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【市場規模の調べ方】フェルミ推定を用いた算出方法

                   
リサーチ
公開日:2020.02.18更新日:2023年8月16日

【市場規模の調べ方】フェルミ推定を用いた算出方法

新規事業で参入する市場を検討する際に、その市場がどの程度の規模があるか、そしてどのような特徴があるのかを把握することはとても重要だ。

市場規模が大きい、あるいは大きくなると分かっていれば、参入の機会は大きくなる。逆に、市場規模が小さいのであれば、いかにして市場占有度を高くするかを検討することがカギになるからだ。

最近は新規市場でも調査会社から有償・無償で市場規模に関するデータが提供されており、市場規模の概算を把握することはそれほど難しくはない。しかし新規事業の場合、市場の特徴を把握できる資料が少なく把握しづらいこともある。

そこで、今回の記事では『ペット保険市場』の市場規模の把握と特徴の分析というケーススタディを実践しながら、フェルミ推定による概算方法の手順を紹介しよう。

 

目次

市場規模の理解とは「大きさ」だけでなく、「特徴」を理解すること

まず、「市場規模」とは、その製品やサービスの取引が行われている「大きさ」を表す指標だ。

売上高で表現されることが多いが、実はその限りではない。企業や小売によって販売価格に差がある場合は、販売台数や販売箱数など業界内で共通になっている単位で表現されることもある。

  • ビール市場:『2018年の課税移出(引取)数量は、約1億9,391万函』(※1)
  • 自動車市場:『2019年の新車・年別販売台数(登録車+軽自動車)は約5,195万台』(※2)

※1ビール酒造組合より引用
http://www.brewers.or.jp/data/doko.html

※2一般社団法人 日本自動車販売協会連合会より引用
http://www.jada.or.jp/data/year/y-rl-hanbai/

特に、成熟した市場では、業界内の市場規模を把握するために業界団体が発足されており、統計データを利用することができるので業界団体のホームページにもアクセスしてもいいだろう。

市場規模をデスクトップリサーチで調べる方法

新規市場として成長が見込まれている市場では調査会社が独自に調査を行って市場規模を発表していることが多い。

  • 矢野経済研究所
  • インテージ
  • 船井総合研究所
  • 富士経済
  • ユーロモニター・インターナショナル

こうした企業が市場規模を発表していることが多いので、ウェブページを検索して、市場規模を探して把握すると良いだろう。

市場の特徴を捉えることの重要性

先述したとおり、市場規模という指標は、商取引の大きさを表す指標だ。しかし、市場規模の分析では、さらに詳細に市場の特徴を把握することになる。

なぜなら、特徴の把握は市場の大きさの把握と同じ位重要だからだ。

ビール市場の特徴と新規参入の事例

例えば、国内ビール市場について、様々な統計を見ることで次のような事がわかる。

  • 大手四社(キリン、アサヒ、サッポロ、サントリー)が99%の商取引を占める寡占市場
  • 市場規模は2005年から2018年まで14年連続で縮小
  • 市場構成を見ると約5割がビールで残りが発泡酒・新ジャンル、2018年は発泡酒と新ジャンルがビールを上回る初めての年
ヤッホーブルーイング社のビール市場参入

しかし、市場規模の大部分を大手企業が占めているからと言って、新規事業のチャンスがまったくないわけではない。(もっとも参入リスクが大きいことは言うまでもない)

「よなよなエール」「水曜日のネコ」「インドの青鬼」など個性的な商品を手がけるヤッホーブルーイングは、当時ブームになっていたクラフトビールに商品展開を集中させ、ECチャネルの販売展開を徹底させることで、2008年から11年連続で増収を果たしている。

寡占化されたビール市場において、同社の増収は驚くべき成功である。市場分析の視点では、「同社が既存のビール市場に目を向けずに、クラフトビール・地ビール市場に目を向けたことがポイントである」と分析できる上に、「E C販売を通じて消費者と直接関係を構築したことが功を奏した」と分析できるかもしれない。

市場規模だけではわからない市場の特徴

しかし、上述の分析は後出しジャンケンの様な考察であり、寡占化されている成熟市場の中で、新しい価値を見出し参入に成功した同社の成功は一言では語りきれない。

これは我々FINCHの推察だが、おそらく同社はビール市場を「成熟した寡占市場」ととらえるのではなく、「まだまだ消費者のニーズを満たせていない高付加価値領域が残されている」と緻密な市場分析によって掴んでいたと考えている。

なぜならば、そうでなければ先行投資が大きいビール事業にチャレンジできないはずだからだ。言い換えれば、市場規模の把握と分析は、新規事業の検討において極めて重要なタスクだ。

どんな事業でも必ず検討すべきタスクと言ってもいいだろう。

新規事業の市場規模の算出方法:フェルミ推定による概算

市場規模を把握する際、調査会社から有償・無償で市場規模に関するデータを活用するのは手取り早い方法だが、市場の特徴や事業のポイントを考えるためにも市場の規模をある程度自ら推計できる様になっておいた方がいい。

この時、市場を推計する上で役に立つ考え方が「フェルミ推定」である。フェルミ推定とは、調査が難しい様な数値を求めて、いくつかの事実を手掛かりにして方程式を作り出す概算方法だ。

フェルミ推定といえば、「東京都のマンホールの数はいくつか」「全国の雀の数は何羽か」と言ったとらえどころのない量を推測することで有名だが、市場の推計でも有効な方法と言えるだろう。

市場規模概算にフェルミ定理が有効な2つ理由

新規事業の市場規模算出にフェルミ定理が使えるようになると、大きなメリットが2つある。

  1. 市場規模の算出がされていない市場の見通し
  2. 事業の中で求められる施策の推測

1はネットで調べたい市場のデータがない場合に試算できるということだが、ポイントは2の方だ。新規事業の収益を大きくするための正攻法を客観的に議論できるようになる。

今回は、実際に例を挙げて考えてみた方がわかりやすいので、「国内ペット保険市場」をフェルミ推定で推測し、実際に公開されている市場規模と比較することで、実際の新規事業の蓋然性を高めていく作業の手順を紹介しよう。

フェルミ推定を用いたペット保険市場の概算

まず、国内のペット保険市場について調査を行なうと、次のような様な特徴があることがわかる。

  • 加入者が年々増加している傾向
  • ほとんどは犬猫が対象
  • 犬猫の種類等によって500円から数千円まで月額金額に差異がある
  • 補償内容はカスタマイズ可能

そこで、日本全国でどの位ペットが飼育されているか調べてみると、一般社団法人ペットフード協会によれば、猫が約950万匹、犬が約890万匹(2017年ベース)だった。

これら飼育されている犬猫のうち、「平均保険金」と「どの程度がペット保険に入るか(ペット保険加入率)」がわかれば、ペット保険の市場規模を推測する方程式が成り立つ。

[ペット保険の市場規模(円) = 犬猫の飼育頭数(匹) × 平均保険金額(円) × ペット保険加入率(%)]

この方程式に当てはめる「ペット保険加入率」は何パーセント位が妥当だろうか。このとき、「そもそもペット保険に入るきっかけ何だろうか」という飼い主の視点に立って考える。

ペット(犬)の寿命は10年から18年と言われており、高齢化すれば、人間と同じ様に何かしらの疾病にかかると考えられるので、一生に一度は動物病院に通うと考えられる。

しかし、病院に通うだけでは保険に加入するきっかけにはならないだろう。保険の選択肢が浮上するシーンは、ある日突然、ペットが入院したり治療が必要になったりして、大きな出費を急に強いられた時ではないだろうか。

このような仮説を設けると、「ペット保険加入率」は以下の様な式で推察できる。

ペット保険加入率(%) = 動物病院への通院経験(%) × 入院・大きな治療の経験(%) × 加入の決断(%)]

人間の場合、65歳までに入院や大きな治療を経験する比率は15%程度と言われていることを踏まえると、次のような方程式が成り立つ。

[ペット保険加入率=100%(通院経験)×15%(入院経験)×40%(加入の決断)]

この方程式を解くと、ペット保険加入率は6%となる。突発の出費を経験したとは言え、保険加入の決断50%(2世帯に1世帯)は高すぎるかもしれないから40%とした。

さらに、日本は小型犬が多いことから、月額1,000円(年額1.2万円)とすると、次のようになる。

[ペット保険の市場規模 = 1,840万匹 ×  年額1.2万円 × 6%  = 132億円

しかし、この概算を終えて「ペット保険の市場規模は132億円です」とそのまま報告はできない。実際に、有料レポートなどの数値と比較すると、概算の3倍以上の差が開いているということがよくあるからだ。

そこで、概算の精度を高めるために、もう少し情報を調べていく。各社のデータを見てみると以下のことが分かった。

  • アイペット損害保険が公表している保険加入率は7% (2017年ベース)。
  • 保険金額は年齢が上がることに増加。0歳と20歳では2倍の差
  • 補償内容のカスタマイズによってさらに保険金額が変動

それを踏まえると以下の様に修正できる。

[ペット保険の市場規模= 1,840万匹 × 年額2.4万円 × 7.7%  = 340億円

もし、この計算を行なっても他のレポートの市場規模と乖離がある場合、前提条件を見直す。

例えば、ペット保険市場の場合は、オプション選択や周辺サービスも市場規模に含めている可能性があるので、そういった条件を確認していく。

さらに深堀するためには、複数の保険会社に対して、いくつかのペット保険について見積をして平均保険金額の検証を行なう必要があるだろう。

フェルミ推定によって得られた2つの考察

この様にペット保険の市場規模を外部データから引用するだけでなく、フェルミ推定を使って推測することで以下のように考察できる。

  • 市場規模は「犬猫の飼育頭数」や「ペット保険加入率」によって決まっている
  • 保険加入率を上げるためには、「加入の決断率」を上げていくことが重要

考察が得られれば、「加入の決断率を上げるためには、通院経験や入院経験時にペット保険を知ってもらうなどの施策が必要だ」といった議論が行えるようになる。

こうした議論は、資料の引用だけでは発生しない。またこれらの考察を通じて、市場の特徴をさらに理解することができるため、新規事業の蓋然性(がいぜん性)を分析できる様になる。

まとめ

新規事業で参入する市場を検討する際に、その市場がどの程度の規模があるか、そしてどのような特徴があるのかを把握することはとても重要である。

最近は新規市場でも調査会社から有償・無償で市場規模に関するデータが提供されており、市場規模の概算を把握することはそれほど難しくはなくなってきている。

しかし、新規事業の検討で重要なのは、市場規模の推計を通じて以下の2つを推察することである。

  • 市場においてどんな指標が重要なのか
  • どんな施策によって市場規模が大きくなるか

フェルミ推定を活用するメリットはその点にあると言っていいだろう。そのため市場規模が把握できれば、事業戦略のヒントも見えてくる。

例えば、「新規事業で、30億円の売上を目指す」とした場合を想定しよう。

  • 3,000億円の市場でシェア1%を獲る事業を目指す
  • 100億円の市場でシェア30%を獲る事業を目指す

この両者では自ずと、施策や売り方、必要なコストが異なってくるからである。

最近の新規事業では、製品のライフサイクルが極端に短くなっており、短期間にスタートし成果を出していく事が求められている。

そういった意味では、時間をかけて調査して正解を求めるより、フェルミ推定を活用して、その時点でわかる事実を使って推察した結果の方が時には重要となるだろう。

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この記事の監修者

監修者の写真

株式会社フィンチジャパン 代表取締役

高橋 広嗣

早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。

出版

半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法

PR Times記事

https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>

ZUU online記事

https://zuuonline.com/authors/d7013a35

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