【対談記事】AIエージェント人類と協働する機械(前編)
公開日:2026.01.21更新日:2026年1月21日
本記事は、フィンチジャパン代表の高橋とひげおぢによるポッドキャスト『でじどうラジオ』の第9回、広木大地氏の著書『AIエージェント 人類と協働する機械』を題材に、AIが社会や働き方をどう変えるのかを深掘りした対談記事(前編)です。
「1週間で30万字を書き上げる」という衝撃的な執筆プロセスの裏側から、感覚で動かす「バイブコーディング」、そして効率化がさらなる需要を生む「ジェボンズのパラドックス」まで、多角的な視点で議論を展開。AIエージェントが当たり前になる時代において、私たちが向き合うべき「AI疲れ」の正体や、変化する「仕事の価値」の本質について語り合いました。
目次
はじめに─「1週間で30万字」の衝撃
ひげおぢ:デジどうラジオ第9回です。今日の課題図書は、広木大地さんの『AIエージェント 人類と協働する機械』。すごい壮大なテーマですね。
フィンチ高橋:タイトルからして来ましたね。
ひげおぢ:この本、目次と前書きしか読めないのが本当にもどかしい。この本がすごいのは、目次構成と付録なんですよね。2025年11月12日出版、まだ1ヶ月ちょっとです。
(注:この対談の収録は2025年12月に行われました)
付録に書いてあるんですけど、この本はAIエージェントを使って作っているんです。講演の書き起こしを構造化して、エージェント60個を並列で走らせて下書きを収集・調査。それをサイトでファクトチェックをかけて、広木さんの目を通して、レビュアーに読んでもらって—。
フィンチ高橋:初日に15万字を書いたって書いてあったね。
ひげおぢ 1週間で30万字。しかも広木さん曰く、「自分としては1行も直接テキストを書いてない」と。とんでもない時代が来ています。
読者向けチャットアシスタント─本を読む体験が変わる
ひげおぢ:この本を開くと、読者向けチャットアシスタントサービスの案内が出てくるんですよ。おそらく、執筆にあたっての膨大なインプットがあって、GPTは広木さんと同じくらいのナレッジを持っている。読者が質問を入れると、本の中身を見ながら返してくるんじゃないかと推測しています。
フィンチ高橋:本を読むという所作が根本から変わってくるね。
ひげおぢ:本を読みながら、あたかも著者が横にいるかのように「広木さん、これってなぜこんなこと考えたんですか?」とすぐ聞ける。参考書的な読み方が変わりますよね。
フィンチ高橋:広木さんは筑波大の大学院を出られて、mixi新卒第1期生でエンジニアリング部門を統括してきた方。まさにエンジニアの王道を歩んできた人です。
AIエージェントの定義─「AIワークフロー」と「AIエージェント」
ひげおぢ:広木さんは「エージェントは世界を食べ尽くす」と書いています。エージェントの定義は「自分で考えて判断して作業を進める協力者」ってことであってますか?
フィンチ高橋:さらに細かく分けると2種類ある。一つはAIワークフロー—ワークフローや作業手順を人間が教えて、それに則ってAIが考えて判断して仕事を遂行するもの。
もう一つはAIエージェント—状況に応じて仕事のやり方を変えたり、流れを変えたりと、適応的に動くもの。例えると、台本がある程度決まっているラジオ番組はAIワークフロー。我々のように出たとこ勝負でアドリブで語るのはAIエージェント的、と。
バイブコーディング─「雰囲気でプログラムが書ける」時代
ひげおぢ:2章で出てきたキーワードが「バイブコーディング」。生粋のエンジニアである広木さんがコーディングについて書いています。
フィンチ高橋:バイブコーディングの「バイブ」は振動ではなく、雰囲気とか感覚という意味。感覚的にプログラムできるということらしい。
プログラムは0と1の世界だから、精緻に正しく書かないといけない。文法を間違えるとエラーやバグが出る。でもバイブコーディングだと「こんな感じで作りたいよ」と適当に言うと、「こんなプログラムでどうですか?」と返ってくる。プログラムを書けない人もプログラムが書けるようになる。
広木さんがコーディング時に心がけることとして書いていたのが—聞いて驚かないでください—「自然で軽やかな対話を心がけること」。
ひげおぢ:今までのプロンプトの考え方と全然違うじゃないですか。
フィンチ高橋:そう。「批判的な思考はちゃんとやること」「創造的な流れがあるから失敗を許してあげること」「ユーザー視点を守ること」。会話するようにプロンプトを作っている。
ひげおぢ:1〜2年前は「プロンプトは言語で書かれたプログラミング言語だ」「きちんと書かないと正しい答えが出ない」と言われていたのに、今は「人格として話しなさい」と。
フィンチ高橋:昔は「あなたは優秀なマーケッターである」「トップセールスマンである」と細かく書かないといい出力が出ないと言っていたのに、この半年〜1年で適当に出しても結構しっかりしたものが出てくるようになった。
AIによって仕事は奪われるか?─ジェボンズのパラドックス
ひげおぢ:AIが我々と同じ、もしくはそれ以上になった時に、「自分たちの仕事は奪われますか?」というのが3章のテーマです。
フィンチ高橋:広木さん、いいこと書いていた。「おじさん達は心配するかもしれませんが、大丈夫です。私たち若い世代も心配しております」と。世代を問わず心配しているんだと。
ひげおぢ:仕事が奪われるのは今に始まったことじゃない。産業革命からの歴史はずっとそうだと。
フィンチ高橋:歴史的に見ると、産業革命が起こると仕事のやり方は奪われる。でも逆に、多くの人がその仕事に就けるようになる。
例えば産業革命の時、繊維工場で手作業をしていた労働者は、織物機械が来て仕事を奪われた。ところが50年経ってみると、その機械を使って大量の洋服を作る人たちができた。結果的に産業革命は何十倍という雇用を生み出した。
エージェント時代も過渡期には仕事のやり方が奪われるけど、長い目で見るととてつもない雇用を生むということを言っている。
ひげおぢ:目次に「ジェボンズのパラドックス」というのがありました。
フィンチ高橋:これ面白い。例えば燃費が2倍になる車が出たら、ガソリン市場は縮小すると考えがち。でも事実は逆で、燃費が良くなると車を使ってたくさんの場所に行くようになるから、結果的にガソリンのマーケットは増えた。
蒸気機関の燃費が2倍良くなったら、石炭の消費は12倍になった。効率が良くなることが全体のマーケットを小さくするわけじゃない。
8掛け社会─日本特有の課題
ひげおぢ:「8掛けでいい」というキーワードも出てきましたね。
フィンチ高橋:これは人口が8掛けになる、労働力人口が8掛けになるという話。今の8割の人数で同じ生産性を維持しなければならない。どの国よりも早くその時代が来ると。例えば「従業員を8掛けにして、売り上げは最低でも横ばい」と言われたら、実は結構達成できちゃう。
ひげおぢ:現場では「無理です」の大合唱になると思うのですが、そうではない。
フィンチ高橋:ところが実際には、優秀な人たちが通常の100の能力を120でやり始めて、特定の優秀な人に仕事を寄せて、トータルで生産性を維持するということが結構起きている。
「おにぎり2個」問題─優秀な人への依存がIT投資を遅らせる
フィンチ高橋:広木さんが面白いことを言っていた。優秀な現場がいる職場は、逆にITへの投資を遅らせる傾向があると。人ができちゃうから。
ひげおぢ:どういうことですか?
フィンチ高橋:例えば、ソフトウェアのプログラムをサッと作れる子がいると、僕なんかはおにぎり2個持っていって、「ちょっとここやってほしいんだけど」と説明して、おにぎり2個でやってもらう。でもそのやり方が逆に投資を鈍らせている。よくない(笑)。おにぎり2個でごまかしちゃいけない(笑)。
ひげおぢ:人間の頑張りに期待してはダメ。
フィンチ高橋:属人的に特定の人に仕事を頑張らせているのは昭和のやり方。
しかも生成AIの速度が早すぎる。おにぎり2個の速度で3日かかることが、広木さんの本のように10倍、20倍になってくると、おにぎりじゃ済まない。
ひげおぢ:今までは「おにぎりの世界」だったのが「生産性が上がった世界」が目の前に来ている。だからそれをうまく使えるようにみんながなった方がいい、ということだと思います。
AI疲れ─意識体の高密度化
ひげおぢ:そんな中で、AIを使っている人たちに訪れるのが「AI疲れ」です。
フィンチ高橋:いいことはたくさんある。議事録があっという間に出てくる。リアルタイムに出てきて、次の資料の構成まで提案してくれる。
昔は、ミーティングが終わったら夜なべして議事録を書いて、先輩に見せて、OKが出たら次の資料の構成を考えて—ミーティングから次の準備まで2〜3日かかった。
ところが最近は、ミーティングが終わったら議事録の要約が出てきて、「次のミーティングはこんな構成でどうですか?」と10分ぐらいで来る。
ひげおぢ:さっきミーティング終わったばかりなのに、もう次のことを考えなきゃいけない。
フィンチ高橋:そう、もうね、うるさいの(笑)。広木さんはこれを「意思決定の高密度化」と言っている。
ルーチン作業が何時間もかかっていたのが何分になって、チェックポイントがえ刻みで来るような感覚になる。疲れますよ。僕は週末サウナに行って汗といっしょにAI疲れを落としています(笑)。
ひげおぢ:僕もAIと壁打ちすると、人間とするより全然濃い。その濃密なものを読み解いて、また指示を与えて—人間ってあんまりそこまで高度なやり取りをしてなかったんだなと。
フィンチ高橋:AIがどんどん賢くなるから、出てくるものも優秀。優秀なものを読み込んで次のことを出す。広木さんは「判断の連続で認知リソースがマジックポイントのように枯渇していく」と言っている。体力の疲れよりも、この疲れが大変だと。
コンサルティングの未来─人を動かす力
ひげおぢ:AI疲れはどう解決すべきなんでしょう?
フィンチ高橋:広木さんの本を透かして見る限り、「マネージャーはあきらめろ」と言っているんじゃないかな(笑)。僕自身もAIを使って、それをAIにレビューさせて、それを繰り返して、最後に人間がレビューする。密度か濃いのでやっぱり疲れを加速させていくんじゃないかなって思う。
ひげおぢ:そうすると、コンサルとか企画職っていらなくなるんじゃないかという議論が出てくる。でも、ジェボンズのパラドックスで言えば、コンサルティングの需要は増えるかもしれない。
フィンチ高橋:僕自身がコンサルティングをしていて「いいプレゼンをしたな」と思うときは、内容が分かりやすく伝わった、だけじゃなくて、途中で聞いている人に止められて、「もう分かった、次はミーティングじゃなくて具体的にアクションを始めたい」と言われたり、席を立ち上がってホワイトボードに書き始めて「これは来年以降にこんなことをやる」と決めていく—意思決定そのものがシームレスに動いていくようなプレゼン。
つまり、その人の動きを加速させるようなプレゼンテーションが良いプレゼン。
人をどうやって動かしていくか、感情面を含めて—そこはまだまだコンサルティングの領域で必要とされている。
ひげおぢ:逆にロジカルに考えることはAIの方が得意ですよね。
フィンチ高橋:そうそう。
ひげおぢ:僕は昔から細かく書き出すのが苦手だった。でも今は頭で考えていることを全部文字起こしして入れると、綺麗に整理してくれる。でも、これは「認知・理解」のレベルであって、その先の気持ちが動いて行動変容につながる—具体的にすぐ行動に移そうと思わせる。そこまで持っていくのがコンサルティングの醍醐味だし、ホワイトカラーの仕事は基本的にそうなんじゃないかな。
「正しさ」が変わる─標準化から課題発見へ
ひげおぢ:「正しさが変わる」というのも書いてありましたね。
経産省が「未来人材ビジョン」で言っていた、仕事に求められるものが「従順さ・正確さ」から「課題を見つける力」に転換するという話を思い出しました。
フィンチ高橋:今までは、標準化されて誰でもできる、マニュアル化されて品質がブレない、というのが「正しさ」だった。でも標準化・マニュアル化されると付加価値がなくなっていく。
次は、標準化されたところから課題を見える化したり、生産性の低下を可視化したり、最適化するのが仕事になる。
さらにその次は、業務を自動化したり、AIエージェントを使って社員が自律的に動く仕組みを作ったり、人間がやるべき仕事とAIがやるべき仕事を設計できるのが仕事の標準になる。
「マニュアル・標準化できる人」から「効率化・可視化・最適化する人」へ、さらに「仕事をさせる人」へと、仕事の質が変わっていくと思う。
ひげおぢ:確かに、いずれそうなるとは思うのですが、今年来年だとまだ行き渡らないのでは?
フィンチ高橋:確かに、業界・業種によって進み方は違う。社会インフラのような分野は、今でも標準化・マニュアル化して遂行する仕事が中心。イレギュラーが起きたときに人の力が必要だから、飛行機にも電車にも人が乗っている。
でもカリフォルニアでは全自動タクシーが走り始めている。イレギュラーなものまで含めてどうやっていくかが、一部では実証が始まっている。斑に進んでいくんじゃないかな。
まとめ
ひげおぢ:ここまでで前半ですが、すでに35分くらい話していますね。大変な本だ。
フィンチ高橋:今回も前編・後編の2部構成ですね。
ひげおぢ:後編では「SaaSは死ぬのか」などのテーマを話したいと思います。引き続きこの本について話していきますので、また聴いてください。
フィンチ高橋:ありがとうございました。
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この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
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『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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