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リーンスタートアップが時代遅れと言われる要因と3つの有効な市場

立ち上げ2018.07.28

一世代前の企業の新規事業は、徹底的な市場調査と度重なる社内の利害調整により参入タイミングがずれたり、硬直的な実行体制で迅速に意思決定できなかったりといった課題があった。結果、新規事業は既存事業の影響を考慮しなければならず、市場でポジションを築けず必然的に新規事業開発の成功確率は上がらなかった。

こうした課題背景から、2008年に発表された事業開発の手法として「リーンスタートアップ手法」に大きな期待が集まった。リーンスタートアップには今もたくさんの信奉者がいるが、最近この手法を「時代遅れ」とする論調もある。

リーンスタートアップは本当に時代遅れなのだろうか? 本記事では近年におけるリーンスタートアップの意義について考察しよう。

リーンスタートアップとは

リーンスタートアップ とは、アメリカの起業家エリック・リースによって2008年に提唱された新事業を創出するためのビジネスコンセプトである。

リーンスタートアップ4つのコンセプト

このコンセプトは4つのステップで成り立っている。

  1. 「仮説」:まず顧客ニーズの「仮説」を立てる
  2. 「構築」:そのニーズを満たすアイディアを「構築」し、MVP(Minimum Viable Product)といわれる実用最小限の製品を、コストをかけずに開発する。
  3. 「計測」:流行に敏感な消費者に提供して反応をみる「計測」を行う。
  4. 「学習」:そして、その反応の結果を製品に反映させる「学習」を行う

これらの4つのステップを迅速に回すことで、大きな失敗を回避しながらも、余計なコストを最小限にして新しいビジネスを創造できる。

方向転換の重要性

またリーンスタートアップ には「ピボット」と呼ばれる方向転換も提唱しており、最初に打ち立てた仮説に誤りがあった場合には、ピボットを行い市場や顧客のニーズに合わせて軌道修正することで成功確率が高まるのだ。

リーンスタートアップが及ぼした影響と批判

リーンスタートアップは、スタートアップのビジネスコンセプトとして注目されただけでなく、企業の事業開発プロセスにも大きな影響を及ぼした。

一般的に大企業では、石橋を叩く様に慎重を期して事業企画を行うため、事業化が決定した時には、「市場参入のタイミングが2年も3年も遅れてしまう」といったことが頻繁に起きていたからだ。

一見すれば、今の時代に適っているように写るリーンスタートアップだが、 最近「今の時代に合わなくなってきている」といった批判的な見解が出始めている。

リーンスタートアップに対する4つの批判

リーンスタートアップへの批判的な見解のきっかけとなったのは、おそらく2014年に発刊されたピーター・ティール著『ゼロトゥワン』だろう。本著では、リーンスタートアップ 信奉者にはいささか攻撃的な見解が出ている。

よく読むとピーター氏は、リーンスタートアップ信奉者が謳う以下の4点を批判している。

そこで、ひとつずつ紹介してみよう。

1.闇雲にピボットするのではなく、計画を持つべき

信奉者の主張「市場は不確実で不透明だからこそ、緻密な計画を立てて実行するよりも試行錯誤を繰り返しながら、方向転換しながら柔軟に取り組むべきだ」

ピーター氏の反論『計画はあった方がいいし、二転三転するプランは失敗確率が高い』

2.既存顧客ではなく、競争のない市場を狙うべき

信奉者の主張「本当に事業として成立するかを確認するために、既存顧客に提案しよう。既存顧客が初期顧客として契約できるかどうかを計測するべきだ」

ピーター氏の反論『そもそも、競争のある市場では小さな利益すら得られない。競争の無い市場を狙え』

3.段階的ではなく、大きなビジョンを掲げよ

信奉者の主張「大きなビジョンに向かって一気に突き進むよりも、着実に小さなステップをコツコツ刻みながら段階的に進めるべきだ』

ピーター氏の反論『小さな実現よりも、より大きなビジョンに賭けるべき』

4.プロダクトだけでなく、マーケティングもセールスも重要だ

信奉者の主張「セールスやマーケティングは置いておいて、顧客に価値を提要するプロダクト(MVP)の構築に集中するべきだ。なぜなら、優れたプロダクトであれば、セールスに頼らず成長するからだ」

ピーター氏の反論『セールスやマーケティングは、プロダクトと同じくらい大事だ』

10年でリーンスタートアップを取り巻く環境の何が変わったか

ピーター・ティール氏の持論は、事業家としての見解以外に投資家としての見解も含まれているが、その多くは納得できるものだ。

何よりリーンスタートアップ が提唱された2008年頃と比べると、今はSNSが当たり前になっているし、スマートフォンのアプリは世界中で膨大な数が出回っており、世界中でダウンロードできる。つまり事業環境の前提が大きく変わっている。

2008年発祥のリーンスタートアップが「時代遅れ」と呼ばれる背景

消費者向けの商品やサービスでは、顧客の評判は良くも悪くもあっという間に広がってしまう。そのため中途半端なプロダクトを出せば顧客は目もくれないし、悪い評判があれば多くのユーザーに利用される前に勝敗が決してしまうことがある。

そのため、リーンスタートアップに基づき、顧客に聞きながら、段階的に事業を進めている間に、ライバル会社がさらに良い商品やサービスを展開してしまうことも容易に想定される。

この様に、リーンスタートアップが「時代遅れ」と批判されている背景には、当時と今とで事業環境が大きく変わっていることに起因している。

リーンスタートアップは本当に「時代遅れ」なのか

しかし、全ての分野でリーンスタートアップが機能しなくなったわけではない。例えばクローズな環境でユーザーに導入して検証したり、ベータ版を提供し顧客と共にサービスを育てたりする分野も少なくない。

例えば、市場が未成熟なIoTやAIなどの技術主導の分野では、ユーザーが何に対価を払うか明確にならず、仮説検証を繰り返しながら事業の形を決めていくケースもある。ではどんな分野で、リーンスタートアップが有効なのだろうか。

残念ながら、コンシューマー向けのサービスでは、リーンスタートアップが有効でないケースも増えてきている。しかし、市場のペインポイントが明確で、デジタルトランスフォーメーションによって解決する「方向性」が見えている分野では、リーンスタートアップは有効に機能するだろう。

例えば以下の様な分野だ。

セミオーダーメイド分野

顧客のニーズが多様化し、これまで提供してきた商品やサービスでは顧客満足が得られない分野では、リーンスタートアップによる事業開発は有効だ。

例えば、欧米の日用雑貨や化粧品企業は、顧客一人一人に対するセミオーダーメイドの商品開発を検討している。

その際、顧客が望む細かなニーズを学習していく取り組みでは、同手法が有効に機能するだろう。自動車産業でも標準仕様に加えて、セミオーダーでカスタマイズ可能な様々なバージョンの製品を展開するのが当たり前となっているが、こうした取り組みもその一つと言えるだろう。

仕事や業務を変える分野

企業の中の仕事を変えるサービスにおいてもリーンスタートアップが有効と言えるだろう。

例えばRPAやAIなどの技術シーズを活用して、仕事や業務を変える方向性はわかっていても、どの程度仕事を変えられるのか不明瞭な場合には、段階的な取り組みがどうしても必要になる。また、サービスの提供価値を測定しなければ、顧客は導入に踏み切らない。

そのため、初期顧客と共に徹底的にサービスを作り込んで、サービスの価値を磨き上げることが結果として競争優位になる。働き方改革を掲げる企業が増えているが、生産性をあげつつ働き方を改善できる革新的なサービスが次々登場している。こうしたサービスの開発にはリーンスタートアップは欠かせない。

プロフェッショナルサービス分野

金融サービスや労務サービスといったプロフェッショナルサービスにおいて、様々なデジタルサービスが登場してきているが、この分野でもリーンスタートアップは有効だろう。

プロフェッショナルサービスは高い専門性と柔軟な顧客対応力が求められるため、効率化してほしい境目は人によって変わってくる。例えば、非対面のサービスへの期待と対面サービスへの期待は人によって大きく異なるだろう。

そのため、サービス最適化のためにリーンスタートアップ を適用し、まず仮説に基づきサービスを構築し、顧客体験をデータで検証しながら、迅速に学習していく。結果として、他社サービスよりも優れたサービスを提供する。

リーンスタートアップは本当に時代遅れなのか?

リーン(Lean)とは効率的とか無駄の無いという意味であるが、起業家エリック・リースは、「起業家が自らの思い込みで、コストや労力をかけて商品やサービスを作ってしまい二転三転する企業活動」のアンチテーゼとして、当時『リーンスタートアップ』を掲げた。

リーンスタートアップでは、着想したアイデアだけで突き進むのではなく、「市場の変化をよく見て初期の顧客を獲得し、ゴールに向かって最短で進む」ことの大切さを語っているのであり、その本質は、いまの時代でも十分に有効だと筆者は考える。

ただし、『見るべき市場や顧客が「既存の市場」や「既存の顧客」で良いのか?』という問いについては、参入する市場によって大きく変わってくる。

なぜならば、デジタルディスラプションによって、「既存の市場」や「既存の顧客」の定義自体が変わってきているからだ。UBERは、既存のタクシー市場の延長線上の改善から生まれてきた事業モデルでは無いし、Airbnbは、ホテル産業の新規事業として、始まったわけでは無い。

間違っても、『リーンスタートアップを「既存の市場」や「既存の顧客」の中での仮説検証手法』だと解釈さえしなければ、いまでも著者は強力なビジネス構築手法と考察する。

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