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INTERVIEW

真珠産業の衰退を救うオープンイノベーション ~私は真珠産業に恩返しをしたい~

森永 のり子氏

女性起業家

Noriko Moriyama

真珠産業の革命を目指す、女性起業家森永のり子氏。世界をリードしてきた日本の真珠産業は海洋状態の悪化により主要な養殖地で生産量が激減し、この20年で生産量は3分の1以下になった。そんな危機状況を救い、日本の真珠ブランドをもう一度世界に広げるために真珠の陸上養殖に取り組む森永氏に話を伺った。

―初めまして。まず森永さんのこれまで取組みを教えて下さい。

大学卒業後にジュンアシダ、ミキモトに勤務し、装飾品の企画に関わってきました。ミキモトを退職した後は愛媛県宇和島市で真珠の知識を取得し、2004年にパールエンジェルを創業し、様々なメディアを通じて真珠の魅力を伝えてきました。魅力を伝えるだけでなくて、真珠の正しい知識も広めたいと考え、日本真珠振興会主催の「パールデザインコンテスト」の創設にも携わりました。最近は、文化学園大学や中国国立東北師範大学などでも講義をしています。右も左も真珠で、もうかれこれ真珠産業と関わりを持ってから四半世紀以上になりますね(笑)。

―なぜ、それほどまでに真珠にこだわるのですか。

一般にはあまり知られていませんが、そもそも真珠は日本人が発明した養殖技術なのです。しかも発明しただけではなく、世界の真珠産業そのものを牽引してきたのです。その証拠として、宝石の中でも真珠の取引に限っては、日本古来の貫尺法に由来する「匁(もんめ):3.75グラム」が、世界的に使われているのです。ご存じでしたか? 「匁(もんめ)」が真珠の取引で国際的に使われているのは、真珠の養殖を世界で初めて実用化したのが日本だったからに他なりません。アルファベットでは「momme」と綴られ、略号として「mom」が使われています。 そんな日本の基準がグローバルスタンダードになっている産業は他にありますか?真珠に関われば関わるほどに、日本の真珠産業ではなく世界をリードする真珠産業に貢献したいという気持ちが強くなっていったんです。

―日本の真珠産業にはどんな課題があるのですか。

今、真珠産業は大変な課題に直面しています。水産庁の統計によれば、1993年に全国生産量は80トンありましたが、今ではその3分の1以下しか有りません。しかもずっと右肩下がりです。とくに1996年から1999年にかけて起きた、アコヤ貝の大量弊死によって主要な養殖地で生産量が激減しました。海洋環境の汚染とも貝の感染症とも言われていますが、抜本的な解決は見い出せておらず、今も生産量を回復できていません。日本固有のアコヤ貝はもう棲息できないと断言する専門家もいます。つまり日本固有の真珠、通称「和珠」が世界から消滅するかもしれない、そんなところまで来ているのです。 世界をリードしてきた産業が、国内生産では消滅するかもしれないという状況ですが、真珠の国内販売はインバウンド効果で特需が続いています。そのため日本では真珠の輸入量は伸び続けています。チャンスは増えているのに足元が崩れかかっているのです。

―それは大変な課題ですね。漁業組合など業界内部ではどんな対策を取っているのですか。

対策が取れていません。自然を相手にしているため養殖できなければ打つ手なしというのが実情です。現在、主な真珠養殖地は、長崎県、愛媛県、三重県の沿岸ですが、海の状態の悪化によって、どの養殖地でも生産量は年々下がっていて、各地の真珠関連の組合は大変困窮しています。 皮肉にも日本人が発明をして真珠産業にイノベーションを起こしたにも関わらず、今の真珠産業は、生産者、加工業者、販売業者がそれぞれの関係や取引が硬直化していて、こんなに大変な課題に直面しているのに産業の中から新たなイノベーションが起こせなくなっているのです。

―イノベーションによって潤ったがゆえに、内部から産業構造を壊す様な新たなイノベーションを起こせないということですか。

その通りです。誰かが、あるいは何かが悪いということではなく、「真珠産業はこういうものだ。」という常識にどっぷり浸かっているが故です。私もその一人でした。だからこそ、この状況を何とかしなければと思う気持ちが日に日に強くなっていったのです。今は、ただただ「真珠とそこに携わる人を救いたい。」という気持ちです。 そんな折に、植物工場と同じコンセプトが真珠産業でも応用できないかというアイディアにたどり着きました。きちんと管理された環境の中で真珠養殖を行うというアイディアです。

―真珠の陸上養殖ですか。

そうです。真珠を海上ではなく陸上で養殖をすることで、生産環境が飛躍的に向上し、雇用の安定や新たな取り組みができるようになるからです。例えば自然界では年に1サイクルしか養殖できませんが、陸上養殖であれば、季節を問わず生産が可能です。さらに海流や温度を調節することで、貝のストレスを軽減でき真珠層を作るスピードを大幅に効率化する事も可能です。私はこのアイディアを「森の真珠」と呼んでいます。 専門家に聞いたのですが、植物工場のシステムというのは、センサーのお化けで、膨大なデータを分析し学習することで、どんどん効率が良くなり高品質な野菜が作れるのだそうですね。真珠産業も、そういうの外の知恵をどんどん採り入れたらいいのだと思います。 真珠産業は、決して閉鎖的な産業ではありませんが、外の知恵を上手に取り込むことは不得手だったと思います。だから私はその役割を果たそうと思ったわけです。

―大変な使命だと思いますが、失礼ながら構想段階でまだ実現できていませんね。

たしかに構想段階です。ただ四半世紀も真珠産業にお世話になってきたのですから、諦めずに取り組みたいと思います。それに私がやらなくても誰かがやらなければいけないことですし(笑)、私には恩返しの気持ちがあるのでやり遂げるつもりです。 だいぶ昔に、真珠の研究者から「あと2〜3年で海が壊れて真珠の養殖ができなくなるだろう。」という話を聞きまして、当時はまさかと思いましたが、実際、みるみる国内の真珠生産が減っていきました。 真珠養殖は漁業ですから、現場を仕切っているのは殆どが男性です。宝石としての真珠の魅力は、男性よりも女性の方がわかるはずです。逆に真珠の危機は、男性よりも女性である私の方が強く感じています。「このままじゃダメだ。真珠をそして真珠を取り巻く労働環境を、女性たちの手によって守り、これからも長く受け継いでいきたい。」そんな願いで協力していただける方を集めています。 現在、三重県から許可を頂き、県の水産研究所、県内の真珠生産業者の協力を得ながら、実用化に向けて検討を進めているところです。まだ日本固有の真珠「和珠」を綺麗に育てるための環境データなどが揃っていないため、まずは1つ、陸上で品質の高い真珠を作れることを示すことから始めていく必要があります。そのためには、今以上に研究チームの人材や企業のサポートが必要です。 真珠養殖の課題は大きくなるばかりで、あまり悠長にはしていられません。真珠産業の外で起きている様々な技術革新をどんどん取り込むことで、事業化をしていきたいと思います。

―貴重なお話ありがとうございました。最後に一言お願いします。

東京オリンピックの年には、世界中の人に日本産の真珠を手に取ってもらうことで、日本の伝統を伝えていけたらいいなと思っています。真珠は技術と伝統を融合できる日本の貴重な財産です。真珠を核にして、教育や科学、デザインと様々な分野で「Made in Japan」を世界に発信し、ミキモトの作り上げた日本の真珠ブランドをもう一度世界に広げたいと思っています。

Profile

森永のり子 文化女子大学専攻科修了後、(株)ジュンアシダ、(株)ミキモトに勤務し、退職後、愛媛県宇和島市で真珠の知識を取得。2004年に会社(有)パールエンジェルを設立。TV通販番組や雑誌にも多数出演。文化学園大学・中国国立東北師範大学の特別講義・横浜国立大学 大江ゼミ・東海大学 遠藤ゼミの講師も務めている。 (一社)日本真珠振興会が主催する「パールデザインコンテスト」を発足、実行委員として当コンテストを運営する。20年以上前から海の環境の変化を危惧し100年先の未来に真珠を残すべく「森の真珠プロジェクト」を立ち上げた。

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