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INTERVIEW

バイタルリードが提案する次世代の公共交通の形。これからの公共交通は、地域のためにヒトもモノもサービスも何でも運ぶ様になる。

森山 昌幸氏

Masayuki Moriyama
株式会社バイタルリード 代表取締役

島根県出雲市荻杼町で公共交通に多方面からメスを入れる株式会社バイタルリード社長、森山昌幸氏。その範囲は、中国地方、四国地方さらに途上国にまで広がる見込みだ。田舎のインフラの要となる公共交通の立て直しによって田舎を守り続ける森山氏に、現在の取り組みと今後の展望についてお伺いした。

目次

―まず、創業からこれまでの取り組みを教えていただけますか。

私の社会人キャリアはサラリーマンから始まりました。30代半ばに公共交通の勉強がしたくて広島大学の修士過程に通うことにしたのです。結果として私にとって、この広島大学での公共交通の勉強が大きな転機になりました。「公共交通中心の街づくりは面白い。田舎ではこれから公共交通の見直しが絶対に必要になる。」当時そう確信したのです。 その思いを実現するため、交通計画コンサルタントとして起業し、しばらくは一人で仕事をしていました。 結局、仕事をしながら広島大学で田舎の公共交通の研究をして博士号まで取得しました。修士過程では、観光地の活性化をテーマにし、博士課程ではGIS(地理情報システム)を使った公共交通の計画づくりの手法をテーマにしました。現在、当社の事業の6割以上は、公共交通計画の策定と実行支援となり会社の屋台骨となったのです。

―創業から地域課題を解決する様な事業を作ろうとしたわけではなかったのですか。

全然(笑)。私は島根県石見地方の田舎出身ですが、車がなければ生活自体ができません。ですから、頭では田舎では交通手段というのは生活の中でとてもとても大切なことはわかっていました。ですが、創業当時は自分のやるべきこととして結びついていませんでした。 ところが研究を通じて地域社会に入り込んでいくと、想像よりも田舎では人口減少と高齢化が激しく、従来型の公共バスが商売としてもはや成立していないことを肌で理解する様になりました。助成金頼りで運用を維持することも限界に来ていました。公共交通の問題は利便性だけの問題ではありません。田舎が消滅するか、しないかという問題なのです。 「公共交通の問題を何とかしないと、ふるさとが無くなってしまう。同級生の多くは都会に行ってしまったし、残っている自分が何とかしないとこれは大変なことだ。」と、どんどん問題意識が高まっていき、自分のやるべきことになっていったのだと思います。

―森山社長の研究が事業になっていくきっかけはあったのですか。

自治体は2、3年おきに組織異動があるため、公共交通の専門家が少ないのが実情です。ようやく詳しくなっていただき熱意を持って進めて頂けそうだ、と思うと異動があったりします。ですから実現に思いのある自治体の担当の方が、私どもの取り組みに頼ってくれました。 一つ形になると、他の自治体から声をかけていただける様になりました。今では数十の自治体で公共交通の計画づくりに関わらせていただいています。

―自治体からの信頼は素晴らしいですね。実際、具体的にはどんな公共交通の代替手段があるのですか。

従来型の決まったルートを回るバスではなく、乗り合いタクシーや予約型のデマンド交通といった手段が代替になる可能性があります。さらに、今後の人口減少が続くと、住民同士の共助交通が必要になります。そのためには、住民自身がやる気にならないと実行できないのです。そこが一番のポイントであり、実現に向けた壁でもあります。 そのため私たちは、計画を立てるだけではなく、その地域の方々がやる気になるところまで並走しています。例えば、島根県安来市のある集落では、1年間を通じて1ヶ月間に1度の会議に参加し、数ヶ月かけて住民の方達に徐々にやる気になってもらい、そして最終的にはその地域で取り組んでみようということになり、社会実験までたどり着きました。 社会実験までたどり着けたのは、自治体担当者の方の強い危機意識も大きな要因です。そこで絶対に成功モデルを作ろうということで一致団結して、地域の住民、行政、共助交通の仕組みが一体となって動き始めました。今年度、実用に向けてまさに動き始めています。

―失礼ながら、成功事例だけでなく失敗や上手くいかなかった事例もありますか。

残念ながら、まだあります。 まず、公共交通を実現するには地域だけではお金がないので、行政の施策として実行していく必要があります。ですが、ある自治体では自治体内の組織異動と地域住民の検討のタイミングが上手く噛みあわず熱意がトーンダウンしてしまい実現まで行き着きませんでした。 具体的に実施してから、課題の捉え方が不十分だったケースもあります。 現在、高齢者の運動神経の鈍化が原因で起きる交通事故を予防しようと、免許返納を適切に促すための診断システムを開発しています。診断をすると、運転が危険なレベルまで認知機能が低下していて、免許返納をしていただくことが最善という方も確かにいらっしゃいました。 システムのコンセプトは良かったのですが、免許返納してその人が明日からどう生活していくのかまで考えてなければ意味がないことに気が付きました。免許返納が解決ではなく、免許返納しても生活できる様、地域全体で解決するところまでやって初めて、安心して免許が返納できるのです。 ですが、たくさんの実例が出てきましたので、今後は地域の課題をきちんと捉えて、適切な解決策が出せる様になっていくと思っています。

―適切な解決策を見出す上でのキーテクノロジーはありますか。

意外だと思われるかもしれませんが、ビッグデータやIoT、クラウドと言った新しいITの活用です。こうした技術はこれから田舎の生活を劇的に変えます。 例えばバスの乗降調査データを使うと、どこで何人乗って、どこで降りているのか、どの位使われているのかを見える化できます。すると、「ある地点から奥は全然使われていない。」とか「標高の高い集落までルートを伸ばした方が、利用者が増える。」といったことがすぐにわかる様になります。 公共交通の場合は、定時制の確保が重要なのですが、早発(時刻表よりも早く出発すること)をしないで定時制を確保するダイヤを作るためには、「ここは乗降客が多いのでいつも3分遅れている。」と言ったことがデータでわかればすぐに対応できるのです。 これまではバスの車載機ひとつとっても、振動や温度(熱)に強い機器でなければダメと言われていましたが、今のスマホは、バスの車内よりもずっと厳しい環境に耐えられるので、データを取得するにもスマホやIoTの仕組みを使えば、驚く様な価格で実現できます。 私たちもバス停をアナウンスするシステムを開発しましたが、実際安価で提供できています。一昔前では考えられなかったことです。 ダイヤやバスルート、運行データといったビッグデータを有効に活用すれば、もっと使い勝手のいいサービスや公共交通を作れる様になると思います。NICTが開発したNerveNet技術は、おそらく公共交通のビッグデータ取得に有効活用できると思います。

―森山社長は、将来の公共交通の姿はどの様に描いていますか。

まず、公共交通は人だけでなく、物もサービスも何でも運ぶ様になります。一台の車が地域の課題をなんでも解決するという考え方がないと事業として成り立たないからです。 さらに、外貨を稼ぐ手段としても活躍します。そのためには地元の人だけが使うのではなく、観光客にも安心して使ってもらえる様に工夫することです。今、私たちは公共交通だけではなく、旅行業も始めました。田舎の小さな資源を使って外貨を集めるには観光業は欠かせないからです。観光客を運ぶ「足」として公共交通を使ってもらえば、人もサービスも運ぶ「稼ぐ足」になります。 そして、自動運転もUber(注1)の様な技術やサービスも田舎で活用されていくと思います。今、ソフトバンクが鳥取県で自動運転の実証をしていますが(注2)、私たちもその取り組みにとても興味を持っています。おそらく多くの田舎で実用されていくと思います。また、Uberの様に無線システムも配車システムもいらない仕組みが普及すれば、間接コストが下がってドライバーの収入を上げられると思います。タクシーは、田舎では大切な交通手段なのに、タクシードライバーの収入は非常に低い状態になっています。

―社長の思いはこれから先どこまで広がっていくのですか。

中国地方の問題は、四国地方でも状況は同じでした。きっと他の地方の田舎でも同じ状況だと思います。ですから私は、日本中の田舎の公共交通の課題を解決したいと思います。 さらに今、田舎でうまく機能した社会システムを途上国に持っていこうという話の一つに公共交通が挙がっています。実際に途上国で日本の交通システム導入に取り組んでいるという話も聞いています。田舎の仕組みと途上国の仕組みはマッチすると思いますね。ぜひやりたいと思います。 創業当時は思いもよりませんでしたが、やればやるほど、やるべきことがどんどん広がっていきました。「外国人観光客が増えてきたからどうしようか?」なんてことを自分が考える様になるとは思いもよりませんでした(笑)。 私は交通計画コンサルタントからキャリアを始めたこともあり、社会資本(注3)整備の大切さは、肌で理解しているつもりですが、各種情報と社会資本整備の組み合わせではgoogleに勝てるんじゃいないかな(笑)。これからの時代はソフトとハードをうまく組み合わせることも重要であると思っています。 またアライアンスも積極的に取り組みたいですね。同じ想いさえあれば、お互いに得意分野を生かして連携することで、これまでになかった革新的なことも実現できると思います。新しい仕組みや技術を使って暮らしをどう豊かにしていこうかという話を私たちは真面目にやっているのですが、そう言った話も形になっていけるといいなと思います。 (注1)Uber(ウーバー)とは、北米企業のウーバー・テクノロジーズが運営する自動車配車ウェブサイトおよび配車アプリ・サービス。現在は世界70カ国・地域の450都市以上で展開している。 (注2)SBドライブと鳥取県八頭町が自動運転で解決したい、過疎地の公共交通の課題とは www.itmedia.co.jp/mobile/articles/1606/01/news082.html (注3)ここでは道路とか橋梁のことを指しています。

Profile

株式会社バイタルリード(http://www.vitallead.co.jp/ 「交通」というキーワードを中心に据え、道路計画や公共交通計画、観光振興や地域活性化の計画、費用便益分析などの事業評価 といったコンサルティング業務を行う。特に、地域公共交通の計画策定においては、様々な自治体での業務実績を有する。近年では、コンサルタント部門に加えて情報システム部門でもGIS(地理情報 システム)を活用した分析システム、交通安全支援スマホアプリ、公共交通利便 性向上機器開発・製造・販売など、様々な事業に取り組んでいる。 さらに、島根県への着地型旅行を中心とした旅行業部門では「あいのりタク シー」、「シェアなび」、「どぼ旅」など新しいサービスを展開。

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