【対談記事】AIエージェント人類と協働する機械(後編)
公開日:2026.01.27更新日:2026年1月27日
本記事は、フィンチジャパン代表の高橋とひげおぢによるポッドキャスト『でじどうラジオ』第10回の対談記事(後編)です。前回に引き続き、広木大地氏の著書『AIエージェント 人類と協働する機械』を徹底解剖します。
後編では、AIが組織やビジネスモデルそのものをどう塗り替えていくのかについて、より踏み込んだ議論を展開しています。「AI社員1000人」という構想が現実味を帯びるソロプレナーの台頭から、「SaaSの死」が示唆する自社開発への回帰、そして変化の激しい時代を生き抜くための「エフェクチュエーション」という考え方まで、これからのビジネスに不可欠な視点を詳しくご紹介しています。
目次
はじめに─400ページを語り尽くす
ひげおぢ:引き続き『AIエージェント 人類と協働する機械』、広木大地さんの本の後編でございます。高橋さんよろしくお願いします。
フィンチ高橋:よろしくお願いします。
ひげおぢ:本当に盛り上がりましたね。
フィンチ高橋:もともと分厚い本で400ページもあるからね。1回の収録では無理だよね。
ひげおぢ:ポッドキャストを聴いてる皆さんも、そんなに40分も50分も通勤してるわけじゃないですからね。
SECIモデル─暗黙知と形式知のサイクル
ひげおぢ:早速ですが、11章に「SECIモデル」というのがあって、AIエージェントの役割を重ねて4つのケーススタディみたいに書いてあるんですけど、これはどういうものですか?
フィンチ高橋:SECIモデル(セキモデル)は、野中郁次郎さんというすごく有名な方が提唱したフレームワークなんだ。エージェントの話の中で野中先生のモデルが出てくるのがユニークなんだけど、どういうモデルかというと—例えば勘とか経験とか、人が持っている暗黙知。この場のタイミングでこう話すとか、そういう勘と経験みたいなものを、マニュアルとか仕事のやり方みたいに形式知にしていく。
ひげおぢ:暗黙知を形式知化する。
フィンチ高橋:そう。形式知になったものをまた使っていくと、また新しい暗黙知が生まれてくる。この繰り返しを「知識創造サイクル」と呼んでいる。広木さんはこれをエージェントの世界に当てはめて、暗黙知を形式知にしてエージェントができるようにして、そうするとまた暗黙知が出てくるので、またそれを教えて—このサイクルを回していくことで、一般的な業務の中でも社員と同様にできるようになると説明している。
ひげおぢ:AIエージェントでも暗黙知が持てるようになるってことですか?
フィンチ高橋:そうそう。前々回だったかな、松本さんの本をとりあげた番組(注:第2回放送 松本勇気さんの『生成AI戦力化の教科書』)で「稟議書を回す」という話をしたよね。
ひげおぢ:曖昧さの中で。
フィンチ高橋:新卒で3年目までは、誰にどう回していけばいいかとか、根回しみたいなものはわからない。でも、きちんとその暗黙知をエージェントに学習させることができれば、オンボーディングできれば、稟議書を回すというところもエージェントでできますよ、というのがあの時の話だった。まさにその事例がいろいろ書かれている。
「しらせ君」─広木さん直属のAIエージェント
ひげおぢ:この本には「しらせ君」という事例があるらしいんですけど、よくある総務の問い合わせチャットボットとは違うんですか?
フィンチ高橋:違うかもしれない。「しらせ君」は広木さんの直属のAIエージェントなんだよ。本の中では、自分がどんなふうにAIエージェントを使っているか実例として出していて、彼がやっているのは—世界中の学会の情報を集めてくるエージェント、要約するエージェント、要約したものをSlack上にまとめて出してくれるエージェント。ありとあらゆるエージェントに囲まれて仕事をしていますと。
ひげおぢ:経営者ってダッシュボードが必要じゃないですか。それって今、社員のすごい労力によって支えられている。社員は日々営業レポートを書き、数字の見込みを入れ、上長はスプレッドシートで整理をして、今期の売上予想がいくらになるとか—実はみんなのインプットあっての結果できているダッシュボードなんですよね。これがエージェントが自動的にダッシュボード化してくれるようになるということですか?
フィンチ高橋:そうそう。今やエージェントを使うと、いろんな仕事を連続してAI同士がバトンタッチしながら一つの業務を遂行できる。彼も言っているのは、「自分は一人で起業しているけれども、あたかも複数の社員を抱えているかのごとく仕事している」。それぞれのエージェントがこんな役割で完遂してくれています。
ソロプレナー:一人企業の可能性
ひげおぢ:それが後半に繋がっているソロプレナーの話ですね。
フィンチ高橋:そう、一人企業とか極めて少人数で起業するんだけども、世界的に影響を及ぼすようなプロダクトやサービスを生み出す実例も出てきている。よく社長同士が集まると「おたく従業員何人ですか?」「260名です」「立派な会社ですね」みたいな話がスタートアップ界隈ではあるんだけど、彼が言っているのは、リアル社員の数ではなく、エージェントを100人抱えて「社員は100名ですけど、私以外は全員AI社員なんです」みたいなことが現実的に起こり得る。
ひげおぢ:広木さん的には、ソロプレナーの価値の出し方みたいなのは具体的に書かれていましたか?
フィンチ高橋:具体的には書いていないけれども、彼自身がこの本で証明している。一般的には400ページにもなるものを書こうと思ったら、いろいろなリサーチを経て4、5人必要かもしれないし、1年かかるものを、1ヶ月で出版している。極めて少人数でも、人数のスケールに関係ないスケールのサービスを提供できると言っている。実際にCursorというアメリカのスタートアップは、たった4人でバイブコーディングを支援するプラットフォームを作って世界を席巻している。
AI社員の時代─税金と社会保険の問題
ひげおぢ:フィンチさんは、そういったプロダクトで生産性を高めたいという考えはありますか?
フィンチ高橋:いつも考えてるよ。例えば、社員は10名だけど、実はAI社員は1000人いて、会社概要には「社員1010名(うち人間10名、AI社員1000名)」みたいな。そんなことは現実的に起こり得ると思っている。さらに進むと、この1000人が本当に社員のように働いた時に、社会保険もいらなくなるし、電気代はかかるかもしれないけど、一般的な労務の問題とは全然違う問題が出てくる。
ひげおぢ:逆にAI社員に税金をかけるという議論も出てきますね。
フィンチ高橋:税金の話は二の次だけども、本当に人間同等の生産性や価値を生み出していった時に、そのAI社員をどうカウントして定義していくのかというのは、今後議論になるんじゃないかな。妄想かもしれないけれど、結構大きなテーマになっていく気がする。
SaaSの死─自社開発回帰の流れ
ひげおぢ:12章に「SaaSの死」みたいなことが書いてありましたね。バイブコーディングで自社のサービスは自分で作っちゃった方が、SaaSに合わせる必要がないから、なくなっていくんじゃないかと読んだんですけど。
フィンチ高橋:まさにそう。SaaSサービスがなくなっていく背景には、結局SaaSって、例えば出張申請とか経費精算とかは、後ろに巨大なデータベースがあって、そのデータベースからルールを出してきたり、領収書のデータを取り込んだりしている。広木さんの言い方だと「巨大なデータベースと少しのビジネスプロセス」がくっついている、あくまでもデータベースプラスアルファのものを提供しているサービスだと。
ひげおぢ:データベースにおまけがついている状態。
フィンチ高橋:そう。ビジネスプロセスそのものがAIエージェントで自律的にできてくるようになると、データベースに部分的なビジネスプロセスをおまけのようにくっつけているSaaSは滅びていくと言っている。もう一つ、広木さんが言うには、そのぐらいのレベルのSaaSだったら、バイブコーディングとエージェントによってもう作ることができてしまう。各企業でSaaSのライセンス契約する時代から、自社開発回帰みたいなことが起こり得る。
BPOの変容─人件費格差からエージェントへ
ひげおぢ:「BPaaS」という言葉も出てきましたね。
フィンチ高橋:これはビジネスプロセスをサービスとしてやろう、例えばコールセンターをまるっと請け負ったり、給料の計算を海外でやったりすることをBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)と言うんだけど、BPOの会社の中で何をやっているかというと、労働集約的に人がやっているわけで、人件費の格差によって利益を生んでいる。でも、このビジネスプロセスの部分をちょっとずつエージェントに置き換えることができると、エージェントを使いながら、あたかも人がやっているサービスですということを提供できるかもしれない、というのをBPaaS(ビジネスプロセスアズアサービス)といいます。
ひげおぢ:人間って「人の手がかかっているから価値がある」「この人の手がかかっていないから安くできるでしょう」と言いがちじゃないですか。
フィンチ高橋:あり得るよね。AI社員が月間20万円で働く人と全く同じことをできたとする。でも「AI社員には20万円は払えない、5万でやってよ」という風になる可能性はある。じゃあ20万円で契約する場合と5万円の場合、この15万円の差って何なんだろうというのは、結構考えていかないと価格競争になる可能性がある。
赤の女王仮説─2倍速で走ってちょうどいい
ひげおぢ:13章に「赤の女王仮説」というのが書いてありましたね。
フィンチ高橋:これは『鏡の国のアリス』の中で出てくる話。普通に走っていると間に合わない、2倍で走っていてようやく普通—裏を返すと、AIの進歩が早すぎるので、普通にのんびり歩いていると乗り遅れる。もうこれから先は2倍、3倍で走っていてちょうどいいと言っている。
広木さんはエンジニアとして、この数年の進歩の速さを実感していて、「AIを会社に導入しますか、しませんか?」みたいな議論はもうナンセンス(笑)。秒で、とにかく導入して使っていかないと、進歩に乗り遅れるどころかどんどん置いていかれるよ、と個人にも会社にも問題提起している。
生産性の罠─議事録が速くなっただけでは意味がない
ひげおぢ:さっきの赤の女王仮説につながるのが「生産性の罠」ですね。
フィンチ高橋:そうそう。各会社で「AI議事録を使ったら、議事録作成時間が5時間から1時間になりました、生産性が何十%も上がりました」とやるんだけど、1年経ってみると全然それって競争力になっていないよね、ということがある。議事録を書く時間が1時間になったというのは、議事録だけ見るとすごく生産性高いんだけど、本当に考えなきゃいけないのは残りの4時間で何をするか。それを考えて初めて導入の意味がある。
ひげおぢ:自戒を込めて言うと、生成AIを導入した時の効果って「何百時間削減しました」と言いがちなんですけど、削減した時間で何をしたかまでついていかない限り、本質的な意味はないですよね。
フィンチ高橋:後半のところは、ちゃんと本当に競争力向上につながるところまでやっていくということを熱く語っている感じがしますね。
エフェクチュエーション─できることから始める
ひげおぢ:16章に「エフェクチュエーション」がありました。僕が大好きな概念で、反対の概念は「コーゼーション」。ゴールをきちんと決めて、市場規模がこれだけあって、売上予測がこれだけあって、そのためには人がこれだけ必要ですという企画書を全部書いて、会社に認めさせてから新規事業に行きましょう、というのがコーゼーション。
エフェクチュエーションは逆で、今できることから始めましょう。その時に手を差し伸べてくれる人が必ずいるはず。一つハードルを越えると、その人たちとやることで新しい発見があるから、それを元に次を始めましょうと。今やっているこのポッドキャストが、僕にとってはまさにエフェクチュエーションなんです。
フィンチ高橋:なるほど。
ひげおぢ:まず話をしましょうと。もし高橋さんが経営者の立場で、社員がポッドキャストをやっていて「これ何のために勤務時間を使って、半年で何人にリードを取って、そのうち何人が商談に進んで」と言いがちなんですけど、できるところからやるのがこれからの時代じゃないかなと。バイブコーディングも「できることからはじめる」を体現していると思うんですよね。
フィンチ高橋:この本の文脈でエフェクチュエーションが出た理由は、経営者が「どんなインパクトがあるのか、全貌が見えてから飛び込む」だと、先ほど言ったように進化が早すぎて致命的になるから。ある程度、今持っているできるところから始めていくぐらいでないと、間に合うか間に合わないかという話。
ただ、エフェクチュエーションには他の原則もあって、「飛び込んでもいいけど致命傷は追うな」とか、「いろんな多様な人たちに協力を仰げ」とか、「失敗してもこれはチャンスだと思え」とか。LinkedInの創業者が「崖から飛び降りながら飛行機を作るようなものだ」と言っているけど、崖が300メートルなのか3000メートルなのかで、飛行機を作るのが間に合うかどうかは変わる。崖の高さを見極めながらやってみるかということを言っている。
ソロプレナーか組織か─まだ答えは出ていない
ひげおぢ:ずっと僕の中のテーマは、ソロプレナーが勝つのか、それとも日立さんの事例みたいに組織にきちんと AIエージェントを入れた方が勝つのか、どっちなんだろうというのがまだ答えが出ていないんです。
フィンチ高橋:僕もそう思う。
ひげおぢ:組織にやっぱり入れられた人が総取りしていくんじゃないかと思いつつも、その組織はそんなに人が要らなくなるはずだという話もあって、すごく予測不能。話せば話すほど分からなくなる。
フィンチ高橋:株式会社AIみたいな、AIだけで動いている株式会社が出てくるかもしれないね。
ひげおぢ:そんな未来もあり得ますね。
フィンチ高橋:大きな会社にビルトインする速度と、ソロプレナーが起こすイノベーションが同時進行で動いている中で、広木さんが言っているのは、会社の規模はあれど、とにかくこの流れは止まらないから、1秒でも早く飛び込んで使って、変化を体感しながらエフェクチュエーションを高めてやってほしいということ。
おわりに
ひげおぢ:後半も非常に盛り上がりまして、やっぱり30分超えてしまいました。語り尽くせない本ですね。
フィンチ高橋:本当に素晴らしい本だね。
ひげおぢ:やっとこれで中身が読めて嬉しいです。長々とありがとうございました。高橋さん、本当にありがとうございました。
フィンチ高橋:ありがとうございました。またぜひ聴いてください。
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この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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