KPIとは?意味から設定方法・具体例まで徹底解説
公開日:2025.09.19更新日:2025年9月19日
目次
はじめに
ビジネスの現場では「KPI」という言葉を耳にする機会が増えている。営業、マーケティング、人事など部門を問わず活用されるこの指標は、単なる管理ツールではなく、組織が目標達成に向けて進んでいるかを示す”コンパス”の役割を果たす。
しかし、多くの企業で「KPIを設定したけれど、現場で形骸化してしまった」「本当に意味のある数字になっているのか不安」といった悩みが聞かれる。これは、KPIが表面的な数値目標にとどまり、本来の目的である組織の方向性を共有し、改善を促す仕組みとして機能していないためだ。
DX推進や新規事業の立ち上げといった大きな変革の場面では、KPIの設計が成功の鍵を握る。適切に設定されたKPIは、チーム全体が共通の目標に向かって進む力を生み、また進捗を数値で確認することで、経営層や発注者に対しても透明性と安心感を提供する。
例えば、フィンチジャパンが支援したあるプロジェクトでは、新規サービスの開発において「アイデア数」や「検証サイクルの速度」をKPIに設定した。これにより、成果がすぐに売上に直結しない初期段階でも、プロジェクトの進展を客観的に評価でき、投資判断を安心して行うことができた。
本記事では、KPIの基本から設定方法、具体例、そして実務での活用ポイントまでを解説する。「KPIをどう設定すれば、自社の成長に役立てられるのか?」という疑問を持つ方にとって、実際のビジネスで使える知識とヒントをお届けしたい。
KPIの基本
KPI(重要業績評価指標)とは KPIとは
KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、日本語では「重要業績評価指標」と訳される。簡単に言えば、最終目標に到達するために、途中の過程でチェックすべき中間目標のことだ。企業が目指すゴールは明確でも、そこに至るまでの道筋が曖昧では、組織は迷走してしまう。KPIは、この道筋を数値で明示し、進むべき方向を示す役割を担う。
例えば「年間売上10億円を達成する」というゴール(KGI)に対して、月ごとの商談件数、成約率、新規顧客数といった数値を追いかけるのがKPIだ。これらの指標があることで、組織は「どこが順調で、どこに改善が必要か」を早い段階で把握できる。売上という最終結果を待たずに、プロセスの段階で課題を発見し、必要な対策を講じることが可能になる。
また、KPIは組織内のコミュニケーションを円滑にする効果もある。「頑張ろう」「もっと努力しよう」といった抽象的な言葉ではなく、具体的な数値を共有することで、チーム全員が同じ認識を持ち、一丸となって目標に向かうことができるのだ。
KPIとKGIの違い
KGI(Key Goal Indicator)は最終目標の達成度を測る指標だ。一方、KPIはその目標に至るまでのプロセスを測る指標である。両者の関係性を理解することは、効果的な目標管理の第一歩となる。
具体例で説明すると、KGIが「年間売上10億円」であれば、KPIは「月間新規顧客50社」「成約率20%」「平均受注単価200万円」といった形になる。つまり、KGIが「ゴール」だとすると、KPIは「ゴールまでの道しるべ」にあたる。
この違いを明確にすることで、組織は短期的な活動と長期的な成果を両立できるようになる。KPIを適切に設定すれば、ゴールまでの進捗を定量的に把握でき、必要に応じて戦略を修正することも可能だ。また、KGIだけでは見えない「なぜ目標を達成できなかったのか」という原因分析も、KPIがあることで具体的に行える。経営層にとっても、現場の活動状況を数値で把握でき、的確な指導や支援を提供できるようになる。
KPIとOKRの違い
近年は「OKR(Objectives and Key Results)」という概念も注目されている。OKRは、挑戦的な目標(Objectives)と、それを裏付ける主要な成果(Key Results)で構成される目標管理手法だ。KPIとOKRは混同されやすいが、それぞれ異なる特徴を持つ。
違いを整理すると、KPIは達成すべき基準を「安定的に追い続ける指標」である一方、OKRはより高い目標に挑戦するための「ストレッチ指標」と言える。KPIは継続的な業務改善に重点を置き、OKRは組織の飛躍的成長を目指す場面で効果を発揮する。
例えば「新規事業を立ち上げる」場合、KPIは「毎月のプロトタイプ検証数」「顧客インタビュー件数」といった形で設定され、OKRは「半年で新規市場に進出する」「ユーザー数を10倍にする」といった挑戦的な目標になる。
両者は対立するものではなく、補完関係にある。KPIが足場を固め、OKRが挑戦の方向性を示すことで、企業の成長を両面から支えることができる。安定した運営基盤の上に、革新的な取り組みを重ねることで、持続可能な成長を実現できるのだ。
KPIを設定する意義
KPIは単なる数字の管理表ではない。正しく設計することで、組織の方向性を明確にし、発注者や経営層に安心感を与える重要な仕組みになる。ここでは、KPIを設定することで得られる主要なメリットについて詳しく解説したい。
目標達成までの道筋を可視化する 最終目標(KGI)だけを掲げても、現場は「具体的に何をすればよいのか」がわからない。「売上を伸ばそう」という掛け声だけでは、営業担当者は何から手をつけてよいか迷ってしまう。KPIを設定することで、ゴールまでの道筋を数値で可視化でき、組織全体が「どの方向に努力すべきか」を明確に理解できるようになる。
例えば、新規顧客からの売上を伸ばすという目標に対して、「新規顧客の獲得件数」「初回提案から契約までの期間」「平均受注単価」をKPIとして設定する。これにより、営業チームは顧客開拓活動、提案スピードの向上、単価アップの交渉といった具体的なアクションを明確に認識できる。
さらに、各KPIの数値推移を追うことで、どの活動が結果につながりやすいかも把握できる。提案件数は増えているが成約率が低い場合は提案内容の見直しが必要だし、成約率は高いが新規顧客数が伸びない場合はマーケティング活動の強化が求められる。このように、KPIは単なる管理指標ではなく、次の打ち手を導き出すための羅針盤として機能するのだ。
チームの認識を統一する
プロジェクトでは、部門ごとに視点が異なるため「目標の解釈」にズレが生まれがちだ。営業部門は売上に注目し、マーケティング部門は集客に注目し、開発部門は品質に注目する。それぞれが重要な視点を持っているが、バラバラに動いていては組織としての力を発揮できない。
KPIを設定すれば、共通の数値基準をもとに意思疎通が可能になり、会議や報告の場でも具体的に進捗を語れるようになる。「頑張っています」「順調です」といった主観的な表現ではなく、「新規リード数は目標の120%を達成」「コンバージョン率は前月比で10%改善」といった客観的な情報を共有できる。
結果として、組織全体のスピード感と一体感が高まる。問題が発生した際も、どの指標が悪化しているかを見れば、どの部門が支援を必要としているかが一目で分かる。部門間の連携が強化され、チーム一丸となって目標達成に向かうことができるのだ。
PDCAを回しやすくする
KPIは「行動と成果の関係」を定量的に把握できるため、改善活動の起点になる。数値を定期的にレビューすることで、どの施策が効果的で、どこを改善すべきかが明確になる。これにより、PDCAサイクルを効率よく回し、事業の改善スピードを高めることができる。
従来の感覚的な判断では「なんとなくうまくいっている」「なんとなく調子が悪い」という程度の認識しか得られない。しかし、KPIがあることで「どの活動が」「どの程度」「どのような影響を与えているか」を数値で把握できる。
例えば、Webサイトのリニューアルを行った場合、訪問者数、滞在時間、問い合わせ件数といったKPIの変化を追うことで、リニューアルの効果を客観的に評価できる。効果が出ていない部分があれば、さらなる改善策を検討し、次のアクションにつなげることができる。このように、KPIは継続的な改善活動を支える基盤として機能するのだ。
発注者や経営層に透明性を提供する
KPIを提示することは、単に内部管理のためだけではない。外部パートナーや経営層に対して「このプロジェクトは順調に進んでいる」という透明性を示すことにつながる。特に新規事業や長期プロジェクトでは、成果が見えるまでに時間がかかるため、中間段階での進捗報告が重要になる。
例えば、新規事業の初期段階では売上が立たなくても、「顧客検証数」「試作品の改善回数」「パートナー企業との商談件数」といったKPIを見せることで、投資判断や意思決定に安心感を与えることが可能だ。発注者は「お金を払った価値があるのか」を常に気にしているが、明確なKPIがあることで「着実に前進している」ことを理解してもらえる。
また、KPIは説明責任を果たす手段としても機能する。なぜその数値を選んだのか、どのような根拠で目標を設定したのかを論理的に説明できれば、発注者との信頼関係を構築でき、プロジェクトの継続や追加投資の判断もスムーズになる。
KPIの設定方法
KPIを正しく設計するには、単に数値を掲げるだけでは不十分だ。ゴールから逆算し、現場の活動と結びついた指標を選ぶことが重要である。ここでは、実務で使える代表的な方法と活用ポイントを紹介する。
KPIツリーで整理する
KPIを設計する際に有効なのが「KPIツリー」だ。これは、最終目標(KGI)から逆算して、達成に必要な要素を枝分かれさせて整理する手法である。複雑な目標を構成要素に分解することで、どこに注力すべきかが明確になり、数値の因果関係を組織全体で共有できる。
例として、KGI「年間売上10億円」を分解してみよう。売上は「新規顧客数×平均単価」で構成される。新規顧客数はさらに「商談数×成約率」に分解できる。商談数は「見込み客数×アポイント獲得率」、成約率は「提案品質×価格競争力×営業スキル」といった具合に、細かく要素分解していく。
このようにツリー化すると、売上向上のためには「見込み客を増やす」「アポイント獲得率を上げる」「提案品質を向上させる」「営業スキルを高める」といった具体的なアクションが見えてくる。また、どの要素が最も売上に影響を与えるかも分析できるため、限られたリソースを効果的に配分できるようになる。
KPIツリーは一度作成すれば終わりではない。事業環境の変化や戦略の見直しに応じて、定期的に更新することで、常に最適な指標体系を維持できる。
SMARTの法則でチェックする
KPIが「実際に機能する指標か」を確認するには、SMARTの法則が有効だ。この法則は、目標設定の質を高めるための5つの基準を提供する。
Specific(具体的):「新規リード獲得数を増やす」ではなく「月間新規リード100件を獲得する」といった具体的な表現にする。Measurable(測定可能):数値で測れる指標を選ぶ。「顧客満足度を向上させる」ではなく「顧客満足度スコア4.5以上を達成する」とする。Achievable(達成可能):過去実績やリソースから判断して実現可能な水準に設定する。Relevant(適切):最終ゴール(KGI)との関連性が明確であることを確認する。Time-bound(期限付き):「3か月以内に達成」といった明確な期限を設ける。
この5つの観点を満たすことで、KPIが現場で実行可能かどうかを事前に確認できる。また、SMARTの法則に沿って設定されたKPIは、メンバーにとっても理解しやすく、モチベーション向上にもつながる。曖昧な目標では「何をどこまでやればよいのか」が分からず、達成感も得られにくいが、明確な基準があることで、日々の業務に対する集中力と達成感を高めることができる。
プロセスごとの数値化と分解
KPIは結果だけでなく、プロセスに着目することも重要だ。結果指標だけを追いかけていては、問題が発生してから対応することになり、手遅れになりかねない。プロセス指標を設定することで、結果に至る前の段階で課題を発見し、早期に改善策を講じることができる。
営業部門であれば「最終的な契約件数」だけでなく、「アポイント数」「提案資料の送付件数」「見積書の提出件数」といったプロセスKPIを設定する。マーケティング部門では「最終的なリード獲得数」に加えて、「サイト訪問数」「資料ダウンロード数」「セミナー参加者数」を追いかける。人事部門では「最終的な採用人数」と並んで「応募者数」「書類選考通過者数」「面接実施数」を管理する。
こうしたプロセスKPIを設定すれば、結果に至るまでの各段階での課題を特定できる。例えば、アポイント数は十分だが契約に至らない場合は、提案内容や営業スキルに改善の余地があることが分かる。逆に、アポイント数自体が不足している場合は、マーケティング活動の強化が必要だと判断できる。
実務でのポイントとして、KPIは「管理表を埋める数字」ではなく、行動を変えるための数字であることを忘れてはならない。設定段階から「この数値が上がれば、どんな成果につながるか?」を具体的にイメージし、現場のメンバーが納得できる指標を選ぶことが、成功への近道になる。
KPIの具体例
KPIは業種や部門によって内容が大きく変わる。画一的な指標を全社に適用するのではなく、それぞれの役割や目標に応じて最適な指標を選択することが重要だ。ここでは営業、マーケティング、人事の3部門を例に、実際に使われる代表的なKPIを紹介する。自社の状況に照らし合わせて考える際の参考にしていただきたい。
営業部門のKPI
営業部門では、最終的な売上目標(KGI)を達成するために、商談数や成約率など活動プロセスに直結するKPIが重視される。単に「売上を上げろ」と指示するだけでは、営業担当者は何から手をつけてよいか分からない。具体的なKPIがあることで、日々の活動に明確な方向性を持たせることができる。
代表的な営業KPIには、新規商談件数、既存顧客との商談件数、提案書提出数、見積書提出数、成約率、平均受注単価、営業サイクル期間(初回接触から受注までの日数)、顧客単価向上率などがある。これらの指標を組み合わせることで、営業活動の全体像を把握できる。
具体例として、年間売上10億円を目指す企業の場合を考えてみよう。「月間新規商談50件」「既存顧客商談30件」「成約率20%」「平均受注単価1000万円」といったKPIを設定することで、売上に直結するプロセスを管理できる。さらに、営業担当者ごとにKPIを設定し、個人の強みや課題を明確にすることで、より効果的な指導や支援を提供できるようになる。
重要なのは、結果指標(受注件数、売上金額)だけでなく、行動指標(訪問件数、電話件数、提案件数)もバランスよく設定することだ。これにより、成果が出ない場合の原因分析も容易になり、改善策を迅速に講じることができる。
マーケティング部門のKPI
マーケティングは「集客」や「認知拡大」が主な目的になるため、リード獲得やコンバージョン率に関するKPIがよく使われる。営業部門とは異なり、直接的な売上貢献が見えにくい部門だが、適切なKPIを設定することで、マーケティング活動の効果を定量的に評価できるようになる。
主要なマーケティングKPIには、Webサイト訪問数、ページビュー数、セッション継続時間、資料ダウンロード件数、セミナー参加者数、メール配信の開封率・クリック率、ウェビナー参加者数、SNSフォロワー数、コンバージョン率(CVR)、顧客獲得コスト(CAC)などがある。
実際の活用例として、あるBtoB企業では「月間サイト訪問者数5000人」「資料ダウンロード件数500件」「CVRを2%から3%に改善」「セミナー参加者数100人」といったKPIを設定した。これにより、各施策の効果を客観的に評価でき、営業部門に引き渡すリードの質と量を着実に向上させることができた。
マーケティングKPIで注意すべきは、「数を追うだけ」にならないことだ。サイト訪問数が増えても、質の低いリードばかりでは営業部門の負担が増すだけである。量的指標と質的指標をバランスよく設定し、最終的な売上貢献につながる活動を重視することが重要だ。
人事部門のKPI
人事部門におけるKPIは、採用、育成、定着の観点で設定される。人材は企業の競争力の源泉であり、適切な人事KPIを設定することで、組織の持続的な成長を支えることができる。特に人材不足が深刻化する現在、人事部門の役割はますます重要になっている。
採用関連のKPIには、採用充足率(採用計画に対する達成度)、応募者数、書類選考通過率、面接実施率、内定承諾率、採用コスト、採用期間(募集開始から入社までの日数)などがある。育成関連では、研修受講率、スキル習得度、昇進・昇格率、社内異動率などが重要だ。定着関連では、離職率、勤続年数、従業員満足度スコア、有給取得率などが代表的な指標となる。
フィンチジャパンが支援したある企業では、急速な事業拡大に伴う人材確保が課題となっていた。そこで「月間応募者数50人」「内定承諾率80%」「入社後6か月以内の離職率5%以下」「新入社員の研修完了率100%」といったKPIを設定した。採用活動だけでなく、入社後の育成施策や職場環境の改善にも注力することで、採用から定着までの一連のプロセスを最適化し、組織の成長を支えることができた。
人事KPIの特徴は、短期的な成果だけでなく、中長期的な組織の健全性を測る指標が多いことだ。そのため、四半期や年次での定期的なレビューを行い、継続的な改善を図ることが重要になる。
よくある失敗と注意点
KPIは組織を成長に導く有効な仕組みだが、設定や運用を誤ると形骸化し、かえって現場の負担になることがある。多くの企業で見られる失敗パターンを理解し、事前に回避することで、KPIを真に機能する仕組みにすることができる。ここでは、特に頻繁に発生する失敗例とその対策を詳しく解説する。
曖昧で測定できないKPI
「顧客満足度を上げる」「ブランド力を高める」「チームワークを向上させる」といった表現は、目標として重要だが、数値で測れないため改善につながりにくいという大きな落とし穴がある。曖昧な指標では、達成度を客観的に判断できず、メンバー間で認識の齟齬が生まれやすい。また、改善策を検討する際も、具体的な数値がないため、効果的な打ち手を見つけにくくなる。
この問題を回避するには、抽象的な概念を測定可能な指標に置き換えることが重要だ。顧客満足度であれば、アンケートスコアやNPS(ネットプロモータースコア)、リピート購入率、解約率といった具体的な数値で評価する。ブランド力であれば、ブランド認知度調査の結果、SNSでの言及数、指名検索数などを活用する。チームワークの場合は、プロジェクトの完了率、部門間の連携件数、社内満足度調査の結果などを指標とする。
測定可能なKPIにすることで、現状把握が正確になり、改善の方向性も明確になる。また、メンバー全員が同じ基準で成果を評価できるため、公平性と透明性も向上する。
結果に直結しないKPI
KGIとの関連性が薄い数値をKPIにしてしまうと、努力しても成果が出ず、チームのモチベーションが下がってしまう。例えば、売上向上が目標なのに「社内会議の回数」や「資料作成件数」をKPIに設定してしまうようなケースだ。これらの活動が全く無意味ではないが、売上に与える影響は限定的であり、KPIとしては不適切である。
このような問題を避けるには、KPIツリーを用いて「その数値が上がると最終目標にどのように寄与するか」を因果関係で整理することが重要だ。売上向上を目標とする場合、「新規顧客数×平均単価×リピート率」といった形で分解し、それぞれに対応するKPIを設定する。各KPIが最終目標にどの程度影響を与えるかも定量的に分析し、優先順位をつけることで、効果的なKPI体系を構築できる。
また、定期的にKPIの有効性を検証し、実際の成果との相関関係を確認することも重要だ。相関が低いKPIは見直し、より効果的な指標に変更することで、常に最適なKPI体系を維持できる。
達成不可能なKPI
リソースや市場環境を無視した非現実的な数値設定は、現場を疲弊させるだけで逆効果になる。例えば、過去の実績が月間新規顧客10社なのに、突然「月間新規顧客100社」をKPIに設定するような場合だ。このような無謀な目標は、メンバーのやる気を削ぎ、最悪の場合は組織の士気低下や離職につながりかねない。
達成可能なKPIを設定するには、過去実績、業界水準、競合他社の状況、保有リソース、市場環境などを総合的に分析することが必要だ。現在の実績を基準として、段階的に向上させるアプローチが効果的である。例えば、月間新規顧客10社の実績があれば、まず15社、次に20社といった形で、着実にステップアップできる目標を設定する。
ただし、簡単すぎる目標も問題だ。適度なチャレンジがあることで、メンバーの成長意欲を刺激し、組織全体のレベルアップを図ることができる。過去実績の120%~150%程度
社内で納得感を得られないKPI
経営層だけで決めたKPIは、現場から「現実と合っていない」「実情を理解していない」と受け止められ、形骸化しやすくなる。トップダウンで一方的に押し付けられた数値目標は、現場の抵抗を招き、表面的には従っているように見えても、実質的な改善活動につながらないことが多い。
このような問題を避けるには、現場担当者を巻き込み、“使える指標”として共に作るプロセスを大切にすることが重要だ。KPI設定の際は、経営層の意向だけでなく、現場の意見や実情を十分に聞き取り、双方が納得できる落としどころを見つける必要がある。現場のメンバーが「この指標なら自分たちの努力で改善できる」「この数値が上がれば確実に成果につながる」と実感できるKPIを設定することで、自主的な改善活動を促すことができる。
また、KPIの設定根拠や計算方法を透明にし、なぜその指標を選んだのかを丁寧に説明することも重要だ。メンバーが納得できる理由があることで、KPIに対する信頼感と協力意欲を高めることができる。発注者にとっても「このKPIなら信頼して任せられる」と納得できる仕組みになり、プロジェクトの透明性と持続性が高まる。
KPIを運用するためのポイント
KPIは一度設定すれば終わりではなく、日々の運用を通じて改善と学びを積み重ねることが重要だ。せっかく適切なKPIを設定しても、運用面で問題があれば効果は半減してしまう。ここでは、KPIを形骸化させず、実際に成果につなげるための運用ポイントを詳しく解説する。
ダッシュボードやツールを活用する
KPIは「見える化」されてこそ意味を持つ。数値が担当者の手元にあるだけで、他のメンバーが確認できない状態では、組織としての改善活動は進まない。ExcelやBIツール、CRMシステム、専用のダッシュボードツールを用いて、リアルタイムに数値を可視化し、関係者が同じ情報を共有できるようにすることが大切だ。
効果的なダッシュボードには、いくつかの特徴がある。まず、一目で状況を把握できるシンプルな画面構成にすることだ。複雑すぎる画面では、重要な情報が埋もれてしまい、かえって使いにくくなる。次に、リアルタイムまたは定期的な自動更新機能を持たせることで、常に最新の状況を確認できるようにする。さらに、目標値との比較や前期比較、トレンド分析などの機能を盛り込むことで、数値の意味を直感的に理解できるようにする。
営業部門の例では、商談数、成約率、売上実績などをダッシュボード化し、チーム全員が進捗を確認できるようにする。これにより、週次や月次の会議での報告が効率化され、数値をもとにした具体的な議論が可能になる。また、個人の実績も可視化することで、メンバー同士が刺激し合い、自然と競争意識が生まれる効果も期待できる。
レビューと改善を継続する KPI
は設定時点では最適であっても、事業環境や市場状況の変化により、時間が経つにつれて有効性が低下することがある。そのため、定期的にレビューを行い、状況に応じて修正する柔軟性が求められる。市場環境の変化、競合他社の動向、顧客ニーズの変化、組織体制の変更などに応じて、指標を更新しなければならない。
レビューの頻度は、事業の性質や変化のスピードに応じて決める。急速に変化する市場では月次レビューが必要な場合もあれば、安定した業界では四半期に一度で十分な場合もある。重要なのは、形式的なレビューに終わらせず、実際の成果や現場の声をもとに、KPIの有効性を客観的に評価することだ。
実例として、ある新規事業では、当初は「顧客インタビュー数」「プロトタイプの作成数」をKPIに設定していた。しかし、事業フェーズが進み、市場投入の段階に入ると、「有料トライアル契約数」「継続利用率」「顧客獲得コスト」といった指標により変更した。このように、成長ステージに合わせて評価基準を進化させることで、常に適切な指標で事業を管理できるようになる。
DX推進や新規事業と連動させる
特にDXや新規事業開発においては、KPIは「進捗の見える化」と「経営判断の裏付け」に直結する重要な要素となる。これらの取り組みは成果が出るまでに時間がかかることが多く、売上が立つ前の段階でも、着実に前進していることを示す必要がある。適切なKPIがあることで、投資判断に安心感を与え、プロジェクトの継続性を担保できる。
DXプロジェクトでは、「システムの稼働率」「業務効率化の度合い」「デジタルツールの利用率」「従業員のスキル習得状況」といった指標をKPIとして設定する。新規事業では、「検証サイクルの速度」「PoC(概念実証)の成功率」「顧客フィードバックの収集件数」「パートナーシップ締結数」などが有効だ。
これらのKPIは、従来の売上中心の指標とは異なるが、イノベーションや変革の過程では非常に重要な意味を持つ。発注者や投資家に対しても、「数値で測れる進歩がある」ことを示すことで、長期的な視点での支援や投資を得やすくなる。また、プロジェクトメンバーにとっても、日々の努力が数値として現れることで、モチベーションの維持と向上につながる。
実務でのポイントとして、KPIは「管理のための数値」ではなく、行動を変え、成長を加速させる仕組みであることを常に意識する必要がある。運用段階では、数値の推移を通じて組織の学習効果を高め、次の一手を導き出すことが重要だ。数字に振り回されるのではなく、数字を活用して組織をより良い方向に導くことが、KPI運用の本質なのである。
まとめ
KPIは単なる業務管理の道具ではなく、組織をゴールへ導くコンパスだ。正しく設計・運用することで、現場の行動と経営の意思決定を結びつけ、プロジェクトの成果を最大化できる。
本記事で取り上げたように、KPIはKGIに至るプロセスを数値化する指標であり、SMARTの法則やKPIツリーを活用することで実務に落とし込める。部門ごとに適切なKPIを設定することで課題を早期に発見でき、運用段階ではレビューと改善を継続し、DXや新規事業と連動させることで投資判断の透明性も高まる。
これらのポイントが、KPI活用の成功につながる重要な要素だ。フィンチジャパンが支援してきた数多くのプロジェクトでも、「KPIの設計と運用」を成功要因として挙げるケースが多くある。特に新規事業やDXの初期段階では、売上という最終成果がすぐに見えにくいため、適切なKPIを設計することが「次の一歩」を支える判断基準になる。
KPIを正しく活用すれば、発注者にとっても「プロジェクトが着実に進んでいる」という安心感を得られるはずだ。ぜひ自社の状況に合ったKPIを設計し、持続的な成長の基盤として活用していただきたい。
フィンチジャパンからのご提案|DXを「再成長の起点」に変えるために
私たちフィンチジャパンは、2006年の創業以来、400件を超える新規事業の立ち上げと事業成長支援、さらに150社以上の既存事業の再成長支援、DX/AI推進、経営戦略の立案・実行支援を行ってきた。
こんなお困りごとはないだろうか?
DXの必要性は理解しているが、「どこから手をつければよいのかわからない」。デジタル施策を導入したものの、業務フローや人材が追いつかず成果が出ない。部門ごとに取り組みが分断され、顧客体験やブランド体験が一貫しない。オフライン中心のオペレーションが属人化し、データ活用や可視化が進まない。
フィンチジャパンは、こうした課題に対して戦略設計から現場定着まで一貫して支援する。
コンサルティング実績の一例
エネルギー企業O社では約3年にわたるDX改革を支援した。全社横断のDX構想から施策実行までを一貫してサポートし、既存事業の効率化と新たなサービス創出の両立を実現した。電気通信サービスY社では6年間にわたってグリーンマネジメントソリューションの構築を支援し、環境課題への対応を軸とした新規事業のプラットフォーム化を達成した。化粧品メーカーL社では1年間で予防市場の新サービス開発を支援し、既存の製品開発ノウハウを再定義することで、新たな価値提案による事業転換をサポートした。
DXは「価値の再設計」から始まる。業界や事業特性に応じた変革をお考えなら、ぜひフィンチジャパンにご相談いただきたい。現場と経営をつなぎ、成果に直結する伴走をご提供する。
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コンサルティングの成功事例 - など
この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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