AR活用事例7選 家具・建設・製造・観光・教育から学ぶ導入効果とビジネスへの応用法
公開日:2019.08.05更新日:2025年6月13日

テクノロジーの進化により、私たちの生活やビジネスは日々変化を遂げています。なかでもAR(拡張現実)技術は、ポケモンGOのようなゲーム用途にとどまらず、小売や製造、建設、教育、観光といった幅広い分野での実用化が進んでいます。
本記事では、ARの基本的な仕組みや他技術(VR・MR)との違いを押さえつつ、実際に導入して成果を上げている企業の事例を紹介します。さらに、導入を成功に導くポイントや、ビジネス価値を引き出すための視点も合わせて解説していきます。
「自社でもARを活用できるのか?」「どんな場面で効果的なのか?」といった疑問に対して、実務的な示唆をお届けします。
また、新規の事業立ち上げに関する詳細については以下の別記事で詳しく解説しています。
興味のある方はこちらもぜひご一読ください。
「新規事業の立ち上げ方とは」
目次
なぜ今ARが注目されているのか?
ARの進化とビジネス環境の変化
AR(Augmented Reality)は、現実空間にデジタル情報を重ねることで、「現実世界の体験を拡張する」技術です。近年、スマートフォンやタブレットの性能向上、5G通信の普及、WebARの登場により、ARの導入ハードルは大きく下がっています。
かつては大手企業や研究開発分野が中心だったARも、今や中小企業や自治体にも普及しつつあります。
ゲーミフィケーションや体験価値の重要性
ビジネスにおけるARの注目度が高まっている背景には、「顧客体験価値」の重要性の高まりがあります。
たとえば、家具の「試し置き」や観光地での「ARガイド」、店舗での「プロモーション体験」など、ARを通じて商品やブランドに対する“記憶に残る体験”を提供できる点が評価されています。
このように、「ただ伝える」から「感じさせる」へとマーケティングの軸が変化している中で、ARはその中核を担う存在となりつつあります。
AR・VR・MRの違いとそれぞれの特徴
AR(拡張現実)とは:現実に「情報を重ねる」技術
AR(Augmented Reality)とは、「拡張現実」と訳される通り、現実の空間にデジタル情報を重ねて表示する技術です。スマートフォンやタブレットのカメラを通じて現実世界を映し出し、そこにCGやテキスト、3Dオブジェクトなどを重ねることで、ユーザーに“拡張された現実”を提供します。
代表例としては「ポケモンGO」や「IKEA Place(家具の試し置き)」などがあり、日常の空間に仮想情報を融合することで、直感的な理解や視覚的なシミュレーションが可能になります。
VR(仮想現実)との違い:全く別の世界を体験する
一方で、VR(Virtual Reality/仮想現実)は、現実を遮断し、ユーザーを完全に仮想世界に没入させる技術です。専用のヘッドマウントディスプレイを装着し、360度のCG空間に入り込むことで、仮想のアトラクションやバーチャルオフィスなどを体験できます。
ARとの違いは、現実世界が主体か、仮想世界が主体かという点です。ARは「現実の延長」、VRは「仮想の置換」という構造を持っています。
MR(複合現実):ARとVRの融合的な存在
さらに近年では、MR(Mixed Reality/複合現実)という技術も登場しています。MRはARとVRの要素を統合し、現実世界と仮想空間がリアルタイムで相互作用する環境を構築するものです。
たとえば、現実の机の上に3Dモデルの製品を配置し、その場で操作や分解、データ連携まで可能にするようなインタラクティブな体験が可能です。Microsoft HoloLensのような専用デバイスを使うことで、MRの真価が発揮されます。
補足:どの技術が「ビジネス向き」か?
- AR:ユーザー自身の現実世界をベースにできるため、業務支援や店舗体験など実務的活用が多い
- VR:仮想展示会や研修・教育など、空間を丸ごと再現したいケースに適している
- MR:製造・設計・遠隔支援など、現実×データを同時に扱いたい高度な業務で有効
業界別 AR活用の実践事例と導入効果
AR技術は、業界によって活用の目的や成果が異なります。この章では、小売・建設・製造・観光・教育の5つの分野に分けて、具体的な導入事例とその効果を紹介します。
小売・家具:購入前の「試し置き」でコンバージョンを促進
IKEAやニトリでは、AR技術を活用した「家具の仮想設置シミュレーション」機能を提供しています。スマートフォンのカメラで部屋を映しながら、実物大の家具をARで“試し置き”できるため、購入前にサイズ感や色の調和を確認できます。
このような機能は、返品率の低下やコンバージョン率の向上に寄与し、「買う前に確かめられる安心感」という顧客体験の価値を高めています。
ARアプリ「IKEA Store」
建設・インフラ:施工前の完成イメージを可視化
小松製作所(コマツ)は、「スマートコンストラクション」プロジェクトの一環として、AR技術を活用した建設現場のシミュレーションアプリを展開。施工前の現場に重機や建築物の完成形を重ねて表示し、配置計画や動線の検証が可能です。
これにより、設計ミスの早期発見や進行管理の精度向上といった、業務効率化の効果が得られています。
参考資料:コマツとカヤック、AR技術「Tango」活用 建設現場向けアプリを開発中
製造業:作業支援・トレーニング・品質管理に活用
製造業では、AR技術がさまざまなフェーズで活用されています。
三菱重工では、作業者がHoloLensを装着し、製品上に作業手順や部品情報をARで表示することで、作業効率の向上やヒューマンエラーの防止に貢献。ARを活用したトレーニングにより、技術継承や教育の効率化も実現しています。
またAGCでは、設備導入や開発現場でのレイアウト確認や動線検証にARを活用。スマホやタブレットで3Dモデルを重ねて表示し、関係者間の情報共有や意思決定の迅速化を図っています。このように、ARは製造現場だけでなく、開発・設計段階でも活用が進んでいます。
観光・自治体:AR体験で地域の魅力を伝える
熊本県阿蘇市や熱海市では、観光プロモーションにARを導入。スマホアプリを通じて、観光名所にARキャラクターを表示したり、歴史的背景をナビゲートしたりと、来訪者の体験価値を高めています。
従来のパンフレットでは伝わりにくい「臨場感」や「物語性」を持たせることで、地域ブランドの強化や周遊促進につながっています。
教育機関:生徒の理解促進と体験型学習の推進
例えばN高等学校では、Blenderなどの3DCGツールを使い、生徒が世界遺産を3Dで再現し、AR技術で校内に表示する「ARプロジェクト」を実施。歴史や文化を立体的・視覚的に学ぶ体験が実現されています。また、分子構造などの抽象概念を3Dで理解できるバーチャル教材も活用されています。
一方大阪府立三島高等学校では、教員作成の解説動画をARで副教材に組み込み、スマートフォンで教材にかざすと動画が再生される仕組みを導入。家庭学習でも能動的な学習体験が可能です。
ARは複雑な情報を直感的に伝えられるため、理解促進や学習意欲の向上に貢献。STEAM教育やオンライン授業との親和性も高く、さらなる活用が期待されています。
ポイント整理:業界別に見るARの導入効果
小売 | 試し置き・購買支援 | コンバージョン率向上、返品率低下 |
建設 | 現場シミュレーション | 設計ミス削減、工期短縮 |
製造 | 作業支援・教育 | 技術継承、ミス削減、効率化 |
観光 | 情報提供・体験拡張 | 来訪促進、ブランド強化 |
教育 | 理解促進・興味喚起 | 学習効果向上、参加率増加 |
AR導入を成功させるためのポイント
ARをビジネスに活用する際、単なる技術導入ではなく、「体験設計」「業務への統合」「効果測定」という3つの視点が極めて重要です。この章では、ARの導入を実務で成功させるために押さえるべきポイントを整理します。
■ユーザー体験を軸にしたAR設計を行う
ARの強みは「視覚的・直感的な体験価値」にあります。そのため、導入前に明確にすべきことは、「誰に」「どのような価値を届けたいか」です。
例えば家具業界では、「購入前にサイズ感を確認したい」という不安を解消する体験がARの主役です。建設業界では「施工前の完成イメージ」が体験価値になります。
導入前に問いたい3つの視点:
- このAR体験で何を“解決”するのか?
- 既存の手段と比べてどう優れているのか?
- ユーザーは自然に使いこなせる設計になっているか?
ユーザーの行動や心理に寄り添った設計こそが、AR導入の成否を分けます。
■業務プロセスとの親和性とKPIの設計
導入を形骸化させないためには、業務フローへの統合と成果指標(KPI)の設定が不可欠です。
例えば小売業なら「試し置き機能の利用率」や「利用後の購入率」がKPIとなります。製造現場であれば「作業効率」「教育時間の短縮」などの指標が適切です。
導入効果を可視化できるようにすることで、経営層や現場を巻き込みながらPDCAを回す体制を築けます。
■進化するAR技術とツール選定のポイント
AR技術は日々進化しており、導入目的に応じた技術選定も成否に直結します。以下は代表的なAR技術です:
技術名 | 特徴 | 主な用途 |
WebAR | アプリ不要。URLからAR体験可 | 広告・販促・イベント |
マーカーレスAR | 空間認識で自由配置可 | 家具配置・工場レイアウト |
VPS(Visual Positioning System) | 屋外位置情報の高精度表示 | 観光・屋外ナビゲーション |
LiDARスキャン | 高精度な空間計測 | 建設・製造の現場再現 |
目的に応じて「軽量かつ広く使えるか」「空間認識の精度が必要か」などの観点で選定することが重要です。
実務者向けのワンポイント
- マーケ視点:「ARは体験がシェアされる」ことで広がる。SNS連携やスクショ機能も忘れずに。
- DX視点:ARは単独ではなく、CRMや販売データとの連動によってROIが最大化される。
まとめ ARの可能性をビジネスに活かすために
AR(拡張現実)は、単なる技術トレンドを超えて、実際の業務課題を解決し、顧客体験を高める実践的なツールとして急速に定着しつつあります。
小売業においては「購入前の不安を解消」し、建設業では「施工リスクを低減」、製造業では「作業精度の向上」を実現。観光や教育の分野では、“体験を通じた学び・共感”という本質的な価値を生み出しています。
■AR活用に成功する企業が押さえている3つの視点
- 体験価値設計:ユーザーの「不安」や「期待」に応えるAR設計
- 業務への統合:既存プロセスとの接続と成果の定量化
- 技術選定と運用体制:目的に沿ったAR手法の選定と、現場で使われる仕組み作り
ARは“導入すること”が目的ではありません。あくまで、「より良い顧客体験を設計するための手段」であり、それを業務と結びつけてこそ、企業成長に直結する価値を発揮します。
■今がAR導入の“適温タイミング”
スマホやWebARの普及により、ARは決して高額な投資を要する特殊技術ではなくなりつつあります。
むしろ、今のフェーズは「認知拡大」と「コンバージョン改善」を両立できる数少ないデジタル施策のひとつです。
- 販売支援ツールとして
- ブランディング体験として
- 業務支援ツールとして
それぞれの文脈において、ARは既に十分な“武器”になり得ます。
フィンチジャパンからのご提案|AR導入で体験価値を高めたい方へ
私たちフィンチジャパンは、2006年創業以来、400件を超える新規事業の立ち上げと事業成長を支援し、また150社以上の既存事業の再成長支援、DX/AI推進、経営戦略の立案・実行支援を行なってきております。
こんなお困りごとはありませんか?
- 「ARを導入したいが、技術選定やROIの設計が不安」
- 「導入後、どう業務に統合して効果を出せばいいかわからない」
- 「PoCまでは進んだが、スケールできず止まっている」
- 「顧客体験を高める仕組みとして、ARをどう活かせるか知りたい」
ARは単なる映像演出ではなく、「業務課題の解決」や「顧客体験の設計」に直結する手段です。とはいえ、活用目的や組織との親和性を見極めるには、高度な戦略設計と実行支援が求められます。
私たちフィンチジャパンは、一例として以下の様なコンサルティング実績があります。新規事業の立ち上げを検討されている際はご相談ください。
- 化粧品メーカーL社:予防市場の新サービス開発(1年)
顧客体験を軸にしたデジタルプロダクト企画とPoC支援を実施 - 電気通信サービスY社:グリーンマネジメントソリューション(6年)
WebARを含むDX施策により、顧客との新しい接点を創出 - 製薬メーカーP社:新商品開発プロセス改革(約1年)
PoCの運営体制を整備し、新技術の業務組み込みを支援 - 食品メーカーR社:新カテゴリー創出(約2年)
顧客体験視点での商品開発と販促設計を支援 - ITサービスK社:事業投資のゲートマネジメント構築(2年)
新技術活用プロジェクトの評価・推進体制を設計
AR導入を「成果の出るプロジェクト」に変えるには、構想段階から現場実装までの伴走が重要です。ARを起点に事業成長を図りたい方は、ぜひ一度ご相談ください。
- 新規事業の事業計画書サンプル
- 新規事業を成功させる22のステップ
- 新規事業・商品開発
コンサルティングの成功事例 - など
この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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