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INTERVIEW

「真田丸」の最古絵図が発見される松江歴史館が描く、一時のブームに終わらせない戦略の展望とは何か。

花形 泰道氏

Yasumichi Hanagata
松江歴史館 事務局長

松江市の400年の歴史・文化を紹介する松江歴史館は、先日「真田丸」の最古絵図が発見されたことで、さらに大きな注目が集まっている。歴史館へ多くの方に足を運んでいただくために、ご当地自撮りサービスの企画も用意しており、9月17日(土)の鷹の爪団のSHIROZEMEのイベントに合わせて、提供が開始される。歴史・文化の伝承という原理原則を踏まえつつ、一時のブームに終わらせない戦略について松江歴史館の事務局長の花形泰道氏に、現在の取り組みや今後の展望についてお話を伺った。

―松江歴史館より「真田丸」の最古絵図が新発見されたというニュースが大きく報道されました。

昨年、「浅野文庫所蔵 諸国古城之図」の「真田丸(摂津)」が話題になりましたが、今回当館で発見された絵図はそれよりも古い絵図ということで、NHK大河ドラマ「真田丸」の放送の影響もあり大きくニュースで取り上げていただきました。真田丸を知る上で重要な手掛かりになると言われおり調査が進んでいます。 実は、当館が所蔵する全国各地の城の絵図集「極秘諸国城図」自体は、1953年に松江市民から寄贈いただいたものです。当時は松江城の図がないということで詳細な調査はしていませんでしたが、今年に入り甲府城を調査する委員会メンバーが、甲府城の図を見るために当館を訪れ、当館職員と絵図集を見ていた際に発見、大坂城の出城と言われている「真田丸」が具体的に描かれた図であることが分かり発表に至ったわけです。

―すごい新発見ですが、松江歴史館の開館のいきさつと重なる部分はあるのですか。

松江市は宍道湖東岸に城下町ができ、行政府が開かれて以来、実に400年の歴史があります。当館では様々な歴史資料を展示していますが、松江は開府当時の面影を今も強く残しつつ、発展し続けてきたことに大きな特徴があります。そこで貴重な歴史資料を収集・保存していこうという使命から、松江開府400年祭の最終年に当館は開館されました。 今回、当館が収集・保存してきた歴史資料から新たな発見があったというのは、まさに開館の使命にふさわしい発表ですので、私も職員もとても喜んでいます。ただ、こうした発見の喜びを一時のブームに終わらせてはいけないとも感じています。

―来館者は開館以降、増えているのですか。

お陰様で、2011年に開館して以来、少しずつ来館者が増えています。昨年7月に松江城が国宝に指定されたことで、来館者はますます増えています。これまで松江市所蔵の歴史資料は、主に松江城山内にある興雲閣内の松江郷土館で保管・展示していましたが、当館ができたことで、歴史資料は適切に保管できまた、今までよりずっと見やすくなりました。 また、当館の「喫茶きはる」は、現代の名工、伊丹二夫氏(注1)による創作上生菓子を食べることができる市内唯一の茶房ということもあり、観光客だけでなく松江市民からも大変人気になっています。生菓子を食べる目的でいらっしゃる方もたくさんいらっしゃいます。 さらに今年からは、松江市教育委員会が全小学校の6年生に松江城と当館を一緒に見学するカリキュラムを組んでくれました。松江城に行くだけでも楽しいですが、天守閣に登り、当館で城下町松江について学ぶといった「体験」と「学び」の両方を同時に行うことで、子供たちにより興味を持ってもらえます。 このような取り組みにより一人でも多くの子供たちが地域の歴史を知り、興味を持つことで、地域への愛着と誇りをもち、将来ふるさと松江のまちづくりに貢献してもらえたらと思い、教育委員会と当館との連携で精いっぱい取り組んでおります。 来館する理由は様々でも、市民や観光客の方々に定期的に歴史館に足を運んでもらい松江の歴史に触れてもらうことがまず何より大切だと思っています。

―一昨年秋にはヱヴァンゲリヲンとのコラボ企画も開催しました。今後もさまざまな企画を実施されていくのでしょうか。

「エヴァンゲリオン」と「日本刀」のコラボ展示は、歴史館に興味を持ってもらいかつ、足を運ばせる上で有効な打ち手でした。この企画展により今まで当館に来たことのない層のお客様が来館したり、当館を知った方も多くおられます。実際、観覧者数は、開館以来の最高の数字を記録しており、大変好評でした。 一方で、知名度のあるコンテンツとのコラボ企画頼りのマーケティングでは、やはり戦略としては物足りません。松江歴史館ならではの「学びや体験」を独自に作り出していくことが大切だと思っております。 海外の旅行ガイドブックには、松江城や足立美術館と並んで松江歴史館が紹介されているらしく、最近では外国人観光客の姿もよく見かける様になりました。

―率直にお聞きいたしますが運営上の課題はありますか。

そうですね、改善していくべき課題がたくさんあります。まず何より今まで以上に多くの方々に来館いただき、継続して楽しんでいただく仕組みをしっかり作っていくということです。インターネットを使えば、全国どこからでも、情報や商品を手に入れることができます。時代が「モノ」から「コト」へと移行している中で、その地域でしか体験できない「コトづくり」の実現は重要な戦略です。

松江歴史館は、2016年から松江ホーランエンヤ伝承館と合わせて、松江市としては初めて一部機能(学芸部門)を直営のままにし、それ以外について指定管理者制度を導入しました。指定管理者は、公募の結果山陰中央新報社に決まり、施設の維持管理と来館者数を増やすためのPRやメディアをお願いしています。この制度は、官民が互いに得意な分野に特化し施設を運営していくことで、より効果的な施設運営ができるものと考えております。

また当館は、上級武士の家をイメージしたデザインのため、外観から入りにくい、分かりにくいと言った声もいただいています。景観保護の観点から派手な外観にすることはできませんので、インターネットやITを駆使して、来館しやすい工夫をしていきたいと考えています。

例えば、玉造温泉街にはセルフタイマー専用の「カメラ台・スマホ台」が様々な場所に置かれています。こうしたおもてなしの工夫は観光客に楽しんでもらう仕掛けのアイディアだと思います。もちろんこれは一例ですが、利用者目線で様々な工夫をしていきたいと考えています。

―今後、具体的に予定している仕掛けや工夫があれば教えて下さい。

これも「コトづくり」の一環ですが、2016年9月17日に『鷹の爪団のSHIROZEME in 国宝松江城 2016』が開催されます(注2) 「SHIROZEME」は松江城の敷地内で城攻め合戦を体験できるイベントで、実際に門を破ったりチャンバラしたりと、戦国~江戸時代の道具を使って、歴史体験ができます。 当館では、このイベントに合わせて「ご当地自撮りサービス」を企画しています。このサービスを使うと、松江歴史館に設置したカメラより天守閣にいる人を外から撮影できます。なが~い自撮り棒の様なものです。通常、天守閣全体と自分の写真を撮影することは難しいのですが、松江城から250m離れた松江歴史館にカメラを設置すれば、それが可能となります。 撮影した写真は、松江歴史館に来るとオリジナルフレーム付きで受け取ることが出来る様にする予定ですので、松江城や松江歴史館に来る方に、楽しんでもらえる企画になれば嬉しいです。

―最後に。現在、松江市内で行なわれている実証実験についてご意見ください。

NICT(情報通信研究機構)が開発したNerveNet(注3)は災害に強い地域ネットワークと聞いていますが、松江市自体は幸いなことにこれまで大きな災害があまりなかったので、災害対策は実感が得にくかったです。 しかし平時で市民に慣れ親しんだ取り組みでなければ、緊急時や災害時に効果を発揮しないと思います。ですから、平時から市民や観光客に使っていただける用途の考案が、NerveNet技術活用のポイントだと思います。 新しい技術を松江市としていち早く活用できることは素晴らしいことです。松江歴史館として、できるだけ多くの方々に当館に足をはこんでいただくためにNerveNet技術の活用に今後期待します。
(注1)現代の名工 伊丹 二夫(松江和菓子研究家) 三英堂で、和菓子職人をスタートした後、彩雲堂に入社。 彩雲堂では、独創的な創作和菓子を数々発表し、人気を博す。彩雲堂 相談役を経て、2011年独立。 和菓子作りの後継者を養成すべく、全国の同業者から招聘され和菓子作りの講師を務める傍ら、松江歴史館内にて、高度な手業による、芸術品と評される創作和菓子の実演販売を行う。 ・黄綬褒章 受章 ・厚生労働大臣賞「現代の名工」 受賞 ・フードマスター ・農林水産大臣賞受賞 http://matsu-reki.jp/kiharu/menu (注2)鷹の爪団のSHIROZEME 国宝松江城の敷地内で、戦国~江戸時代の城攻め合戦を体験できるイベント。2015年11月に松江城で実施、2016年9月17日(土)に第二回SHIROZEMEとして開催予定。 門を破ったり、チャンバラをしたり、様々なアトラクションを楽しみながら、先人たちの知恵が詰まった道具や設備について知ることができる。 http://shirozeme.com/ (注3)NICT(情報通信研究機構)が開発したNerveNet 基地局同士が自動的に相互接続する機能を持ち、災害時に一部のルートで障害が発生しても直ちに別のルートに切り替え、通信を確保する無線マルチホップ技術を用いた分散ネットワークとアプリケーション。 平常時は自治体やNPO等により、地域や住民が求める情報やサービスの提供など、地域振興のツールとして、また、イベント会場での仮設ネットワークなどへの活用も可能である。 https://www.nict.go.jp/out-promotion/other/case-studies/itenweb/nervenet.html ※本研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究「メッシュ型地域ネットワーク(NerveNet)のプラットフォーム技術の研究開発」により得られたものです。

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松江歴史館(https://matsu-reki.jp//

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