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医療DXの現在地|制度と事例から見る、持続可能な医療の未来

                   
-Tech(X-Tech)
公開日:2024.12.14更新日:2025年8月8日

はじめに

少子高齢化による医療人材不足、長時間労働の常態化、地域間の医療格差——日本の医療現場は今、大きな転換点を迎えています。これらの構造的課題を前に、持続可能な医療体制を築くための鍵として注目されているのが「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。

政府は「医療DX令和ビジョン2030」を掲げ、制度改革とインフラ整備を加速させています。一方で、現場には導入コストやITリテラシー、既存システムとの連携といった実務的な壁が立ちはだかっているのも事実です。

では、医療DXは本当に実現できるのか。推進を支える政策、成功を収めている企業や医療機関の事例を紐解くことで、その可能性と課題を明らかにしていきます。

本記事では、医療DXの定義や制度動向、そして最新の導入事例を紹介しながら、今まさに転換期を迎える日本の医療の「現在地」と未来への道筋を実務視点で解説します。

「そもそもDXとは何か?」の詳細や、DX全体が企業に与える影響については以下の過去記事を参考にしてください。

DX推進部門の役割と重要性:企業変革をリードする部門の活動とは?

DXとは何か?:DXの定義と企業に与える影響

医療DXとは?定義と目的を整理する

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉は多くの業界で広まり、すでにビジネスの前提として定着しつつあります。医療分野においても同様で、医療サービスの質や業務効率の向上を目的に、デジタル技術の活用が急務となっています。

経済産業省はDXを次のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務や組織、企業文化を変革し、競争上の優位性を確立すること」

これを医療分野に当てはめたのが、厚生労働省が2022年に示した「医療DX」の定義です。医療DXとは、保健・医療・介護の各場面において発生する情報やデータを、最適化された共通基盤を通じて統合・標準化し、業務効率化や医療の質向上、そして国民の健康増進につなげる取り組みを指します。

つまり、医療DXは単なるIT化ではなく、「組織の在り方やサービス提供の構造自体を変革すること」が本質です。情報の利活用によって医療従事者の負担を軽減し、患者中心の医療を支える基盤をつくる——それが、医療DXの目的であり、意義なのです。

医療DX推進の背景と政府の取り組み

医療DXが推進される社会的背景

日本の医療現場は、深刻な人手不足と長時間労働という課題に直面しています。2024年4月には「医師の働き方改革」が施行され、医師の時間外労働に上限が設けられるなど、制度面での見直しが進みました。しかし、それだけでは現場の負担を解消しきれないのが実情です。

さらに、少子高齢化の進行によって医療従事者の労働人口は年々減少。厚生労働省の統計では、2023年の合計特殊出生率は1.20と過去最低を記録しており、今後も人材の確保は難しくなる見込みです。このような背景から、医療業務の効率化と省人化は急務であり、医療DXの推進は「避けて通れない課題」となっています。

参考:総務省令和3年 情報通信白書
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112420.html

参考:令和6年版厚生労働白書
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/23-2/kousei-data/siryou/sh0100.html

参考:厚生労働省資料医師の働き方改革について
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000818136.pdf

政府による医療DX推進体制と主な施策

政府は医療DXの推進に向けて、2022年に「医療DX令和ビジョン2030」を掲げ、将来的な医療の在り方を明確に打ち出しました。このビジョンの下、内閣官房および厚生労働省を中心とした推進体制が構築され、スピード感ある施策の実装が進められています。

主な施策は以下の3本柱です:

  • 全国医療情報プラットフォームの創設
    患者の診療履歴や薬剤情報を医療機関間で共有する仕組み。地域医療連携や治療の質向上に寄与。
  • 電子カルテ情報の標準化
    医療機関ごとに異なる電子カルテの規格を統一し、システム間のデータ連携を容易に。
  • 診療報酬改定DX
    複雑な診療報酬の算定・申請作業をデジタル化し、事務負担を軽減。

加えて、2024年12月には健康保険証の新規発行が終了し、「マイナ保険証」への完全移行が予定されています。これは、国民一人ひとりの医療情報をデジタルで一元管理し、保険適用や診療情報の連携を効率化する仕組みです。

第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料について
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000992373.pdf

政府の支援と課題の両面

制度面での推進が進む一方で、現場には導入コストやシステム整備への不安、マイナンバーカードの普及率に関する課題も存在します。医療DXが真に機能するためには、政府の施策だけでなく、医療機関・ITベンダー・行政の三者が連携し、段階的かつ実践的な導入が求められます。

 

医療DXにおけるメリットと課題

こうした医療DXの取り組みだが、医療を当たり前に受けられるものにするために生じるメリットもあれば、導入の妨げとなる課題も存在しています。

医療機関サイドのメリット・デメリット

医療DXは医療機関にとって、業務効率化と医療サービスの質向上という大きなメリットをもたらします。

例えば、電子カルテを活用することで患者情報を一元管理でき、診断や治療のスピードが向上します。

また、オンライン診療や予約システムの導入により、待ち時間の短縮や患者満足度の向上が期待できます。

さらに、医療データの標準化や共有が進むことで、異なる医療機関間での連携がスムーズになり、診療の重複を防げる。この結果、医療費の削減や資源の有効活用が可能となる。AI技術を活用した診断支援や治療計画の最適化も、医療現場に新たな可能性をもたらしていると言えるでしょう。

一方で、医療DXの導入にはいくつかの課題にも直面しています。

特に、導入コストの高さやシステム運用に必要な人材の不足、情報管理の観点でのセキュリティ問題の発生は大きな課題です。

中小規模の医療機関では、新しいシステムや機器を導入する際の初期投資が大きな負担となることが多い。また、ITスキルを持つスタッフの確保や教育には時間とコストがかかります。

さらに、デジタルシステムの運用に失敗した場合には、患者データの漏洩やシステムダウンによる医療提供の停止といったリスクもあります。

これらの課題を克服するには、適切なシステム選定や運用計画、そして万全のセキュリティ対策が必要となるのです。

医療DX連携企業におけるメリット・デメリット

では、営利企業にとって今まで話していた「国内医療の問題と解決推進の機運」はどのように捉えて動くべきなのでしょうか。

医療DXに取り組むことは企業にとって、医療分野における新たな事業展開の機会を得るという大きなメリットがあります。

世界の医療機器市場は2023年に70 兆円(2027年までのCAGR*は5.9%) を超え、そのうち、米国が約47% を占めています。

一方、日本市場は2023年に約3.7兆 円で、2027年までのCAGRは3.7% と見込まれています。

市場規模としての伸長は大きくはないものの、2030ビジョンをもとにした国内の医療DXの活発化や医療従事者の働き改革施行などの確定した法改正や国家動向の中、企業が参入する検討を行う余地はある業界であると言えるでしょう。

参考:厚生労働省ヘルスケアスタートアップの 振興・支援に関するホワイトペーパー
https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/001268476.pdf

ですが一方で医療DXは前述した通り「クリニック」や「医院」といった通常の営利企業組織とは異なる団体と密連携して事業を行うことが必要不可欠です。

通常のBtoBで実施する事業連携とは当然プロジェクト進行の肌感覚が異なるし、担当者として足並みを揃えることが難しい場面も出てくるでしょう。

これらのメリット・デメリットをはじめに意識しながらリスク管理を徹底することが、医療DXにおける企業の成功の鍵となると言えます。

医療DXの導入事例5選 成功のポイントとは

医療DXは現場での成功体験が広がることで、他の医療機関や企業の導入促進につながります。ここでは、実際に成果を上げている5つの事例を紹介します。いずれも、「現場ニーズ」と「技術活用」がかみ合った点が共通項です。

① AI問診システムの導入:ユビーAI問診(南部徳洲会病院)

南部徳洲会病院では、ユビー株式会社が提供する「AI問診システム」を導入。患者がタブレットで症状を入力すると、AIが問診内容を整理し、診療前に医師が主訴を把握できる仕組みです。
これにより、紙ベースの問診票を廃止し、医師の事務作業を軽減。問診プロセスの効率化により、診療時間の有効活用と医療従事者の負担軽減を実現しました。

② AIによる画像診断支援:富士フイルム×京都大学

富士フイルムは京都大学と連携し、新型コロナウイルス肺炎の画像診断支援システムを開発。AIがCT画像を解析し、間質性肺炎の病変を定量化します。
1人の患者につき数百枚にも及ぶ画像をAIが先に処理することで、医師の目視作業を大幅に削減し、診断精度の向上にも寄与しています。

③ 業務自動化(RPA):浅川学園台在宅クリニック

浅川学園台在宅クリニックでは、RPAツール「BizRobo! mini」を活用し、訪問診療に伴う事務作業を自動化。
たとえば、医師が対応していた在宅療養計画書や訪問看護指示書の発行業務では、BizRobo! miniの導入により最大75%の作業時間が削減され、毎月約10時間の業務効率化が実現されています。

④ 遠隔医療の高度化:セーフィー株式会社の「窓」

セーフィー株式会社は、MUSVI社と連携し、テレプレゼンスシステム「窓」を仙台市のオンライン診療実証に提供。
通常のオンライン診療を超えて、「目の前に医師がいるようなリアルな診察環境」を再現し、遠隔でも患者との信頼関係を築ける新しい診療体験を創出しています。

参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000097219.html

⑤ 健康意識の変容を促すPHR事業:からだポータル株式会社

からだポータル社は、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)とリアルイベントを融合した予防医療の新事業を展開。ショッピングセンターでの健康相談会と、電子カルテ連携型PHRアプリを組み合わせることで、「病気になる前」の行動変容を促進しています。
この取り組みは、医療リソースを消費する前段階での介入=医療費抑制効果も期待されるDX事例です。

成功事例に共通する視点

これらの事例に共通するのは、以下の3点です:

  • 技術導入が目的化されず、「現場の課題解決」に直結していること
  • 医療従事者や患者との協調を前提とした導入プロセスであること
  • 業務負担や診療精度など、定量的に“改善”が示せていること

DXを“導入すること”がゴールではなく、医療の質や働き方を本質的に変える手段として運用されている点が成功要因といえます。

まとめ 医療DXは未来の持続可能な医療への第一歩

医療DXは、単なるデジタル化ではありません。限られた医療リソースの中で、いかに質の高い医療を持続的に提供していくか――そのための構造的な変革手段です。

本記事では、医療DXの定義や背景となる社会課題、政府の推進施策、そして導入事例までを見てきました。そこから明らかになるのは、医療DXが「選択肢」ではなく、「必要不可欠な取り組み」になりつつあるということです。

一方で、導入には依然としてハードルが存在します。技術面・人材面・制度面の制約は少なくなく、単独での推進は困難を伴います。だからこそ、医療機関・行政・技術提供企業が連携し、相互理解のもとで段階的に進めることが重要です。

特に企業にとっては、単なるシステム提供ではなく、現場の課題解決に寄り添うパートナーとしての関わり方が求められます。

今まさに医療DXは「導入検討から実装フェーズ」へと移行しています。制度と技術が整備されつつある今こそ、次の一手を打つ好機です。
本記事が、医療機関の方々や新規参入を検討する企業にとって、医療DXへの理解を深める一助となれば幸いです。

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この記事の監修者

監修者の写真

株式会社フィンチジャパン 代表取締役

高橋 広嗣

早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。

出版

半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法

PR Times記事

https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>

ZUU online記事

https://zuuonline.com/authors/d7013a35

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