社会課題の一覧から新規事業の企画を発想するためのたった1つのポイント
公開日:2018.01.22更新日:2025年6月13日
「社会課題をビジネスに変えたい」と考えたとき、どこから企画を始めるべきか?
SDGsなどの社会的テーマへの関心が高まる中、社会課題の解決を出発点とした新規事業を構想する企業が増えています。しかし、いざ事業化を検討してみると、「誰に」「どんな価値を」「どう提供するのか」が曖昧になり、企画が前に進まないケースも少なくありません。
そこで本記事では、“社会課題の一覧”から発想するのではなく、「お金を払ってでも解決したい」と願う“たった1人”を起点に発想するという視点をご紹介します。
これは、社会課題と企業の経営資源をつなげ、実現可能性の高い企画へと導く、実践的かつ再現性のあるアプローチです。
「社会貢献とビジネスの両立を、具体的な事業として形にしたい」――そんな方に向けて、考え方のフレームと事例を交えながら解説します。
また、新規事業の立ち上げに関する内容は以下の記事でも詳しく解説しています。
興味のある方はこちらもぜひご一読ください。
「新規事業の立ち上げ方とは」
目次
なぜ「社会課題からの発想」は事業化が難しいのか?
社会課題をテーマにした事業は、メディアや行政でも注目される機会が多く、一見すると魅力的に映ります。実際、既存の製品やサービスが結果的に社会課題の解決に貢献しているケースも多く存在します。
しかしながら、「社会課題の解決」を事業の“出発点”とした場合、それを具体的な新規事業に落とし込むのは容易ではありません。
その背景には、企業がもつ既存の経営資源――たとえば販売チャネルや広告・プロモーションの仕組み、生産設備や技術――が、「社会課題を解決する」ことではなく、「顧客のニーズに応え、利益を出す」ことに最適化されているという現実があります。
つまり、社会課題は抽象的で広すぎるため、そのままでは事業に変換しづらいのです。
新規事業として具体化するには、「誰のどんな困りごとに、どんな方法で価値を提供するか」という視点にまで落とし込む必要があります。
SDGsやNPOのリストを「発想の出発点」として使う
社会課題から新規事業を構想する際にまず取り組みたいのが、“どんな課題があるのか”を体系的に把握することです。
社会課題は非常に広範で、思いつきやニュースベースでは抜け漏れや偏りが出てしまいがちです。そこで活用したいのが、SDGs(持続可能な開発目標)や内閣府のNPO活動分野の一覧です。
特にSDGsは、国連が定めた17の主要テーマに加えて、具体的なターゲットや統計データが整理されており、社会課題を網羅的に把握できる“発想のカタログ”として有効です。企画初期段階で「どのような分野があるのか」「社会的に注目されているのはどれか」を確認することで、発想の起点がつかみやすくなります。
SDGsの17分野:
- 貧困
- 飢餓
- 健康と福祉
- 教育
- ジェンダー平等
- 安全な水とトイレ
- エネルギー
- 働きがいと経済成長
- 産業と技術革新
- 不平等の解消
- 住み続けられるまちづくり
- 持続可能な消費と生産
- 気候変動への対策
- 海の豊かさ
- 陸の豊かさ
- 平和と公正
- パートナーシップ
出典:国際連合広報センター
これらのテーマは、あくまで「何に取り組むか」を発想する出発点です。次のステップでは、こうした課題を“誰が本当に解決を望んでいるのか”という視点で深掘りしていきます。
“たった1人の強いニーズ”を探す:社会課題を事業化する鍵
SDGsなどをもとに社会課題の全体像を把握したら、次に必要なのは「誰がこの課題の当事者なのか?」を具体化することです。
ここで意識したいのが、「お金を払ってでも、これを解決したい」と強く願う“たった1人”の存在を見つけるという視点です。
社会課題は広く・抽象的なものが多く、「貧困」「ジェンダー」「気候変動」などのテーマも、そのままでは企画の焦点が定まりません。しかし、「その課題に対して、金銭的な対価を払ってでも解決したい」と思っている人が実在すれば、それは明確なニーズであり、ビジネスに転換できる可能性が高まります。
この“たった1人”のニーズを起点に、
- その人はどんな状況で、どんな行動をしているのか
- なぜその課題を強く感じているのか
- どんなソリューションなら対価を払うのか
といった視点で掘り下げることで、社会課題を“解決すべき具体的な課題”に変換することができます。
次章では、このアプローチを実践した企業事例を3つ紹介します。
【事例①】貧困 × 教育熱心な親:インドのLEDランプ事例
インドの一部地域では、電力インフラが整っておらず、夜に勉強できない子どもたちが多くいます。こうした地域では、「子どもの将来のために、夜でも勉強させたい」と願う親が強いニーズを抱えていました。
この課題に着目したパナソニック社は、電気のない環境でも使える太陽光充電式のLEDランプを開発し、2014年に販売を開始。通常より高価にも関わらず、「お金を払ってでも子どもに教育機会を与えたい」と考える親たちに支持されました。
このように、「たった1人」の強いニーズに対して既存技術を応用することで、社会課題を解決する事業モデルが成立しています。
【事例②】持続可能な消費 × こだわり層:地域循環型農業の事例
高知県の土佐ひかりCDM社は、「ニラ」「無添加卵」「堆肥」の生産を地域内で循環させる農業モデルを展開しています。農薬や添加物を使わないこだわりの生産手法に対して、「少し高くても、安全で環境負荷の少ない食材を選びたい」という消費者層が支持を寄せています。
この事業は、地域資源を活かした持続可能な仕組みであると同時に、“明確な購入意欲を持つ消費者”の存在が事業を支えている点が特徴です。
単に環境問題を解決するのではなく、価値ある商品として成立する条件を見極めた例といえるでしょう。
【事例③】ジェンダー平等 × 収入機会:女性のマイクロファイナンス支援
アフリカなどの途上地域では、収入機会に乏しい女性が多く、経済的自立が難しい現状があります。そこに対して、スタートアップ「Tala」は女性の起業を支援するマイクロファイナンス事業を展開し、2017年にはシリーズBで約34億円の資金調達を達成しました。
Talaの特徴は、融資だけでなく販売管理や店舗運営などのスキル提供を通じて、女性たちが自らの手で収入を得られる仕組みをつくっている点にあります。
ここでも、「お金を払ってでも収入を得る手段がほしい」と願う女性たちという“たった1人”のニーズを軸に、社会課題がビジネスへと変換されています。
アイデアを“1人のニーズ”に落とし込む:ビジネス企画へのステップ
今後、社会課題の解決と経済的な利益の両立は、企業の新規事業における重要なテーマになっていくでしょう。投資家や消費者からも「社会的インパクトのあるビジネス」が強く求められる時代、企業は“何を解決できるのか”を明確に示す必要があります。
その出発点として、この記事で紹介してきたように、「お金を払ってでも解決したい」と願う“たった1人”を見つけることが非常に有効です。
その人物の背景、困りごと、支払意思、代替手段の有無、自社が提供できる価値などを丁寧に洗い出し、その1人にとって「本当に意味のある解決策」を設計することが、事業企画の出発点になります。
フレームで言えば、
- 【社会課題(テーマ)】
- 【その課題を強く感じている“1人”】
- 【支払意思があるか】
- 【自社が持つ技術・チャネル・ノウハウとの接点】
このように考えることで、“実現可能性”と“社会性”を両立した新規事業の種が見えてきます。
社会課題から発想したいときは、ぜひこの視点をヒントにしてみてください。
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この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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