オープンイノベーション2.0とは?1.0との違いと社会課題解決型の事例を解説
公開日:2018.12.31更新日:2025年8月8日

近年、日本企業でもオープンイノベーションや新規事業に本格的に取り組む企業が急増しています。AIやIoT、Fintechといった新技術の可能性が広がる中、企業は内製よりも外部連携、買収よりも協調を重視し、新たな価値創出を目指しています。その進化系として注目されるのが「オープンイノベーション2.0」です。
本記事では、従来型(オープンイノベーション1.0)との違いを整理しながら、オープンイノベーション2.0がもたらす変化や社会課題解決に向けた事例を解説します。
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目次
オープンイノベーションとは?
クローズドイノベーションの限界
従来の企業活動は、自社のリソースだけで研究開発を行う「クローズドイノベーション」が主流でした。しかし、技術の進化や市場の変化が加速するなか、自社だけでイノベーションを生み出すには限界があることが次第に明らかになってきました。
特に2000年代以降、オープンソース技術の進展と共に、外部の知識や技術を活用する文化が広まり、企業は自前主義からの脱却を迫られるようになりました。資金力や社内リソースだけで技術的優位性を維持することが難しくなり、イノベーションのスピードと質の両立が求められる時代へと移行しています。
こうした背景を受け、2003年にヘンリー・チェスブロウ氏が自社だけでなく外部の技術やアイデア、リソースを活用して新しい価値を創出するアプローチとして「オープンイノベーション」を提唱しました。
オープンイノベーション1.0の定義と特徴
オープンイノベーション1.0とは、企業と大学、企業とベンチャーなどが1対1で連携し、研究開発や新規事業に取り組む初期型のオープンイノベーションモデルを指します。この段階の連携は、企業の内部R&Dを補完する手段として活用され、「効率的な技術開発」や「スピーディな事業化」が主な目的でした。主導権は多くの場合、企業側にあり、パートナーは技術やアイデアの提供者という立場にとどまる傾向がありました。
このモデルは、従来のクローズドな企業文化からの移行を促す一歩として一定の役割を果たしましたが、次第に新たな課題も浮き彫りになっていきます。技術の進化や社会課題への関心の高まりといった環境の変化を受けて、オープンイノベーションは新たなフェーズへと進化していきました。
オープンイノベーション1.0の限界とは?
技術の低価格化とスタートアップの台頭
クラウド、オープンソースソフトウェア、AIなどの技術革新により、少人数でも短期間で高品質なサービスやプロダクトを開発できる環境が整ってきました。これにより、従来は大企業の専売特許だった研究開発領域でも、スタートアップが機動力と柔軟性を武器に台頭し、技術革新の担い手として存在感を高めてきました。
1対1の連携では限界がある理由
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展は、業務プロセスのデジタル化にとどまらず、業界の枠を超えた新たな価値創造を求める動きを加速させています。これに伴い、業界横断的な連携や多様なプレイヤーの協働が求められる場面も増えています。
例えば、医療×ITや農業×ロボティクスといった異分野間の連携は、次世代のイノベーションを生み出す重要な要素となっています。こうした中、企業と外部組織が1対1で連携する従来のモデルでは、多様化するニーズや、求められるスピード感に対応しきれなくなってきているのが実情です。
「誰のためのイノベーションか」への問い
かつてのオープンイノベーションは、主に企業の競争力強化や利益向上を目的としていました。しかし近年、社会全体がSDGsの達成やカーボンニュートラル、地域共生などの社会課題解決に向けて動き始めたことで、「企業中心のイノベーション」では共感や支持を得にくくなっています。
こうした時代背景の中で、ユーザー視点を起点とし、多様なステークホルダーと共創する「社会課題解決型のオープンイノベーション」への移行が強く求められています。これが、次に解説する「オープンイノベーション2.0」の基本的な考え方です。
オープンイノベーション2.0とは?
社会課題を起点にしたイノベーション
オープンイノベーション2.0では、社会課題の解決が中心的な目的となります。経済的利益の追求よりも、持続可能な社会の実現に向けた価値創出が重視されている点が大きな特徴です。
多対多・エコシステム型の共創
企業、大学、行政、市民、ユーザーなど、多様なステークホルダーが連携し、それぞれの視点やリソースを持ち寄って共創を進めていきます。こうした多層的な連携は「イノベーション・エコシステム」とも呼ばれ、複雑化する社会課題への対応に不可欠な枠組みとなりつつあります。
ユーザー中心のイノベーション設計
オープンイノベーション2.0では、ユーザーが単なる受け手ではなく能動的な参加者として関与します。アイデアの提供や意思決定に参画することで、よりニーズに即したサービスやプロダクトの創出が可能になります。ユーザーの声を起点とした共創こそが、オープンイノベーション2.0の核となる要素です。
欧州連合(EU)が提唱した「オープンイノベーション2.0戦略」では、イノベーションを「社会全体の幸福や課題解決に資する行動」として位置づけており、日本でもその考え方は徐々に広がりつつあります。
もしオープンイノベーション1.0が「技術×連携」だとすれば、2.0は「社会課題×共創」。ビジネスを超えて、より広範な社会的連携がこれからのイノベーションの主軸となるでしょう。
ユーザー起点×共創で社会課題に挑む:オープンイノベーション2.0の実践視点
ユーザーの声を起点にした設計と仮説検証
オープンイノベーション2.0では、「誰の課題を解決するのか」「どのように社会的インパクトを生むのか」といった視点が、企画や設計の初期段階から求められます。そこで重要になるのが、ユーザー起点の発想です。
従来の製品開発では、技術的な実現性や企業の戦略が優先される傾向にありました。しかし、社会課題を扱う領域では、それだけでは真のニーズに応えきれないケースが少なくありません。そのため、実際の利用者や地域住民の声を起点に、仮説と検証を繰り返しながら設計・実装していくアプローチが重視されています。
共創による関係性づくりと持続可能性
また、社会課題は一つの組織だけで解決できるものではありません。多様な価値観や知見を持つステークホルダーが立場を超えて関与することで、はじめて有効な解決策が見えてくるのです。これはまさに「共創(co-creation)」の本質であり、オープンイノベーション2.0の中核をなす考え方です。
このような実践では、特定の「成果物」そのものよりも、「プロセス」や「関係性の構築」が重視される傾向にあります。継続的な対話と信頼関係の構築こそが、持続可能なイノベーションを支える土台となります。
オープンイノベーション2.0の実践事例
ここでは、オープンイノベーション2.0の考え方を体現する先進事例を4つ紹介します。いずれも、社会課題解決やユーザー起点の発想を核とした共創型の取り組みです。
①Google:X Labによる社会課題解決型R&D
Googleは、X Labを設立し、社会課題を解決するプロジェクトを推進しています。自動運転車「Waymo」や、成層圏の気球によるインターネット提供「Project Loon」など、実験的かつ社会的意義の高い開発に取り組んでいます。単なる技術開発にとどまらず、課題起点で構想し、実証を通じて社会実装を目指す姿勢は、オープンイノベーション2.0に通じる実践例といえるでしょう。
② 花王:生活者起点の製品開発と共創コミュニティ「Kao PLAZA」
花王は、「消費者・顧客を最もよく知る企業に」を掲げ、生活者との共創を重視した製品開発を推進しています。2013年から運営されているオンラインコミュニティ「Kao PLAZA」では、150万人以上の会員との対話を通じて、日常生活の悩みや潜在的ニーズを把握し、製品やサービスの開発に反映。技術主導ではなく、“課題の発見”を出発点とする生活者起点の取り組みは、ユーザー共創の好例としていえるでしょう。
③ 大阪ガス:スタートアップ連携による脱炭素ソリューション創出
大阪ガスは、脱炭素やサステナビリティをテーマに、国内外のスタートアップと積極的に連携しています。米Koloma社(天然水素の探鉱・開発)や豪FPR Energy社(集光型太陽熱システム)への出資に加え、アスエネ(CO₂排出量可視化)やATOMica(地域共創型ソリューション)など国内企業との提携も進めています。共創型の技術検証・実証実験を繰り返しながら、サービスやソリューションの社会実装にまで踏み込む姿勢が特徴で、脱炭素社会の実現に向けた具体的な成果を積み重ねています。
④富士通:共創拠点による実証型イノベーションの推進
富士通は、全国各地に「デジタルラボ」や「コラボレーションラボ」などの共創拠点を展開し、顧客・パートナー・自治体と連携した実証プロジェクトを推進しています。
神奈川県川崎市の「FUJITSU コラボレーションラボ」では、ローカル5GやAI・IoTを活用したソリューション開発が進められており、北海道神恵内村ではIoTを活用したウニ・ナマコの陸上養殖により生産性向上やフードロス削減を実現しています。
こうした取り組みを通じて、持続可能な社会の実現と地域課題の解決に貢献しています。
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まとめ|オープンイノベーション2.0が示す未来
オープンイノベーション2.0は、従来の経済価値の創出にとどまらず、社会価値の共創を目指すアプローチです。ユーザーを含む多様なステークホルダーとともに、社会課題を解決するためのイノベーションが求められています。
これからの企業には、単なる外部連携にとどまらず、「何のために、誰と、どうやって共創するのか」という視点を持ち、多様なステイクホルダーとの共創する力が求められます。
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私たちフィンチジャパンは、2006年創業以来、400件を超える新規事業の立ち上げと事業成長を支援し、また150社以上の既存事業の再成長支援、DX/AI推進、経営戦略の立案・実行支援を行なってきております。
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この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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