ホラクラシーとは何か?事例に学ぶ新しい組織の作り方
公開日:2019.07.25更新日:2023年4月20日
近年、「ホラクラシー」という新しい組織形態が注目を集めている。世界では靴のネット通販大手のザッポスやノートアプリで知られるエバーノート、国内では不動産ソリューションを提供するダイヤモンドメディアなどが導入している。まだ少数ではあるが、今後ホラクラシー組織を採用する企業は増えるであろうと言われている。本記事ではホラクラシー組織の特徴や本質、メリット・デメリット、導入企業の実態について説明しよう。
ホラクラシー組織は役職による上下関係が存在ない
ホラクラシー組織とは、上司や部下といった役職による上下関係が存在せず、自律的に管理されている組織形態のことである。2007年にブライアン・ロバートソン(Brian Robertson)氏が唱えたことがきっかけで、ホラクラシーという考え方が徐々に広まっていった。
ホラクラシーとは、「部分でありながら全体でもある」という意味を持つ「ホロン」という哲学の用語が語源となっている。従来型のヒエラルキー構造とは違い、マネジメント層というものは存在せず、個々に意思決定の裁量が認められているのが大きな特徴だ。
ホラクラシー組織の3つのメリット
次世代型経営といわれるホラクラシー組織には次のようなメリットがあると言われている。
- 迅速な意思決定と責任感の向上
- 自由なワークスタイル
- 風通しの良い合理的な組織
1.迅速な意思決定と責任感の向上
ホラクラシー組織にマネジメントは存在しないため、基本的に個々のメンバーに意思決定が委ねられる。そのため個々のメンバーの責任感が高まりやすい。また、現場レベルで適したメンバーが都度判断を行うことになるので、意思決定が早い傾向にある。
2.自由なワークスタイル
勤務時間や勤務場所など自分で自由に決定できるのもホラクラシー組織のメリットの一つである。ホラクラシー組織の企業の中には副業や起業を推奨している会社もあるほどだ。昨今では、ワークライフバランスを考慮した働き方が推奨されており、そういった風潮にも合致するだろう。
3.風通しの良い合理的な組織
上下関係がなく、ほとんどの情報が社内で共有されているため、組織の風通しがよい。そのため、意見やアイデアの交換がしやすい。また、必然的に能力が適した人材のみが残る組織構造になっているため、組織的な合理性が高いなどのメリットもある。
■ホラクラシー組織の3つのデメリット
ホラクラシー組織を採用している企業はまだ多くはない。それはホラクラシー導入にはデメリットもあるからだ。
- 情報漏洩リスク
- 組織統率力が低下する可能性
- 人材の偏り
実際にどのようなデメリットがあるのか見てみよう。
1.情報漏洩リスク
ホラクラシー型の組織では、社内情報をすべてオープンにする必要がある。オープンでなければ個々の意思決定に際して歪みが生じるからだ。しかし、多くの人間が重要な情報にアクセスできるということは、機密情報漏洩のリスクが高まることを意味する。
2.組織統率力が低下する可能性
ヒエラルキー組織の場合は命令系統ができているので、上司の一声で組織を統率することが可能だ。しかし、ホラクラシー組織の場合、指示命令を司るマネジメントが不在であるため、まとまりのない組織になりかねない。
つまり、プロジェクト毎に適したメンバーがリーダーシップを発揮して役割を担うにしても、それが適切に機能するには時間がかかることも起こりうる。
3.人材の偏り
ホラクラシー組織に合う人材は、周囲からの客観的な評価がしやすい技術職や周囲と協調しながら仕事を進めることが得意なプロデューサー型の人材であり、組織としてスキルの偏りが生じやすい。しかし、その一方でホラクラシー組織を好む人材は一般的に優秀で向上心が高く、個性の強い人材も多い。
特に新規事業の立ち上げなどではこうした人材がキーパーソンになることが多いが、ホラクラシー組織では目標やベンチマークになる管理職やマネジャーがいないため自律した成長が求められる。また、自我が強い人材は風土に合致しないだろう。こうした人材の偏りは長期的に見て企業能力の低下に結びつく可能性がある。
ホラクラシー組織の導入事例:ザッポス社
次に、ホラクラシー組織の導入事例を紹介したい。世界を見渡せばすでに導入済みの企業は多々あるが、ここでは企業規模で群を抜くザッポス社を例に紹介したい。
ザッポス社とは、1999年に創立されたアメリカのラスベガスに本社を置く、アパレル関係のネットショップを運営する企業である。2009年にアマゾン傘下になったが、そのまま独自の経営体制を取り、2014年にはホラクラシー組織が全社的に採用した。
1500人規模でのホラクラシー組織運用
ザッポス社のホラクラシー組織における大きな特徴は、その規模である。
ザッポス社の社員数は約1,500人であり、ホラクラシーを忠実に導入した企業としては抜きん出て社員数が多い。ホラクラシー型経営が目指すゴールは「社内に存在する対立や私利私欲を一切取り除き共通の価値観だけで求心された経営」である。
ホラクラシー組織は強いビジョンによって導かれる少人数のスタートアップや、テクノロジー中心で集まるテック系企業にこそ適合しやすいと考えられるため、ザッポス社の試みは極めて大胆だったと言えるだろう。実際にザッポス社がホラクラシー組織を導入した際には、マネジメント層を含む約200人の社員が一気に退職するなどの問題も発生した。
役職部署ではなくロール(役割)による意思決定
その後、従来のヒエラルキー組織を廃してホラクラシー組織に移行したザッポス社では、意思決定はそれぞれのロール(=役割)に任されることになった。社員一人ひとりが明確なロールを与えられており、ヒエラルキー組織の時よりも、職務の明確性が高くなった一方で、裁量の自由度が高くなったと言われている。
特に「リードリンク」と呼ばれるロールが重要な位置を占める。リードリンクは、資金配分や企業の方向性の共有といった、組織全体の目的実現に大きく関与している。
ただ注意すべきは、リードリンクが他のロールに指示を出すことは許されないということだ。あくまで、それぞれのロールが組織内で上手く機能するための環境調整をすることに注力する。
このように、ザッポス社はホラクラシー組織を採用して、徐々に新しい体制に適合していっているが、ホラクラシーが生み出す自浄効果が情報漏えいリスクや人材の偏りなどのデメリットを上回ることになるのか、まだその結果は明確にはなっていない。しかし、ザッポス社規模の企業がホラクラシー型経営への転換したことによって、企業としての継続的成長と持続的な競争力を実現できるのであれば、今後さらにホラクラシー組織が広がるきっかけになり得るだろう。
まとめ
ホラクラシー組織には、マネジメントが存在しないという特徴があり、メリットもあればデメリットがある。自律的統治体制のホラクラシー型経営における究極的な本質は次の3つだ。
- 組織内のコンフリクトや調整といった無駄をカット
- 本来やるべき業務内容にのみ能力を最適化
- 市場や顧客に集中することができる
しかし、これまでホラクラシー型経営が適しているのは、主に小規模な企業や技術職だと考えられていて、大企業での導入は一概に良い面ばかりというわけにはいかないと言われていた。
しかし安定と自由や裁量を求めるミレニアル世代にとって、自由なワークスタイルと自主性の両方を実現できるホラクラシー組織は活躍しやすい組織形態であるともいえ、迅速な意思決定が可能であるという側面から見れば、新規事業などのチャレンジにも向いている。そのため、組織論としてノウハウが蓄積されてくれば、ホラクラシー組織は、規模によらず次世代型の経営スタイルとして注目されてくる可能性は大いにあるだろう。
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この記事の監修者
株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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