自社で育てるデジタル人材:ITスキル向上と成果につながる育成のすすめ
公開日:2025.06.09更新日:2025年6月9日
目次
はじめに:デジタルスキルは「採る」から「育てる」時代へ
DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、業務の効率化や新規事業の立ち上げなど、企業の競争力はますます「人材のデジタルスキル」に依存するようになっています。しかし現実には、必要なスキルを持つ人材を外部から採用することは年々難しくなっており、「自社で人を育てる」方針への転換が求められています。
中でも重要なのが、社員のITスキルを段階的に向上させながら、組織全体で成果につなげていく仕組みです。ただ研修を実施するだけでは、スキルが定着せず、現場に活かされることもありません。
本記事では、企業内でのデジタル人材育成を成功させるためのステップや考え方を、ITスキル向上の観点からわかりやすく解説します。実践的なヒントとともに、継続的に成果を生み出すための育成戦略を一緒に考えていきましょう。
なぜいま「自社」でデジタル人材を育てる必要があるのか
かつては、ITやデジタル領域の専門性は外部人材を採用して補うという考え方が主流でした。しかし、デジタル技術の進化と業務への浸透が急速に進んでいる現在、あらゆる職種でデジタルスキルが求められるようになっています。そのため、特定の職種に限らず、現場全体の底上げが必要となり、「採用だけでは追いつかない」という状況が多くの企業で起きています。
さらに、採用にはコストや時間がかかるだけでなく、社内文化や業務の文脈を理解した上で活躍できる人材に育つまでに一定の時間を要します。一方で、すでに自社に在籍している社員を育てることで、既存の業務知識とデジタルスキルを組み合わせた「実行力のある人材」へと成長させることが可能です。
加えて、育成を通じて社員が自らの成長を実感できれば、エンゲージメントの向上や離職防止にもつながります。つまり、自社でのデジタル人材育成は、単なるスキルの補完ではなく、企業全体の成長力や持続可能性を高める戦略的な取り組みなのです。
デジタル人材に必要なスキルとは?
「デジタル人材」と聞くと、高度なプログラミングスキルや専門的なデータ分析力をイメージするかもしれません。しかし実際には、企業が求めるデジタル人材像は多様化しており、全社員が業務の中でデジタル技術を理解し、活用できるレベルのスキルが必要とされています。
ここでは、デジタル人材に求められるスキルを3つの視点から整理してみましょう。
1. ITリテラシー(基礎知識)
まず必要なのが、ITやデジタル技術に関する基本的な理解です。たとえば、クラウドサービスの仕組み、情報セキュリティの考え方、AIやIoTといった最新技術の概要など。これらのリテラシーがあることで、現場の業務に対しても「どこにデジタルを活かせるか」という視点が持てるようになります。
2. 業務に応用できるスキル
次に重要なのが、実務で使えるスキルです。例えば、ExcelやBIツールによるデータ分析、RPAによる業務自動化、ノーコードツールを使った業務アプリの作成など。単なる知識ではなく、「業務改善に活かす力」が問われます。
3. ビジネス変革を推進するスキル
上記に加えて、変革を担う人材には課題発見・提案力やチームで成果を出す力も求められます。単にツールを使えるだけでなく、「業務をどう変えられるか」「何を優先すべきか」といった判断力や巻き込み力も、デジタル時代には重要なスキルです。
これらのスキルは一度にすべてを習得するものではなく、レベルや職種に応じて段階的に育成していくことがポイントです。
次のセクションでは、これらのスキルをどのように育てていくのか、研修や育成ステップの設計についてご紹介します。
ITスキル向上のための育成ステップと研修設計のポイント
デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業競争力の鍵となる中、自社でデジタル人材を育成し、社員のITスキルを底上げすることが重要です。その際、効果的にスキル向上を図るためには、研修を「基礎→応用→実践」のステップに分けて段階的に行い、学んだ内容を業務の成果につなげる工夫が欠かせません。以下では、ITスキル向上のための育成ステップと、研修を設計するうえでのポイントについて具体的に説明します。
ステップ1:基礎ステップ – ITスキルの土台作り
まずは全社的に基礎的なITスキルの習得から始めます。社員がデジタル技術に苦手意識を持たず業務に活用できるよう、リテラシーレベルの底上げを図ります。具体的には、社内共通で必要となる基本的なIT知識やスキル(例えば、オフィスソフトの活用方法、情報セキュリティの基礎、データ分析の初歩など)について研修を実施します。
また、専門用語や最新のデジタルトレンドに触れる場を設け、デジタルへの理解とマインドセットを養うことも重要です。社員がIT活用の重要性を理解し、自ら学ぶ意欲を持つようになれば、次のステップへの下地ができます。
- 基礎研修の具体例: 全社員対象のeラーニングによるITリテラシー講座、ビジネスチャットやクラウドツールの使い方研修、社内システムの基礎トレーニング、基本情報技術者試験レベルの知識習得 など
ステップ2:応用ステップ – 実務で活かせるスキルの習得
基礎を習得したら、次に応用的なITスキルの研鑽に進みます。この段階では、業務で直接役立つ技術の習得や、より高度なツールの使いこなしに焦点を当てます。研修内容は自社の事業戦略や部門ニーズに沿って設定し、社員が実務で直面する課題をITで解決できる力を養うことが目的です。たとえば、データ分析を強化したい企業であれば、社内データを用いた分析ワークショップやBIツールのハンズオン研修を行います。
IT部門以外の社員にもプログラミングの基本やノーコードツール利用法を学ばせ、各部署で業務効率化やDX推進の担い手になってもらう取り組みも効果的です。
- 応用研修の具体例: 部門横断チームでの課題解決型ワークショップ、外部講師を招いたクラウドサービス活用セミナー、社内ハッカソンによる業務アプリ開発体験、データサイエンスやAI活用の実践トレーニング など
ステップ3:実践ステップ – OJTによる現場でのスキル定着
研修で身につけた知識・スキルは、実践の場で使ってこそ定着します。最終ステップでは、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を通じて実際の業務に新たなスキルを適用し、成果に結びつけます。具体的には、研修修了者をプロジェクトにアサインし、現場でDX推進の役割を担わせます。例えば、営業部門の社員が研修で学んだデータ分析手法を用いて顧客データの傾向を可視化し、営業戦略を提案するといったプロジェクトに参加するケースがあります。
また、製造現場では習得したIoTやRPAの知識を活かして生産ラインの効率化に取り組むなど、実務を通じたトライアルを行います。OJT期間中はメンターや上司が伴走し、試行錯誤を支援することで、社員は失敗を恐れず挑戦でき、スキルの定着と自信の向上につながります。
- 実践の具体例: 研修参加者が中心となる社内DXプロジェクトの立ち上げ、新システム導入チームへのジョインによる現場研修、現場課題(業務の自動化やサービス改善など)をテーマにした社内コンテストの開催 など
研修設計のポイント
以上のステップを効果的に機能させるには、研修全体を戦略的に設計することが欠かせません。研修体系を構築する際には、次のポイントを意識しましょう。
- 経営戦略と連動した育成計画: 企業のDX戦略や目標に沿って育成のゴールを設定し、それに基づき研修の内容と順序(基礎→応用→実践)をデザインします。トップマネジメントが育成の重要性を示し、一貫した方針を打ち出すことで、社員のモチベーションも高まります。
- 段階的かつ継続的な学習機会: 基礎知識の習得から実務での応用まで、段階ごとに学習機会を用意します。Off-JT(集合研修やオンライン学習)とOJTを組み合わせ、研修後も学び続けられる仕組みを用意しましょう。例えば、研修後にフォローアップ勉強会を開催したり、社内コミュニティで情報交換できる場を設けたりすると、学習の継続性が担保されます。
- 研修と業務の密接な連携: 研修で得た知識を職場で活用できるように、研修内容と実際の業務課題を関連付けます。研修課題を自社のプロジェクトテーマにする、研修終了後にすぐ取り組める業務改善タスクを用意するなど、学んだスキルが実務の中で発揮される設計が重要です。
- 効果測定とフィードバック: 育成施策が成果を上げているかを評価する仕組みも組み込みます。研修前後でスキル評価や業務KPIの変化を測定し、成果を見える化しましょう。例えば、受講者のITスキル診断スコアの向上や、生産性指標の改善を定量的に把握します。また、その結果を本人にフィードバックすることで、更なる成長意欲を引き出せます。
こうしたポイントを押さえた研修デザインによって、社員のITスキル向上が企業の実際の成果に直結しやすくなります。自社だけで体系的な育成プログラムを構築することが難しい場合は、戦略設計から研修体系の構築、OJTとの接続支援まで対応できる外部パートナーを活用するのも有効です。フィンチジャパンは、まさにこうした包括的支援を提供できる強みを持ち、企業のデジタル人材育成を力強くサポートします。
成果につなげる仕組みづくりと定着支援の工夫
研修や育成プログラムを実施した後に必ず問われるのが、「学んだことが実務にどう活かされているか」という点です。
どれだけ優れたカリキュラムを導入しても、現場に定着しなければ投資対効果は得られません。ここでは、ITスキルを業務成果へと結びつけるために有効な「定着と活用の仕組みづくり」について紹介します
成果につなげる仕組みづくりと定着支援の工夫
研修や育成プログラムを実施した後に必ず問われるのが、「学んだことが実務にどう活かされているか」という点です。
どれだけ優れたカリキュラムを導入しても、現場に定着しなければ投資対効果は得られません。ここでは、ITスキルを業務成果へと結びつけるために有効な「定着と活用の仕組みづくり」について紹介します。
1. スキル活用の「場」を意識的に設計する
研修で得たスキルを放置せず、業務で活用する場を意図的に用意することが第一歩です。例えば以下のような施策が有効です:
- 研修後にミニプロジェクトや課題解決テーマを与え、実践の場を作る
- 学んだツールや知識を使ってチーム内での小改善活動を提案・実施させる
- 成果発表会や社内勉強会でアウトプットの機会を持たせる
これにより、学習内容が「自分ごと」になり、自然と定着していきます。
2. メンター制度やピアサポートによる継続支援
学びの継続には孤立させない環境づくりが重要です。
たとえば研修後にメンターや先輩社員が伴走し、困りごとや不明点を気軽に相談できる環境を整えることで、学習への心理的ハードルを下げられます。
また、同時期に育成を受けた社員同士でナレッジを共有する場(Slackグループ、ランチ会など)も、学び合いと実践のモチベーションにつながります。
3. 育成効果を「見える化」する評価とフィードバック
研修やスキル育成の成果が、目に見える形で社内に伝わらなければ、評価も次の投資も得にくくなります。そこで重要なのが、スキルや行動の変化を定量・定性で見える化する仕組みです。
- スキルチェックリストや自己診断ツールによる前後比較
- 上司からのフィードバック記録
- 導入ツールの使用頻度や業務改善効果の定量把握(例:RPAによる時短)
こうした「成果の見える化」は、育成の社内価値を高めるだけでなく、社員自身の成長実感にもつながります。
4. 経営視点からの連携と仕組み化
最後に、これらの仕組みが一時的なものにならないよう、人事・現場・経営が連携した仕組み化が求められます。
- 人事が育成の全体設計を担い、現場部門が実行の主役に
- 育成施策の成果を経営層へ定期報告し、方針とのすり合わせを実施
- 成果を基に、翌年以降の育成方針や制度改善へ反映するPDCAの設計
こうした全社的な連動により、ITスキル向上は一過性の研修イベントではなく、企業の成長サイクルに組み込まれた仕組みとして定着していきます。
まとめ: ITスキル育成は、企業の「持続力」を支える戦略である
デジタル技術の進化とともに、企業に求められるスキルは常に変化し続けています。こうした時代において、社内にデジタルスキルを持つ人材がどれだけいるかは、単なる業務効率の話にとどまらず、企業の持続的成長や変化対応力そのものを左右する要素です。
本記事では、ITスキル向上のための3ステップ(基礎→応用→実践)と、それを支える育成設計のポイント、さらにスキル定着のための仕組みづくりについて紹介しました。
重要なのは、こうした育成を単なる教育プログラムとしてではなく、経営と直結した「人材戦略」として捉えることです。現場に根づき、成果に結びつき、次の変革へつながる。そうした「人づくりの仕組み」が社内にあるかどうかが、DXの成否を分けるといっても過言ではありません。
自社の状況に応じた戦略的な育成計画を描き、ITスキルを「成果に変える」ための具体的な支援体制を整えること。それが、今後の競争環境を生き抜くための鍵になるのです。
フィンチジャパンからのご提案|ITスキル育成を「現場定着」させる仕組みづくりをお考えの方へ
私たちフィンチジャパンは、2006年創業以来、400件を超える新規事業の立ち上げと事業成長を支援し、また150社以上の既存事業の再成長支援、DX/AI推進、経営戦略の立案・実行支援を行なってきております。
こんなお困りごとはありませんか?
- 「研修は実施したが、現場での活用につながっていない」
- 「どのレベルの社員に、どんなスキルを身につけさせればいいかわからない」
- 「ITスキル向上を経営成果にどう結びつければよいかイメージできない」
- 「一過性の研修ではなく、定着・実践までを見据えた育成体系をつくりたい」
社員のデジタルスキルを向上させるには、段階的な設計と、現場での実践機会を含めた“仕組み化”が欠かせません。単なる集合研修やeラーニングにとどまらず、「業務に活かせる」「自走できる」状態に導くための設計が、いま企業に求められています。
私たちフィンチジャパンは、一例として以下の様なコンサルティング実績があります。新規事業の立ち上げを検討されている際はご相談ください。
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コンサルティングの成功事例 - など
この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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