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INTERVIEW

福祉分野のアウトリーチ活動が社会課題解決のカギとなる理由

今井峻介氏

認定NPO法人フローレンス

2020年7月、「経済財政運営と改革の基本方針2020」(通称、骨太方針2020)の中に、子どもの貧困対策を社会全体で取り組むという記載がされた。経済能力を持たない子どもにとっての貧困とは何なのか、対策としてどのようなことに取り組むことができるのか。
認定NPO法人フローレンス(以下、フローレンス)で「こども宅食事業部」を手掛ける今井氏に、本当に困っている人へどのように事業を届けるのか、「アウトリーチ」というキーワードから、社会課題をどのように事業で解決し、そのためにはどのような取り組みが重要なのか話を伺った。

――最初に、今井さんはフローレンスでどのようなお仕事をされていますか?

今井峻介氏

フローレンスに入社した当初は代表室という部署で、事業部横断プロジェクトのプロジェクトマネージャーや調査・分析業務、事業部の課題解決の推進サポート業務を担当していました。

その中で関わっていた「こども宅食」というプロジェクトが正式に事業部になることが決定し、当時プロジェクトマネージャーを担当していた私がマネージャーになることになりました。現在マネージャーになって3年目になります。

――フローレンスの新規事業には国の予算や補助金が関わっていますか?

民間団体が立ち上げた新規事業を実施するために国の予算や補助金が出る、ということは基本的にはありません。そのため、新規事業の立ち上げについては、①既存の国の補助金を活用できるかたちの新規事業のスキームを考える、②公益財団などの助成金を獲得する、③団体への寄付金を活用する、といった形で資金を確保します。

私が担当しているこども宅食事業の場合は、ふるさと納税を財源として事業運営を行っています。寄付のように支援者の方から直接資金を集めて事業を運営できるのは、大変ありがたいのですが、継続性がないのが課題です。

特にフローレンスが立ち上げる新規事業は、国や自治体が課題として認識できていない、あるいは課題として認識できているがソリューションがない、という領域であることが多く、上述のようなアプローチが必要になっています。

そのため、われわれとしては成果の出る事業モデルを作り、それを政策に組み込むような提言を行い、最終的には正式な政策として補助金が出るような状態にしていくことを目指しています。

――民間の企業とNPOでは、何が違うのですか?

株式会社といっても事業や業界によって規模や体制が異なるのと同様に、NPOといっても様々な団体があります。フローレンスに関していえば、社員数は700名近くにのぼり、民間企業と同様の組織体制やガバナンスが整備されていて、働いている感覚としては、いわゆる普通の会社で働いているのと変わりはありません。

個人的に民間企業と違いが大きいと思うのは、資金調達方法だと思っています。民間企業の場合は、事業収入が主な財源になりますが、NPOの場合は事業収入に加えて寄付を活用することできます。プロダクトやサービスの対価としてお金を払うユーザーやクライアントに加え、ビジョンや活動に共感して寄付という形で団体を支援する寄付者という存在がいることが非常に大きな違いです。

福祉領域では、ユーザーからサービスの対価としてお金を払ってもらうことが難しい場合が数多くあります。そうした状況で事業を立ち上げ、推進していくためには寄付金が必ず必要になります。

――よくわかりました。次にこども宅食を考える上でのキーワードである、「子どもの貧困」とは何か教えてください。

貧困は世代間で連鎖すること、障害や疾患などによって就労ができずに貧困に陥っていることなど、本人の努力ではいかんともし難い実態があります。一方で、「貧困になっているのは本人の責任」、「貧困から抜け出すために努力をすればいい」というような自己責任論が根強く、社会として積極的に支援をするのが難しい状況にありました。

そうした状況の中で、生まれた環境を選べない子どもが貧困に陥っているのは自己責任とは言えない、そうした子どもへの支援をしていく必要がある、ということで生まれたのが「子どもの貧困」という言葉、概念だと思っています。

――今回、なぜ「子どもの貧困」が骨太2020に入ったのですか?

2013年に子どもの貧困対策の推進に関する法律が制定され、この中で「子供の貧困対策に関する大綱」を作るということが決まっていました。また、その中には都道府県や市町村が、政府が作った大綱を踏まえて計画を作る必要があるということが記載されました。

その流れを受けて、翌年に大綱が完成し、その見直しが5年に1回と定められていたため、2020大綱が見直されて閣議決定された、というのが大きな流れになります。

この中には「支援が届かない、届きにくい子どもたちとどう繋がるかが重要」といったメッセージが盛り込まれています。時間はかかっていますが、子どもの貧困に対する支援を強化、加速していくための大きな流れができつつあります。

――「子供の貧困対策に関する大綱」に書かれている「支援が届かない、届きにくい子どもたちとどう繋がるかが重要」とはどういうことでしょうか?

貧困問題をどう解決していくかという問いに対し、一般論として「お金がないのだから、お金を配ればいい」という話になりがちです。

しかし、実際には、家庭に障害や疾患を抱えている人がいる、就労ができていない、子どもが不登校で誰かが家にいなければいけない、家計管理が苦手である、など、家庭が貧困に陥っている要因は多様であり、貧困はあくまでその結果です。

そうした家庭に対しては現金給付だけでは、必要な支援としては不十分であり、なぜそのような状況に陥っているのか、という部分を明らかにし、その家庭にあった適切な支援をデザインし、提供していく必要があります。

一方で、現行の福祉は「困ったときに窓口に来てもらい、その人が支援の申請をする」という申請主義が前提になって制度設計がなされています。これは一見理にかなっているように見えるのですが、下の図のように困っていても様々な理由で窓口に行けず、つらい・助けてという声が出せない家庭がたくさんいます。

こうした家庭に対しては、窓口で待つのではなく、こちらから出向いていくアウトリーチというアプローチが必要になります。そういった考え方が必要であることが盛り込まれたのがこの大綱になります。

――非常に難しい社会課題であることが良くわかりました。ちなみに自己責任論ではない貧困をちゃんと支えて解決していこうという社会的風潮はありますか?

あると思います。

上述のように「子供の貧困対策に関する大綱」では家庭の責任にしないという考え方が明記されていますし、「ゆきさきチャット」のように家庭や子どもとのつながりを重視するアウトリーチ型の事業が他にも生まれてきています。社会全体で解決していく流れが徐々にできているように感じています。

――一般民間企業が、「子どもの貧困」に対しできることはありますか?

例えば食品メーカーであれば食品の提供、消費財メーカーなら生活用品の寄付といったことは、強力な支援になります。

以前、レゴジャパン株式会社様からレゴの物品寄付を頂き、関連団体である一般社団法人こども宅食応援団とともに、こども宅食の利用家庭にクリスマスプレゼントとして届けたのですが、「こんなの買ったことない!」「持って帰っていいの!?」のような声を頂きました。醤油メーカーさんの食品をお届けしたときは、「こんなブランド物の醤油がもらえるなんて!」と喜んで頂いたこともあります。

それ以外にも、活動資金を寄付をしていただくのも大変ありがたいです。

――本題になりますが、なぜこども宅食が必要なのでしょうか?

定期的に自宅に食品を配送することをきっかけに家庭とのつながりをつくり、関係性を築きながら見守っていきます。ご家庭の変化をいち早く見つけ、様々な専門的支援につないでいくことで、ご家庭の困りごと、つらい状況が悪化するのを予防していく、というのがこども宅食の主な活動になります。

現在、様々な地域で、親子に食事を提供する「こども食堂」や塾に行けない家庭向けの「学習支援」など、子どもの居場所を地域に作るという形の事業が増えてきています。

一方で、先述の通り、窓口や居場所に行けない、行きたくない、というような家庭がいるという現実があります。

実際に2020年に全国のこども宅食の利用家庭1000世帯にアンケート調査を行いましたが、実に8割の世帯が、行政の窓口支援や地域の居場所事業などとつながっていないということもわかっています。

こうした状況の中で、社会からつながりにくい家庭とつながるための仕組み、アウトリーチを実現するための事業の一つとして、こども宅食を位置づけています。

――改めて、「アウトリーチ」とはどのような考えですか。

『アウトリーチ』という言葉は福祉の世界で広く使われているのですが、課題を抱えている人が自ら窓口に来て支援の申請をするのではなく、支援の必要性を自覚していないような人、あるいは自覚していても様々な事情で支援の申し出ができない人であっても、支援者が積極的が関係性を構築していくことで最終的に支援につないでいく、という考え方になります。

現在の行政サービスのほとんどは、「今何に困っているか、何が問題かを自分で把握して、9時から17時の窓口の空いている時間に役所に行って担当者に相談をして、書類を書いて申請できる」ことを前提に設計されています。

例えば、今行政もデジタル化の一環で母子手帳アプリの活用を進めています。従来紙だった母子手帳がスマホで使えるようになり、家族で記録をシェアしたり、予防接種や乳児健診の記録や管理ができ、ユーザビリティは飛躍的に向上していると思っています。

一方で、母子手帳アプリの機能の一つに「オンライン子育て相談」があるのですが、それを利用するには、まず「子育てについて他者に相談する」という利用すること自体の精神的ハードルを超える必要があります。

そのハードルを超えたあとには、まず利用のために自治体に電話して仮申し込みを完了させ、その後メールで予約の調整を行った上で相談する、という手順を踏むことになります(※全ての母子手帳アプリがそうであるというわけではありません)。

これはいわば「窓口のデジタル化」であり、申し込みプロセスの途中で離脱が発生しやすくなっていると考えています。一方で、ここにアウトリーチの概念が組み込むのであれば、支援者側からプッシュ通知で相談の打診をする、相談が必要かどうかの事前審査をしない、申込みの手間を極力簡略化する、といった機能が必要になると考えています。

アウトリーチのように、対象者が抱える相談しづらい状況を踏まえた上でサービス設計をしていくことが今後重要になっていくと考えています。

こども宅食においては、LINEで申し込みができる、食品を無料で受け取ることができる、ということが家庭にっての「つながるきっかけ」になるように設計しています。つながったあとは、配送時のやりとりやLINEでの情報提供といった「関係性の構築」をプロセスに明確にいれることで、支援につなぎやすい環境を作っていくことを目指しています。

――申請を前提とした形ではなく、こちらから届ける仕組み作りが大事ということですね。

福祉分野だけではなく、さまざまな場面で、アウトリーチの考え方が足りないと感じています。

例えば、企業が「男性向けの育休制度を作りました」という場合、「ニーズがあるなら、声を上げて言えるよね。言わないということは、ニーズがないってことだよね。」、「こちらはいつでも来ていいのに、言わないのは自己責任。」という考えが根底にあるように思います。

「制度があっても育児休暇を取りづらい人がいる」という前提でアウトリーチの概念を盛り込んで、「対象者に人事部が直接声がけをする」、「当事者が取得の判断をするまえに、男性の育休取得経験者に話を聴ける場を作る」、「取得する場合の調整や交渉するために人事部が支援者をアサインする」といったことも必要になっていくように思います。

人は、経済合理性やビジネスの論理に従って、必ずしも合理的に動けるわけではありません。仕事や子育て、介護などで追い込まれているとき、精神的に不安定なとき、忙しいとき、その人本来の思考や行動が発揮できないことは、誰の人生においても起こりうることだと思っています。そのような現実的な状況を踏まえて、サービス、制度設計をしていくことが今後重要になっていくと考えています。

――最後になりますが、こども宅食が広がっていき、その先どこに向かっていくのか。何を実現したいと考えているのか教えてください

こども宅食という事業を全国各地域でやれるようにして、必要としている家庭に届けてられるようにしていきたいです。また、アウトリーチを実現するための社会的なソリューションの一つになるように、成果の出る事業として育て上げていきたいと思っています。

社会には多様な家庭がいます。その中には、こども宅食事業ではつながれない家庭が一定数いるはずです。そのため、家庭や地域の状況に応じた多様なソリューションが必要だと強く感じています。

そのため、こども宅食を参考にして「食品でなく乳児用のミルクでアウトリーチをしよう」、「家庭ではなくティーンエイジャーに直接アウトリーチしよう」など、われわれが想定していなかったような新しいアイディア、事業が出てきてほしいです。

社会全体で子育てを支援していくためには、アイディアも実践も事業もお金も人手も、とにかく何もかもが足りないと思っています。一人でも多くの人が、その人ができる形で、関わっていけるようになっていくといいなと思っています。

Profile

今井峻介

東京農工大学大学院修士課程卒業後、ハウス食品株式会社に研究開発職として入社。株式会社フィンチジャパンでのコンサルタント経験を経て、2016年から認定NPO法人フローレンスにジョイン。2019年にこども宅食事業部マネージャーに就任。

認定NPO法人フローレンス https://florence.or.jp/

現在所属スタッフ約700名規模・国内有数の認定NPO法人。安価な病児保育の提供などを通じたひとり親家庭の支援は12年の実績を持つ。
困窮世帯に食品を宅配してアウトリーチを行う支援活動モデルである「こども宅食」の運営と、このモデルを日本全国に普及させる中間支援組織である「こども宅食応援団」の事務局を運営している。

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