第14回:AIは「下積み」の概念をどう変えるのか? ──エージェントを教育し、1億総ボス時代を生き抜く「現場力」
公開日:2026.03.02更新日:2026年3月2日
本記事は、フィンチジャパン代表の高橋とひげおぢによるポッドキャスト『デジどうラジオ』第14回(後編)の対談記事です 。前回に引き続き、フィンチジャパンの柴田をゲストに迎え、「AIは下積みを奪うのか? ─1億総ボス時代の生存戦略」をテーマに、AI時代の新たな働き方やスキルの定義について深く掘り下げます。
「下積みが奪われる」という不安に対して、本対談では「AIは下積みの概念を変える」という視点を掘り下げました 。パソコン上の作業をAIが担うようになる中、人間にはパソコンを閉じた後の対人能力や 、AIに「しびれる」アウトプットをさせるための試行錯誤が求められます。本対談で紹介する「複数のAIに人格を与え、部下として使い分ける」手法は 、まさに1億総ボス時代の先取りです。
目次
部長はいつも暇そうだった─パソコンの前と後の仕事
フィンチ高橋:あるかもね。何かさ、私が社会人になった時ってね、部長とかっていうのは何かいつも暇そうでさ。僕が8時とか9時まで仕事してると、見てたかのように「ちょっと飲みに行くぞ」って言われて。こっちはようやくパソコンの資料から解き放たれたところなのに、向こうはもうそういうモードで。
ひげおぢ:(笑)
フィンチ高橋:で、そういう熱の中で飲みに行くわけだけど。もう少し冷静に考えるとさ、この何十年かで、ホワイトワーカーの仕事はパソコン上のものに置き換えられたように見えたんだけど、そのパソコン上で動くものの多くはAIがやってくれるようになる。とすると、パソコンを閉じた後の仕事だったり、パソコンを開く前の仕事—むしろそっちの方が人間の仕事になるんじゃないかっていう。
ひげおぢ:ムードとしては昭和だね。
フィンチ高橋:一巡してね。パソコンがなかった時代に人が働いていたことの方が、より「人がやる仕事」になっているんだよ。
ひげおぢ:いや、そうなのかもしれなくて。面白いですよね。
AIで「しびれる」経験─次のステージへの入口
ひげおぢ:柴田さんに聞きたいんですけど、こうやってAIと壁打ちして、「この先生のセリフ、しびれたなあ」とドキドキしたり感動したことってあります?
フィンチ柴田:プロンプト次第では日常的にしています。ただ、普通に聞くと当たり障りのない返答しか来ない。厳しめのキャラクターに設定して、もうちょっとプロンプトを工夫することによって、しびれるなんてことは…
ひげおぢ:ありますよね。僕のAIを使いこなすステップアップの仮説として、最初はナレッジしかないから「全然レベルに達しない、3年目くらいのアウトプットしか出てこない」って言うんですけど、次に進める人は、AI先生が出してきたもので感情を揺さぶられたり、人間と会話するよりも深いものが返ってきたっていう経験をしている。これがまず次に進む入口だと思うんですよ。
フィンチ高橋:なるほど、なるほど。
ひげおぢ:でも、とはいえ高橋さんが前編で言ったことが正しいと思ってて、それをさらに人間が上回らないといけないんですよ。だからスキルの中抜けなんてとんでもなくて、まず僕らはAIにしびれることを言わせるようにならなきゃならない。じゃないとお客さん向けのアウトプットが全然つまらないものになっちゃうから。まず何がスキルですかって言ったら、AIに厳しいことを言わせたり、いいことを言わせる工夫をいっぱいすること…それこそがこの時代の下積みなんじゃないですか。
フィンチ高橋:なるほど。
ひげおぢ:さらに人間には、生成AIよりもっと感動させなきゃならないわけですよ。中抜けになるどころか、心を動かすことを考えなきゃならないから、むしろより大変なんです。
AIに「相談」している─日本的な距離感の活用
フィンチ高橋:柴田さんはもう実はそういう自分の相談をAIに投げかけてるわけでしょ?
フィンチ柴田:相談する時の話でいうと、日本的な…上司にマンツーマンでそこまで厳しいことって確認しづらいんですよね。
フィンチ高橋:なるほど。
フィンチ柴田:でもAIなら人格を設定できるので、プロジェクトマネージャーとして口調を決めて話させたり、時々イーロン・マスクみたいにダメ出しさせたりしています。
ひげおぢ:でしょう? キャラクターとしてね。いや、だから以前のレジェンド二人の対談でものすごく示唆的だったんですけど、みんな人間がチューニングしてるんですよ、AIの人格を。一般的な「それっぽいことを出してくる」生成AI時代はそろそろ終わりになっていて、キャラクター付け、つまり生成AI人格を人間がチューニングして作るようになって、「私たちは誰とお付き合いするか」みたいな話になっている。
「もうすでにボス」─柴田さんの使い方に見る新しい下積み
フィンチ高橋:柴田さんの話を聞くと、もう複数のAIを使い分けているわけでしょう。ということはある意味自分がボスで、部下の特性に合わせて上手に使い分けているとも言えるよね。別に自分がボスだと認識していないだけであって。
ひげおぢ:めちゃめちゃ分かります。
フィンチ高橋:下手すれば、ちょっとカスタマイズしたAI同士を議論させることもできるわけじゃない。
ひげおぢ:なので全然、そこはむしろ何度も言うけど、今までの下積みとしての経験値はもういらなくて、管理職としてキャラクターの違う生成AI人格を管理する管理者なんですよ。
フィンチ高橋:そうだよね。だからボスとしての下積みをしているようなものだよね。
ひげおぢ:そう。AI同士を会話させるということは、打ち合わせにそれぞれを呼んで、自分がマネージャーとしてやりとりさせているわけだ。全然1億総ボス時代の準備をしていることになりません?
フィンチ柴田:それぞれのAIに何の文献を学ばせているかはあらかじめチェックしています。例えばGoogleのデータが入っている子には論文を投げたり。イーロン・マスクさん、ピーター・ティールさんの二人の過去の著書や文献がインプットされているキャラクターがあって、その二人の視点でレポートにどうダメ出しできるか、実験を重ねてきました。
ひげおぢ:ほら、それはもうボスとしての道筋をやっているじゃないですか。
フィンチ高橋:部下の特性とかルーツを把握しているってことだよね。
ひげおぢ:そう。ダメな上司は得意じゃないことを部下にやらせちゃうわけですよ。
フィンチ高橋:だから柴田さんがやっていること—AIの特性を知って使い分けること—を「部下の特性を知る」行為だと再定義すると、もうすでにボスだね。
ひげおぢ:そうです。
フィンチ高橋:ああ、なるほど。
AIを「育てる」感覚─メモリーと教育
ひげおぢ:さらに面白いのは、柴田さんの部下であるエージェントは、当然メモリー(過去のチャットの記憶)を持っているわけじゃないですか。ということは、例えばGeminiを使っているなら、柴田さんのGeminiは他の人のGeminiとは違う、自分だけの部下になっている。これは教育する立場だと。
フィンチ高橋:そうだね。
ひげおぢ:教育方法を間違うと凡庸なものしか出してこない部下になっちゃうし、いろんな人と話す仕事をさせたりインプットさせたりすればするほど育つわけですよ。
フィンチ高橋:実際に育てているという感覚はあるの?
フィンチ柴田:過去の記録を参照して出す傾向が強いので、育ってきている感覚はあります。ただ、新しい情報のインプットがより必要なので、そこが一つ悩みどころですね。
ひげおぢ:だからこの時代はもうボスとしての下積みを始めている。下積みの認識そのものが変わるんですよ。
「AIは下積みの概念を変える」─タイトルの書き換え
フィンチ高橋:じゃあつまり、冒頭の「AIは下積みを奪うのか?」というお題自体がもはやナンセンスだと。
ひげおぢ:「AIは下積みの概念を変えるのか」なんですよ。
フィンチ高橋:そういうことだね。
ひげおぢ:それでもまだベテランの暗黙知にかなわないと思うなら、じゃあどうやってそれを学ぶか。3時に仕事を終えて、話を聞きに行けばいいんじゃないですか。
フィンチ高橋:働き方も変えればいいじゃんということだね。
ひげおぢ:話を聞くと、柴田さんはきちんと今の時代に合ったボスとしての振る舞いをちゃんとやっていらっしゃるんですよ。
フィンチ高橋:プロデューサーになっていたと。
ひげおぢ:そう、プロデューサーになっているということなので、そこは問題ないんじゃないかなと。じゃあ次に、先輩たちの暗黙知がどこまできちんと継承されているかっていう話なんですが、そんなことないから(フィンチジャパンに)相談が来るわけですよね。暗黙知がなかなか共有財産にならないから何とかしてくれっていう相談は、結構来てますよね。
フィンチ高橋:そうだよね。ダイレクトにそう言われるわけじゃないけど、AIでも解決できない領域があるから、人に相談に来ているのは事実だよね。
ひげおぢ:結局そこで同じことになるんです。そこで人が介在して、柴田さんの提案がダメ出しされたりする。そこは何も変わっていない。変わったのはダメ出しされる「段階」で、議事録の出来栄えでダメ出しされるんじゃなくて、提案の内容そのもので勝負することになる。でも誰かにいつかどこかでダメ出しされるのは変わらないから、心配しなくていいんじゃないかな。
エントリーレベルの仕事は本当になくなるのか
ひげおぢ:もう一つ疑問があって、エントリーレベルの仕事がなくなるって本当かなと僕はまだ疑っている。プログラマのジュニアレベルがいらなくなったという話はあるんですけど、違うところでエントリーレベルの仕事は結局発生するんじゃないですかね。
それと、裏で必ず出てくる話があるでしょう? エッセンシャルワーカーの時給がすごく上がっているっていう。エッセンシャルなエントリーレベルの仕事は維持されたままなので、そこで下積みが間違いなく必要な仕事に就くのか、ホワイトワーカーとしてやっていくのかで変わってくるんじゃないかなと。
人と会うのが重要だっていう仕事では、やっぱり若い人と会いたいわけです。人と仕事をしている人たちが完全に一人でやるわけじゃなくて、組織が若い人を迎え入れないはずがないんですよ。言い方を変えますけど—エントリーレベルの仕事がなくなるというよりも、質が変わるんだと思うんです。
フィンチ柴田:このエントリーレベルの仕事って、日本国内の話なのかという問題があって。海外ではインターンから正規雇用に移るケースが多いので、インターンの段階でエントリーレベルの仕事がないと感じる人は多いんじゃないかと。そこがこの話の肝ですね。
ひげおぢ:なるほど。だったら、会社の代わりにエントリーレベルの仕事を提供するサービスが出てきますね。昔だったらそれは会社が育ててくれたんだけど、しなくなったらそれはお金を払って外部化する運命にある。つまり—専門学校がまた復権するってことですよね。
フィンチ高橋:なるほど。そうだね。やっぱりジェネラリストからスペシャリストに変わっていくと思うんだよね。
ひげおぢ:日本でさえ、ジョブディスクリプションがもうちょっと厳格になる可能性がある。「真っ白な白紙を育てます」ではなくて、「エントリーレベルの仕事は会社以外のところできちんとやってきたので、もうエントリーレベルじゃありません、だから採用してください」っていう時代になるかもしれない。
大学院でマクロを組んでいた話─エントリーレベルの質は昔から変わっていた
フィンチ高橋:いや、これ多分ね、私の例で言えば—大学院を出て社会人になる時、院でしょっちゅうExcelのマクロを組んで、レポートも書いて、論文も書いていた。論文の内容自体は1ミリも役に立たないんだけど、社会人になって最初から「Excelでマクロ組めます、分析できてレポートが作れます」っていうのは、だいぶ重宝がられたんですよ。10年前に入社した人と比べて、エントリーの時点で持っているスキルが違っていたってことだよね。
これからの大学生たちは、もう最初からローコードでプログラムを作り、アプリを作り、そういうスキルを持って新卒で入ってくる。そうなったら—
ひげおぢ:エントリーレベルじゃないし。
フィンチ高橋:そうだよね。
ひげおぢ:奪われない。
フィンチ高橋:そうそうそう。つまり、エントリーレベルの質が変わってきているってことだよね。これは大チャンスなんじゃない?
ひげおぢ:そうなの?
フィンチ高橋:だって、朝から晩までエージェント作って、論文検索も自動でやって、本まで書いちゃいましたっていう—
ひげおぢ:(笑)書いちゃいましたって。
フィンチ高橋:そうそうそう。そういうスキルを持っている子たちは、今までのエントリーの概念とは違う。むしろ新卒の価値が変わるというパラダイムシフトのチャンスだと捉えて、自己教育するべきだよね。
ひげおぢ:そうできない人は、まあ仕事を失うだろうなという気はするけれど、それはちょっとまた別の話にした方がいいかな。
おわりにー「ちょっと私もおっさんなので」
ひげおぢ:だいぶ話しましたが、柴田さん、問題意識としてフェーズが変わったとか、目線が変わったとかありますか?
フィンチ柴田:既存の仕事やジョブディスクリプション、人材育成のあり方について……ちょっと私もおっさんなので—
フィンチ高橋:いやいや、まだおっさんじゃないでしょ、30代ですよ。
ひげおぢ:30代、30代。
フィンチ柴田:でもアラフォーですよ。
ひげおぢ:アラウンドでしょ、全然。
フィンチ柴田:この10数年を振り返った時に、みんな自分の仕事がなくなるんじゃないかって感じてはいたんですけど、そうではなくて考え方を変えていくべきだということが、非常に参考になりました。
ひげおぢ:繰り返しになりますけど、エージェントのキャラクターをそんなに使い分けて仕事に活かしているだけで、相当先進的ですよ。あとは、そのアウトプットが本当に必要なものかは、人にぶつけるしかない。仮想でやるサービスもあるので、「現場がなくなる」と心配するかもしれないけれど、プロダクトが作れれば現場は絶対に出てくるはずなんです。
ポッドキャストは「現場」そのものだ
ひげおぢ:次は柴田さんの具体的なアウトプットを見る回を作りたいですね。ポッドキャストで何か現場感覚を作るっていうのがいい。ここでリアルタイムで話すのって、AIエージェントに頼れないんですよ。今僕が質問したことにAIが答えを返してくれる時間はないから、今までの蓄積で話す必要がある。だからもし「現場感覚がなくなる」という懸念があるなら、ポッドキャストをやればいいんです。
フィンチ高橋:なるほどね。その場のアドリブもそうだよね。
ひげおぢ:そうそう。AIで作り込んで作り込んで、自分のナレッジや考えを固める。でも、それがポッドキャストで話した時にすぐ出てこないんだとすると、それはまだ自分のものになっていないということ。一周回って、人間としての大事な部分に戻ってくるんですよ。
フィンチ高橋:面白いね。
ひげおぢ:だから僕はポッドキャストをそういう意味でも実は勧めているんです。AIがベースにはなるけど、AIじゃないところを必ず話すはずだから。
柴田さん、企画ありがとうございました。引き続き次の番組企画をお待ちしています。皆さんもですね、柴田さんと同じように「下積みがなくなるんじゃないか」「現場がなくなるんじゃないか」と危機感を持っている方は、ぜひポッドキャストに出てください。ここはもう「現場」そのものですから。
フィンチ高橋:ありがとうございました。
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この記事の監修者

株式会社フィンチジャパン 代表取締役
早稲田大学大学院を修了。
野村総合研究所経営コンサルティング部入社。
経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。
2006年に当社を創業し現在に至る。
以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。
対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。
出版
PR Times記事
『https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53478>』
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