「作って終わり」にしない中期経営計画の作り方|実践できる5つのステップ
公開日:2025.05.07更新日:2025年5月7日
目次
VUCA時代の中期経営計画とは?その目的と重要性
中期経営計画とは、企業が3年〜5年程度の中期的な視点で描く経営の方針や行動計画のことを指します。目先の売上や短期の施策だけにとらわれず、将来に向けてどのように会社を成長させていくかを明文化したものです。
短期・長期経営計画との違い
経営計画には「短期」「中期」「長期」といったスパンがあります。たとえば、短期計画は1年程度の事業計画で、今期の売上目標や具体的な業務の進行計画を指します。一方、長期計画は10年以上のビジョンを描くこともあり、企業理念や将来的な市場での立ち位置を示すものです。
中期経営計画はその中間的な位置づけにあり、経営理念や長期ビジョンを実現するために「今、何をすべきか」「どのように進めていくか」を戦略的に整理する役割を果たします。いわば、日々の事業活動と企業の将来像をつなぐ“架け橋”となるものです。
なぜ今、中期経営計画が求められるのか?
VUCA時代である近年は、市場環境の変化がますますスピードを増しており、「過去の延長線上に未来を描く」ことが難しくなっています。その中で、企業が持続的に成長していくためには、「柔軟性を持ちながらも方向性のブレない」経営が求められています。
VUCA時代に中期経営計画を持つことは、単に経営層の意志をまとめるだけでなく、従業員やステークホルダーと“未来の共通認識”を持つための重要な手段でもあります。
また、以下のような場面でも中期経営計画は大きな意味を持ちます。
- 新規事業の立ち上げや既存事業の再編を検討するタイミング
- 融資や投資を受ける際の事業計画として
- 社内での目標共有や、部門間の連携強化に活用する場合
つまり、中期経営計画は「外部向けの説明資料」としてだけでなく、「社内の一体感を生み出す経営の地図」としても大きな役割を果たすのです。
中期経営計画の作り方5つの実践ステップ
中期経営計画は、思いつきや場当たり的な計画ではなく、戦略と実行を一体で考える設計図として捉えることが大切です。ここでは、実務で使える中期経営計画の作り方を、5つのステップに分けてわかりやすく解説します。
ステップ①:経営環境の現状分析(外部・内部環境)
最初に行うべきは、自社を取り巻く環境の把握です。
たとえば、業界の市場動向、競合の動き、法規制の変化といった外部要因(PEST分析など)と、自社の強み・弱み、組織体制、財務状況といった内部要因(SWOT分析など)を客観的に整理します。
現状分析は、経営戦略や数値目標を構築するための「土台」です。ここが曖昧だと、その後のすべての計画にブレが生じてしまいます。冷静かつ多角的な視点で、現在地を明確にしておきましょう。
ステップ②:中期ビジョン・経営方針の明確化
次に取り組むのが、これから目指すべき未来像の言語化です。
「3〜5年後に、どのような状態になっていたいのか?」という中期ビジョンを設定し、それに基づく経営方針(大きな方向性)を明確にします。
このフェーズでは、定性的な目標(例:「業界の◯◯ポジションを確立」「社員の挑戦を後押しする企業文化の構築」など)と、定量的な指標(売上、利益、シェアなど)を両方バランスよく盛り込むことがポイントです。
ステップ③:事業戦略と重点施策の設計
中期ビジョンを実現するために、具体的に「何を」「どのように」実行していくのかを戦略に落とし込みます。
ここでは以下のような整理が有効です:
- どの事業領域に注力するのか(新規/既存/撤退)
- 顧客への提供価値は何か(製品・サービスの進化)
- 競争優位性をどう高めるか(差別化ポイント)
また、事業ごとの重点施策を設定し、組織全体で一貫したアクションがとれるようにします。
ステップ④:KPI・数値目標とアクションプランの策定
戦略を「絵に描いた餅」にしないためには、数値に基づいた計画設計が欠かせません。
KGI(最終目標)を中心に、そこに至るまでのKPI(中間指標)を設定し、年ごとのマイルストーンを作ります。
加えて、各部門・チームに対して実行すべきアクションプランを具体的に落とし込むことで、「誰が・いつまでに・何をやるのか」が明確になります。
ステップ⑤:社内展開・運用設計まで落とし込む
最後に中期経営計画を社内にしっかりと展開し、継続的に運用できる仕組みを整えます。
どれだけ優れた計画を立てても、組織に浸透しなければ意味がありません。
具体的には以下のような工夫が求められます:
- 経営層による社内説明会や資料配布によるビジョン共有
- 各部門への落とし込みとフォロー体制の整備
- 四半期ごとの進捗レビューや改善サイクルの導入
このステップによって、「現場が動く」「社員が納得する」中期経営計画が実現します。
中期経営計画が「絵に描いた餅」にならないための注意点
中期経営計画は、ただ作成するだけでは意味がありません。立派なスライドや資料を作っても、実行されなければ「絵に描いた餅」で終わってしまいます。
ここでは、計画を“実行可能なもの”にするために押さえておきたい3つの注意点をご紹介します。
①実現可能な計画になっているか?
理想を描くことは重要ですが、現実的な制約や組織の実行力を無視した計画では、実行段階で壁にぶつかります。
たとえば、「売上を5年で2倍にする」といった目標を立てる場合、その裏付けとして「人員体制はどうするのか」「既存顧客の深耕と新規開拓のバランスはどう取るのか」といった検討が必要となります。
社内のリソース、予算、スキル、時間の観点から、きちんと“できる計画”になっているかを冷静に見直すことが大切です。
② 各部門の役割と責任が明確か?
中期経営計画は、経営層だけが理解していても成果にはつながりません。
実行の鍵を握るのは、現場の理解と行動です。
そのためには、各部門やチームに対して以下を明確にしておく必要があります。
- 何を任されているのか(役割)
- いつまでに何を達成すべきか(責任)
- 他部門との連携はどうするか(協業のルール)
このようにして、組織全体で共通認識を持つことで、計画の実行精度がぐっと高まります。
③ 柔軟な見直しと改善の仕組みはあるか?
VUCA時代で外部環境が目まぐるしく変化する今の時代、3年後の未来を完璧に予測することは困難です。そのため、立てた計画は一度きりで終わらせず、定期的にレビューし、必要に応じて見直す仕組みをあらかじめ組み込んでおくことが重要です。
たとえば、四半期ごとに進捗を確認し、以下のような視点で改善を加えていきましょう。
- WACC、ROE、PBR等の財務指標の最適化が考慮されているか?
- 上場企業では配当政策等、財務戦略に連動しているか?
- 人的資本経営の視点が考慮されているか?
- 想定と異なる市場変化が起きていないか?
- 設定したKPIが現実に即しているか?
- 新たなチャンスやリスクが見えてきていないか?
柔軟性とスピード感を持った運用が、計画を「生きたもの」として機能させるポイントになります。
中期経営計画を成功に導くための4つの視点
中期経営計画を作って終わりにせず、企業の成長と現場の行動につなげるためには、いくつかの視点が欠かせません。
ここではフィンチジャパンがこれまでの支援実績を通じて見出してきた、計画成功のために重要な4つの視点をご紹介します。
① 経営層の意志と現場の実行力の橋渡し
経営層がいくら先を見据えたビジョンを描いても、現場にその意図が伝わらなければ実行には結びつきません。中期経営計画の策定時には、現場の意見も丁寧に汲み取りながら、トップダウンとボトムアップの両輪で作り上げていくことが理想です。
また、計画の公表後は経営層からのメッセージ発信や、部門単位での説明会を実施するなど、現場との対話を重視した展開がポイントです。
② 既存事業と新規事業のバランス設計
中期経営計画においては、「守り」と「攻め」のバランスを取ることが非常に重要です。
既存事業の収益力を強化しつつ、新たな成長の柱を育てる必要がありますが、どちらかに偏りすぎると以下のようなリスクがあります:
- 守りに偏る → 将来の成長が見込めない
- 攻めに偏る → 財務や組織の安定性が揺らぐ
たとえば、既存事業の効率化やシェア拡大を図りながら、将来的な変革に向けた新規事業の投資や実証実験を段階的に組み込むなど、中計の中に複数の時間軸と投資軸を共存させる視点が必要です。
③ 組織を動かすためのKPI設計
実行力のある中期経営計画は、戦略とKPI(重要業績指標)が密接に連動しています。
戦略だけが示されても、「現場では何をすればいいのか」が見えなければ、行動につながりません。
以下のように、組織の階層ごとに目的と指標を接続させる設計が有効です:
- 経営層:事業単位の売上・利益・市場シェアなど
- 管理職:部門ごとの実行KPI(例:商談数、改善率)
- 担当者:日々のアクションKPI(例:訪問件数、開発進捗)
このように、「行動に移せる数値目標」を定義することで、組織全体が同じゴールに向かって動きやすくなります。
④ 経営資源の見える化と最適配分
どんなに素晴らしい戦略でも、人・モノ・金・時間といったリソースが伴わなければ実現できません。
だからこそ、中期経営計画の中では、これらの経営資源の「見える化と配分計画」も重要なテーマになります。
- どの事業に、どれだけの人員や投資を配分するのか?
- 育成や採用はどのタイミングで行うべきか?
- ITやデータ活用の整備状況は適切か?
こうした視点を取り入れることで、現実的かつ実行可能な計画へと近づけることができます。
中期経営計画の作成に役立つフレームワーク・テンプレート
中期経営計画の作成には、論理的な構成と説得力のあるストーリーが求められます。
そのためには、状況を正確に把握し、適切な判断を下すための分析フレームワークや計画テンプレートの活用が効果的です。
ここでは、実務でも活用しやすい代表的な手法をご紹介します。
SWOT・3C・PESTなどの分析手法
■ SWOT分析
自社の強み(Strength)・弱み(Weakness)・機会(Opportunity)・脅威(Threat)を整理するフレームワークです。
戦略立案の前提として、自社の現在地を把握し、外部環境にどう対応すべきかを明確にする際に役立ちます。
■ 3C分析
顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)の視点で市場を捉えるフレームワークです。
マーケティング戦略や市場ポジショニングを考える際に有効です。
■ PEST分析
政治(Politics)・経済(Economy)・社会(Society)・技術(Technology)のマクロ環境を把握するための手法です。
中期視点では、制度の変化やテクノロジーの進展といったトレンドの影響を見極めるために活用されます。
これらの分析を組み合わせることで、根拠のある経営判断や、説得力のある説明が可能になります。
ロードマップ・OKR・バランススコアカード活用例
■ ロードマップ(中長期行動計画表)
「いつ・どの順番で・何を実行するか」を時系列で整理した図です。
計画の流れを視覚化することで、関係者全体の理解と合意形成をスムーズに進めることができます。
■ OKR(Objectives and Key Results)
「目標(Objective)」と、それを測る「成果指標(Key Results)」をセットで設計する手法です。
従業員一人ひとりの行動と、中期目標との接続を意識づけるフレームワークとして有効です。
■ バランススコアカード(BSC)
「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の4つの視点からKPIを設定する手法です。
経営戦略をバランスよく実行し、長期的な成果につなげる指標体系の構築に役立ちます。
これらのフレームワークを活用することで、中期経営計画の説得力・納得感・実行性が格段に高まります。
無理にすべて使う必要はありませんが、目的に応じて使い分けることで、より洗練された計画が立てられるでしょう。
他社の成功事例から学ぶ:中期経営計画の実践例
中期経営計画の作り方やフレームワークを理解しても、「実際にどのように活用されているのか?」という視点がなければ、計画のイメージはつかみにくいものです。
ここでは、フィンチジャパンが支援してきた事例や、他社の取り組みを参考に、中期経営計画がどのように機能し、組織変革につながっているのかを具体的にご紹介します。
※以下の事例はイメージしやすくするための一般化された内容です。
事例①:成熟市場での既存事業再成長(製造業A社)
背景:
A社は、長年にわたり安定的に事業を展開してきた中堅製造業です。しかし、市場の成熟化や価格競争の激化により、成長の鈍化に直面していました。
中期経営計画のポイント:
- バリューチェーン分析・SWOT分析で「高い技術力」を強みに再認識
- 既存顧客への深耕営業を強化し、製品のバリュープロポジションを再定義
- 設備投資の抑制と、IoTを活用した生産性向上施策をロードマップ化
- KPIは「製造原価削減率」「新規リピート率」などに設定し、短期の成果も見える化
成果:
部門ごとの改善活動が活性化し、売上横ばいの中でも利益率が10%以上改善。
経営陣と現場の意識統一が進み、次の成長投資に向けた組織体制づくりにもつながりました。
事例②:新規事業を軸とした中計刷新(SaaS企業B社)
背景:
設立5年目のB社は、SaaS型プロダクトで一定の市場シェアを獲得していましたが、成長の第二フェーズに向けて「次の柱」が必要とされていました。
中期経営計画のポイント:
- PEST分析により、規制緩和とDXニーズの高まりに着目
- 新規サービス開発を中期ビジョンに据え、組織・資金・人材の再配置を計画
- OKRを導入し、開発部門〜営業部門までの目標を一本化
- 四半期単位で進捗レビューと柔軟なピボットを実施する設計
成果:
3年計画の2年目で新サービスをローンチ。既存事業とのクロスセルが進み、売上は前年比150%増、組織の部門連携も大幅に改善。
社内に“成長を前提とした戦略思考”が根づきました。
これら事例に共通するのは、「現実的な分析+実行に向けた工夫」をバランスよく取り入れていることです。自社にとってどの要素が活用できるのかを検討しながら、自社独自の中期経営計画に落とし込んでいくことが、成功への第一歩となります。
まとめ:中期経営計画は「戦略から実行」まで設計することが成功の鍵
中期経営計画は、単なる目標の羅列ではなく、「経営戦略を実行に落とし込むための設計図」です。本記事では、その作り方から成功のポイントまでを、5つのステップと4つの視点でご紹介してきました。
計画を成功に導くために大切な要素を振り返ると以下の様になります。
- 自社の現状と外部環境の冷静な分析
- 実現したい中期ビジョンの明確化
- 重点施策と数値目標の整理
- 現場が動ける仕組みづくりと社内展開
- 柔軟な見直しを前提とした運用設計
これらを意識しながら計画を立てることで、戦略が組織の行動につながり、持続的な成長へとつながっていきます。未来を不確実なままにせず、見える化し、社内外と共有すること。それこそが、変化の時代を生き抜く企業にとって、最も重要な経営判断の一つと言えるでしょう。
フィンチジャパンからのご提案「作って終わり」にしない中期経営計画の策定と実行を、より確実に進めるために
ここまでご紹介してきた中期経営計画の作り方は、企業の成長に向けた重要な第一歩です。しかし実際には、こうした計画を「自社の実情に合った戦略」として構築し、社内に浸透させ、実行し続けていくことは簡単ではありません。
フィンチジャパンは、新規事業の立ち上げや既存事業の成長支援、DX推進、経営戦略の立案・実行といったプロジェクトを実施しています。
VUCA時代において中期経営計画の実行困難性が高まっており、策定について以下に取り組んでおります。
- 社内外の環境分析と戦略設計(PEST/SWOT/市場分析)
- ビジョンとKPIの策定支援
- WACC、ROE、PBR等の財務指標の最適化支援
- ポートフォリオ最適化、配当政策等、財務戦略との連携支援
- 人的資本経営との連携支援
- シナリオプランニングの策定支援
- 計画の社内展開と運用定着の設計
- 経営資源の最適配分と優先順位づけ
- DXや新規事業を含む中計の統合支援
といった、構想から実行までの一貫した伴走支援を強みとしています。
クライアントによって異なる固有の課題を理解し、実効性の高い計画づくりと現場で動く仕組み化を設計支援します。最適な中期経営計画をつくりたい、計画倒れを防ぎたいというお悩みがありましたら、ご相談ください。
- 新規事業の事業計画書サンプル
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コンサルティングの成功事例 - など
この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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