公開日:2025.03.08更新日:2025年3月10日
DX推進の課題とは、「『無いもの』が多すぎる」という一言に尽きる。
DXの概念や理念、必要性を理解したとしても、「DX人材がいない」であったり、「予算がない」であったり、「当社にはどうすれば浸透するのかというノウハウがない」といった『無いもの』が多いことに由来するケースが大半だ。
新規事業の企画・開発・推進を専門とする当社も、これまで「当社をどうすれば変えられるのか」というオーダーに対して、新規事業の企画・開発・推進の視点で付加価値を出してきた。
今回の記事では、DX推進におけるありがちな課題を列挙し、その背景要因と具体的な対策について解説を行う。
DXとは何か:デジタルを活用して企業や業界の変革する「新しい取り組み」
企業内で言われるDXとは、デジタルを活用して企業や業界の変革する「新しい取り組み」を指す。
例えば、業務の見える化や自動化を行なうことで従来の業務プロセスを効率化したり、テレワーク推進やコミュニケーションツールの導入を行なうことで働き方を改善したり、あるいはデジタルを活用して新規事業の企画開発やビジネスモデル変革を行なったりすることだ。
DXとは何かについては、当社の記事で詳しく解説しているのでそちらも読んでほしい。
DXの現状
DXの課題について解説する前に、まず日本のDXの現状について把握したい。DXの現状は、独立行政法人である情報処理推進機構(IPA)が発行している「DX動向2024」に詳しくまとめられている。
DXの取組状況
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)「IPA DX動向2024」によれば、日本企業で「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」と回答した割合は37.5%(前年度比+10.6)と増加傾向にある。これは2022年のアメリカ企業で「全社戦略に基づいて、全社的にDXに取り組んでいる」と回答した割合35.5%を超える数値だ。
ただし、22年時点のアメリカは68.1%が「全社戦略に基づき」(全社的あるいは一部の部門で)DXを推進しているが、23年時点の日本は、「全社戦略に基づき」(全社的あるいは一部の部門で)DXを推進している割合は(増加傾向にあるが)59.4%となっている。加えて、「取り組んでいない」と回答した企業も日本企業のほうが多い。つまり、日本国内では『DXは部署ごとの取り組み』という認識がまだ残っている現状が読み取れる。
DXの成果状況
同じく、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)、「IPA DX動向2024」によれば、DXの成果状況の認識の違いも明らかになる。
DX推進の「成果が出ている」と答えた日本企業の割合は、2023年に64.3%となっており、しかも増加傾向にある。そして、「成果が出ていない」と回答した日本企業も15%まで減少していることから、日本国内ではDX推進の成果が出始めていると言える。
ただし、2022年時点のアメリカでは、「成果が出ている」と回答した米国企業が89.0%に達し。「成果が出ていない」と答えたのはわずか6.6%しかいない。
確かに国民性の違いもあるが、日本とアメリカではDXの成果に対する認識の乖離は数値から読み取れる。
日本企業のDX推進における課題
DXの現状を見ると、日本企業におけるDX推進は年々進んでいるものの、さまざまな課題に直面していることが読み取れる。
その原因は経営層の理解不足、人材不足、レガシーシステムの問題、企業文化、ROIの不透明さなど、多岐にわたる。
「DXを推進するべきか」という問いには論を待たずに「進めるべきだ」と答えられる。しかし、現実には、DX推進の具体的な方法や人材・お金などの問題によって躓きが生じるのが課題となっている構造になっている。
1.経営戦略とDX戦略の統合不足
まずDX推進が滞る最大の課題は、経営戦略に基づいた全社的な推進が進まないケースだ。
そもそも、既存の業務フローや働き方・ビジネスモデルを刷新するDX推進には、トップダウンの意思決定とボトムアップの現場の推進力が組み合わせなければいけない。
つまり、DXの成功には、「全社的な戦略」に基づく経営戦略が必要だ。従って、DX戦略との整合性が不可欠になる。
しかし、日本企業では、DXが経営の中核戦略として位置づけられていないことが多く、DX推進が各部門の個別対応に留まってしまう傾向がある。
反証として、例えば、DXに関する意思決定を行うCDO(Chief Digital Officer)の設置が進んでいる企業では、DXの評価を行う傾向が高く、戦略的なDX推進が実現しやすいことが報告されている。
2.DX人材の不足とリスキリング停滞によるスキルギャップ
もうひとつの課題として人材の問題がある。これは「そもそもDXに必要な人材がいない」という側面と人材が育たない」という側面がある。
DXを推進するためには、データ活用、AI技術、クラウド技術などの専門知識を持つ人材が必要だが、日本企業ではこのITに精通した人材が不足している。
特に「AIツールでデータ分析を行い、事業に活かせる従業員」や「現場の知見とAI知識を持ち、自社へのAI導入を推進できる人材」の不足が深刻化しており、DXの成果に悪影響を与えている。
もう一つは、企業内の人材育成だ。多くの企業がリスキリングの重要性を認識しているものの、具体的な施策や予算の確保が不十分なため、従業員のデジタルスキル向上が進んでいない。
また、DX推進スキル標準の「ビジネスアーキテクト」の不足が特に顕著であり、DXの全体設計を担う人材が社内にいないことがDXの進捗を妨げる要因となっている。
3.既存システム(レガシーシステム)の影響
また、老朽化した現行の既存システム(通称、『レガシーシステム』)がDX推進を阻む課題となっているケースがある。
そもそも「レガシーシステム刷新のための予算が確保できない」「ITシステムがブラックボックス化しており解析が困難」などの課題がある。
システムの維持・管理に多大なコストがかかる一方で、新しいDX施策に投資できないという状況が続いている。
また、「既存のシステムはベンダーが管理している」という役割分担も、ブラックボックス化に拍車を掛けているケースが多くある。
では、レガシーシステムをいきなり刷新すれば良いのか、と問われるとそうでもない。
なぜなら、レガシーシステムの刷新には多大なコストだけでなく、リスクが伴うからだ。
特に、大規模な企業ではレガシーシステムが肥大化し、「移行の影響度が不透明」といったリスクがDX推進の障壁となっている。
さらに、人材の課題と連動するが、システム刷新を主導できるプロジェクトリーダーの不足も課題として挙げられている。
4.組織文化・業務プロセスの壁
そして、DXがデジタルを活用した「新しい取り組み」である以上、すでに培われている組織文化・業務プロセスが課題として立ちはだかることになる。
よくあるケースとして日本企業には、紙ベースの業務や対面でのやり取りを重視する文化が根強く残っており、これがDXの推進を妨げているケースがある。
これは「そもそもアナログ文化からの脱却が困難」という課題だ。
仮に紙をデジタルに置き換えるツール導入を進めても、従来の業務プロセスが変わらなければ、DXの効果は限定的になる。
また、多くの企業では、既存のやり方を変えることへの抵抗感が強く、新しいDX施策が導入されても実際には活用されないケースが見られる。
こうなってしまうと、前述の通り、トップダウンでDXを推進しようとしても、現場の理解が得られないと形骸化することが多くある。
5.DX推進のROIが不透明
最後に、DX推進に掛かる投資利益率(ROI)が見えにくいことが、DX推進を継続する上で課題として立ちふさがる。
この課題の根幹にあるのは、「DX投資の成果が見えにくい」ことだ。
本来、DXへの投資は短期的な利益を生むものではなく、長期的な視点が求められる。
しかし、多くの企業ではDX施策のROI(投資対効果)を測る指標が確立されておらず、経営層がDX投資の価値を正しく評価できない。
これに対しては、例えば、「DXによる競争力強化の到達度合い」「デジタルサービスの売上」などの指標を設定し、定期的に評価する仕組みが必要となる。
また、特に中小企業では、DXに対する予算確保が難しく、短期間での成果を求める傾向がある。その結果、DXプロジェクトが短期間で頓挫し、継続的な改善が行われないという問題が発生している。
DX課題を解決するための具体的な対策
このように日本企業がDXを推進する上で直面する課題は多岐にわたる。
経営層の理解不足、人材不足、レガシーシステムの影響、組織文化の抵抗、DX投資の不透明性などの課題を克服し、DXを成功させるためには、具体的な対策を講じる必要があるわけだ。
そこで、以下に、実践可能な解決策を示す。
解決策1:経営層の意識改革とDXリーダーの育成
DXの推進には、経営層がデジタル技術の本質を理解し、企業全体の変革をリードすることが求められる。
しかし、日本企業では、経営層がDXを単なる「ITの導入」と理解して、戦略的な取り組みが追いつかないケースが多い。
これを解決するためには、経営陣向けのDX研修を実施し、成功事例やROI(投資対効果)の測定方法について学ぶ機会を提供することが重要である。
また、DXリーダーの育成のために、専門知識を持つ外部講師を招いたワークショップや、実践的なトレーニングプログラムを導入することが有効である。
そして、DXは単なる技術導入ではなく、企業の経営戦略と一体化させる必要がある。そのためには、DXの目的を明確にし、企業のミッションやビジョンと統合することが重要だ。
特に、DXを全社戦略に組み込んでいる企業は、そうでない企業と比較してDXの成果が出やすいという調査結果がある。
具体的には、経営層が率先してDX戦略を策定し、各部門と連携しながらKPI(重要業績指標)を設定し、定期的に進捗を評価する仕組みを作るべきである。
解決策2:DX人材の確保と育成方法
DX推進のための人材確保には、「外部採用」と「社内育成」の2つのアプローチがある。
外部採用は即戦力の確保には適しているが、高額な報酬や競争の激化により、十分な人材を確保することが難しい状況にある。
一方で、社内育成は時間がかかるものの、企業の文化や業務への理解が深い人材をDX推進に活用できるメリットがある。
企業は、自社のDX推進フェーズに応じて、両者を適切に組み合わせる戦略を取るべきである。
ただし、いずれにせよDX人材の育成には、リスキリング(学び直し)が不可欠である。
現状ではDXに関する研修を実施している企業は限定的であり、多くの企業がスキル不足を課題として挙げている。
特に、データ活用、AI技術、クラウドシステムなどのスキルを習得する機会を従業員に提供することが求められる。
これに対して、eラーニング、外部講師による研修、実践的なプロジェクト学習など、複数の方法を組み合わせて従業員のスキル向上を図ることが有効だ。
解決策3:レガシーシステムの段階的な移行戦略
多くの日本企業が、レガシーシステムの維持コストの高さやブラックボックス化によりDX推進の足かせとなっている。これを解決するためには、クラウドの活用や業務システムのモダナイズが求められる。
特に、クラウドシステムへの移行は、コスト削減と業務効率化に大きく寄与する。ただし、一気に全面刷新するのではなく、段階的に移行することでリスクを最小限に抑えることが重要である。
レガシーシステムの移行には大きなコストとリスクが伴うため、小規模なPoC(概念実証)を実施し、効果を検証しながら進めるのが望ましい。
PoCを通じて、業務に適したシステムを選定し、スムーズな移行計画を立てることで、DX推進の成功率を高めることができる。
解決策4:DX文化の定着に向けた社内変革
DXの成功には、企業文化の変革が不可欠である。特に、日本企業に根付いたアナログ志向や保守的な意思決定の仕組みを変える必要がある。
そのためには、経営層が率先してDX推進の意義を伝え、従業員がデジタル技術の活用を前向きに捉えられる環境を整えることが求められる。
一言で言えば、DX推進のためのマインドセットの改革が解決策になる。
このとき、従来の日本企業の意思決定プロセスは階層的であり、DXのスピード感と合わないケースが多い。
スピード感をあわせるためには、アジャイル開発の考え方を導入し、小規模なチームで迅速に意思決定を行いながらDXを進める体制を構築すると良い。
解決策5:DX投資の評価基準とROIの可視化
そして、DXに不可欠な投資の効果を測定するためには、適切なKPIを設定する必要がある。
例えば、DXが成功している企業では、「デジタルサービスの売上」「新規顧客獲得率」「業務プロセスの効率化率」などの指標を用いてROIを測定している。
これらの指標を参考に、自社のビジネスモデルに合った評価基準を設定するべきだ。
そして、DXは短期的な成果だけでなく、中長期的な視点での効果測定も必要になる。
例えば、短期的には「業務効率化」「コスト削減」を目標とし、中長期的には「新規事業創出」「顧客体験の向上」などを目指すとよいだろう。
こうした目標設定を行い、定期的に進捗を評価することで、DX投資の効果を最大化することができる。
DXの効果を測定するためのKPIを明確にし、長期的なロードマップを策定することが重要だ。
DX推進の成功ポイントと次のステップ
これまで述べてきた通り、DX推進には多くの課題が存在するが、それらを乗り越えるための具体的な対策を講じることで、成功へと近づくことができる。
最後に、DXを成功させるために最初に取り組むべきこと、失敗しないためのポイント、そして次のステップについて整理する。
DXを成功させるために最初に取り組むべきこと
DXを推進する上で、まずは 経営層の意識改革と明確な戦略策定 が不可欠である。DXは単なるIT導入ではなく、企業全体のビジネスモデル変革を伴う取り組みであり、経営戦略と一体化させる必要がある。
そのために、以下の3つのステップを実施すべきである。
- ステップ1:DXの目的とビジョンを明確化する
- 企業の成長戦略とDXの方向性を統合し、どのような価値を創出するのかを定める。
- ステップ2:DXリーダーの選定と育成を行う
- 経営層が率先してDXの推進を主導し、CDO(Chief Digital Officer)やDX推進チームを設置する。
- ステップ3:社内のDX人材育成とリスキリングを開始する
- eラーニング、ワークショップ、プロジェクト型学習を導入し、社内のDX推進スキルを底上げする。
失敗しないためのDX推進のポイント
DXの成功率を高めるためには、以下のポイントを押さえておくことが重要である。
- ポイント1:小規模なPoC(概念実証)から始める
- いきなり大規模なDX施策を実行せず、まずは小さなプロジェクトで試験運用し、成功事例を積み重ねる。
- ポイント2:DX推進のROI(投資対効果)を可視化する
- 「デジタルサービスの売上」「業務プロセスの効率化率」などのKPIを設定し、DXの成果を数値で測定する。
- ポイント3:企業文化を変革し、DXへの抵抗を減らす
- DXの意義を社内に浸透させ、アナログ文化や硬直的な業務プロセスを柔軟に変えていく。
- ポイント4:レガシーシステムを段階的にモダナイズする
- クラウドシステムの導入やシステムの刷新を計画的に進め、DXの障壁を取り除く。
まとめ
繰り返しになるが、DXの成功には 経営層のリーダーシップ、人材育成、レガシーシステムの刷新、組織文化の変革、投資対効果の可視化 など、多方面の取り組みが必要である。
まずは、DXの目的を明確化し、スモールスタートで成功事例を作ることが重要だ。その上で、全社的なDX戦略を策定し、持続的な改善を続ける仕組みを構築することで、企業の競争力強化につなげることができる。
DX推進は一朝一夕で完了するものではない。しかし、継続的な取り組みを通じて、新たな価値を創出し、企業の成長を加速させることが可能だ。
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この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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