新規事業の立ち上げに必要な担当者の7つのスキルセット

「市場調査を行った」「事業計画を書いた」「経営会議でりん議を通した」
こうした一連の苦労を経て、いよいよ新規事業を立ち上げよう! という段階になる。
つまり、企画段階から、立ち上げという実行フェーズに移行するわけだ。
市場調査を行い事業企画を立てる段階と、その企画を現実にしていく段階では、それぞれ異質のスキルが求められる。その理由は立ち上げ時は企画責任者という立場よりも、事業を経営する立場の方の方が重要になってくるからだ。
新規事業の立ち上げを行う担当者にはどんなスキルが求められるのだろうか。
その時に必要なスキルを抽出すると、次の7つに集約される。
- ビジョンを言葉にするスキル
- 情報収集スキル
- 推論スキル
- リーダーシップスキル
- 使いまわせる資料を作成するスキル
- 交渉スキル
- 情熱を持続させるスキル
本記事では、企画段階を経て承認を経た新規事業の立ち上げ時に、担当者に求められるこの7つのスキルと、それぞれのちょっとしたポイントについて解説する。
1.ビジョンを言葉にするスキル
まず何より大事なスキルは「ビジョンを言葉にするスキル」だ。
ビジョンを言葉にするためには、次の問を自分なりの言葉で語れているかどうかで考える。
担当者は、次に例示する質問の解答を自分の言葉で説明できるか考えてみて欲しい。
- 新規事業を立ち上げる目的は?
- 新規事業を実現することで顧客や世の中に対して及ぼす(及したい)影響は?
ビジョンを言葉にするとき、担当者は事業企画が現実になった後の社会を想定して、その時に市場や顧客がどの様に変わっていくかを具体的に想像して言語化していくことが求められる。
そして、肝に銘じてほしいこととして、この段階では人・モノ・カネ・情報を集めるために、幾度となく自ら企画した内容をシンプルに伝えることが日常茶飯事になる。
ポイント:ビジョンを言葉にすると迷わなくなる
ビジョンを言葉にする必要があるのは、自分だけでなく、チーム共通の価値観を生むためだ。共通の価値観があれば、「何のためにやるのか?」という迷いを払拭できる。
そして、新規事業を立ち上げていく過程では様々な困難にぶつかることが想定される。
そもそも新規事業が当初立てた計画通りに進むとは限らない。
新規事業を企画する段階では、概ね次のような項目を調査するだろう。
- 市場の変化
- 競合の取り組み
- 顧客ニーズの移り変わり
しかし、新規事業の立ち上げ段階に入り実際に動き出してみると、「すでに状況が変動しているのでは?」と心配する上層部から、実行計画の見直しを迫られることがある可能性がある。
こうした場面で、状況を冷静に分析して達成するべき目標をぶらさず実行し続けていくためには、その事業が進む道を、平易な言葉でチームに共有しておく必要がある。
2.情報収集スキル
技術が日進月歩で進化する現代社会において、情報収集が重要なのは言うまでもないが、新規事業の立ち上げ担当者は、「生の情報」を自ら集めるスキルが大切になる。
ポイント:ネットでは見つからない、「生の情報」の価値
Googleの検索エンジンサービスを使えば世界中の様々な情報を集めることはできるが、新規事業に必要な市場の動向や競合の動きの収集については、Google検索で見つかる情報はあまり役に立たない。何故ならば新規性の高い事業ほど情報の機密性が高くなり、人づてでしか正確な情報を得ることができなくなるからだ。
そのため正確な情報を持っている人を見つける「Know Who ?」(誰が情報のキーマンなのか)を意識して、キーマンに会って直接情報を集めていくことを心がける必要がある。
特に、最近の新規事業は、情報戦の側面もある。他がまだ収集できていない情報をいち早く見つけて、事業の成功法則を先駆けてつかむといったスピードが伴えば新規事業の成功確率はぐっと高くなる。
3.推論スキル
新規事業の企画フェーズは、調査結果に基づいて筋道を立てて計画を立案する。
一方、新規事業を立ち上げる際にも同様に筋道を立てて実行していくことが要求されるが、「企画」と「立ち上げ」で一番違うのは、日々入ってくる情報の質が変化するということだ。
この情報の変化を簡単にまとめると、次の2点に集約される。
- ネットでは見つからないような、「生の情報」が入る
- 「生の情報」は断片的
この時、断片的で限られた情報で判断をしていくためには、市場や顧客のニーズに関する情報から、成功パターンを推論していくスキルが必要がある。
ポイント:事業のセンターピンの発掘
このスキルは実際に事業に生じた状況である「生の情報」から、仮説を立てながら推論して、目の前の課題やチャンスに対処して事業のセンターピンを見つけていく。
センターピンを発掘するためには、確度の高い「かもしれない」という推論を導く必要がある。
例えば、次のように考えてみて欲しい。
- 「こういう顧客の変化が起きたということは、次はこういう市場の状況が予想されるかもしれない」
- 「この営業資料で受注できたのは、このポイントが鍵かもしれない」
ポイント:論理的思考と推論の違い
一般的に論理的思考スキルは、ビジネスや課題を分解し、共通点や課題の源を探る上で非常に有効だ。
しかし、新規事業担当者にとって重要なのは、推論するスキルを養い、限られた情報から先入観にしばられずにビジネスモデルや業界の未来をある程度予測することといえる。
4.リーダーシップスキル
新規事業の「企画」は少人数でも行うことができるが、「立ち上げ」となると営業や開発、管理などさまざまな実務能力が必要になる。
立ち上げた新規事業でマネタイズするためには、次のような機能が必要になる。
- 営業
- 設計・開発
- 製造
- 販売
簡単に書き出すだけでも、次のような全く異なるスキルが要求されることがわかる。これらの全く異なる業務を1人で完結することは難しい。そこで、フルコミットではなくても社内の関連部署や外部のビジネスパートナーをうまく巻き込んで一つのチームを作り上げていかざるを得ない。
この時に求められるのが、複数の異なる業務を1本にまとめ上げるリーダーシップスキルと言える。
ポイント:「やらなくていい理由」を探してしまう慣性の法則への対処
企業には慣性の法則が働いているので、新しいことに取り組むことには摩擦が生まれる。
極端な例だが、部署によっては、自分がやったことがない新規事業の話を聞こうものなら、「やらなくていい理由」を並べて、取り組むこと自体を避けようとすることすらあり得る。
経営会議の承認を得ることは、必ずしも他の部署の協力を得られることにつながらないわけだ。
そこで新規事業担当者は、社内の暗黙のルールを理解しながらも、関連部署に新規事業のビジョンを何度も伝えて、依頼部署に期待する役割を提案して、サポートを得る。
こうした、組織横断でのリーダーシップが必要になってくる。
5.使いまわせる資料を作成するスキル
資料作成のスキルは企画だけでなく、新規事業立ち上げを行うときも必要になる。
企画段階では、決裁者に対するプレゼンテーションを行う際に資料を作成するが、新規事業立ち上げ段階になると、資料を説明する相手が決裁者だけではなくなる。
例えば、次のような相手へプレゼンテーションを行なうことが想定される。
- 関係部署
- 見込み顧客
- ビジネスパートナー
こうした相手へ説明を行うために資料を作成する場面が出てくる。この場面では説明をする側との関係に応じて柔軟に資料を編集したり、言葉遣いを変えたりすることが求められる。
ポイント:自分以外でも使い回せる資料が必要
立ち上げ段階に入ると資料のデザインが変わってくることを覚えておいてほしい。
企画書は市場分析の結果や収支計画のシミュレーションを伝えることになるため、どうしても文字や数字が多くなる。
しかし立ち上げ段階では、資料の目的が大きく変わることになる。
先ほど紹介した相手に対して、達成すべき目標は次のとおりだ。
- 企画に懐疑的な関係者を納得させる
- 見込み顧客に営業をかける
- ビジネスパートナーに興味を持ってもらう
このときの資料は文字や数字の量を減らして、相手にとってわかりやすい資料を心がけよう。
また自分だけが説明できる資料ではなく、プロジェクトメンバー全員が説明に使える様、使い回しができる資料を作成した方が効率的だ。
ポイント:一人歩きする資料を作る編集力
また相手の反応に応じて、文言を修正したりストーリーを変えたりといった編集作業が頻繁に発生する。
この作業の目的は、単に資料修正にとどまらない。この編集作業の最大の真価は、ターゲット企業に刺さって一人歩きする提案ストーリーを見つけることだ。
特に、B2Bの事業ではメンバーだれもがプレゼンテーションできる事業概要書を作れる様になると、見込み顧客の獲得に勢いがでてくる。
ポイント:共有フォルダやコミュニケーションツールの活用
先に述べたとおり、立ち上げ時には資料を使い回してチームで利用する様になるため、共有フォルダの管理やフォルダ作成のルールについても決めていく必要がある。
最近は様々なクラウドサービスがあるので、会社のポリシーに合わせて積極的に利用していった方が生産性が高まる。
またSlackやChatworkの様にプロジェクトメンバー間のコミュニケーションツールを導入すると、履歴管理も楽になる。
6.交渉スキル
新規事業の立ち上げ段階では様々なステークホルダーに事業概要を説明する機会がある。
こうした機会を単にプレゼンテーションの場だとするのではなく、それらは全て交渉の場として臨もう。
プレゼンテーションと交渉の違いは、次のようにまとめられる。
- プレゼンテーション:相手にわかりやすく伝えること
- 交渉:自分が望むことを相手から引き出すこと
事業立ち上げの初期フェーズで必要となる条件や資源を交渉によって有利に引き出すことができれば、優位な立ち上げができる確率が高くなる。
故に、担当者は事業の内容を説明するあらゆるチャンスを交渉の場として臨んだ方が良い。
ポイント:立ち上げ段階は毎日が「交渉」
交渉を成立させ良い条件で契約を締結するため、担当者に限らずプロジェクトチーム全員に、交渉スキルを身につけておくべきだ。
交渉スキルがあれば、担当者は相手が望むものや条件を見抜き、それらを自分たちが提示できるものや条件とうまくバランスを取ることができる。
立ち上げ段階では毎日が交渉といっても過言ではない。交渉を積み重ねていくことで、新規事業は社会で必要とされる事業に育っていく。
7.情熱を持続させるスキル
新規事業が単月黒字化を達成するのは、短くても1年、長ければ数年かかる。
更に、初期投資も含めた累積赤字を一掃するにはもっと多くの時間がかかる。
こうした状況下で、新規事業担当者は黒字化するまで継続して事業を運営していく忍耐力が求められる。
ポイント:新規事業は失敗の積み重ね
実際に、大企業で新規事業に成功した人をインタビューすると、多くの人が成功体験よりも「途中の失敗経験の方が多い」と話す。
それほどの失敗を積み重ねながら事業を育てていく方が実感に近いのだということは想像に難くない。
ポイント:新規事業は地道にコツコツと
新規事業担当者は事業立ち上げを担うと決まった以上、毎日コツコツと継続させていくことが大切だ。そのためにはモチベーションを維持し、情熱を持って取り組むスキルが求められる。
幾ばくかの問題が起きたことで簡単にモチベーションを失う様では、新規事業担当者は到底務まらない。またどんなに魅力的な事業企画も継続して実行されなければ、社会に役立つことはない。
情熱を持って立ち上げると決めた新規事業を、何より一定期間継続させるスキルを発揮し続けることが大切だ。
新規事業立ち上げで求められる7つのスキル
以上、新規事業の立ち上げに必要な7つのスキルを紹介した。
新規事業の立ち上げ段階では、企画段階とは異なるスキルが必要になる。
このことを考えると、立ち上げ時に必要なスキルを逆算して、良いチームを作ることが企画者の最初の仕事と言える。
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