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INTERVIEW

テレプレゼンスロボットが紡ぐ未来のコミュニケーションの形

クリストファーズクリスフランシス氏

Chris Francis Christophers
iPresence合同会社 Founder/President

「テレプレゼンスロボット」とはタブレット越しに、ビデオチャットしながらロボットのボディを一緒に組み合わせることで遠隔地に存在し、コミュニケーションやコラボレーションの幅を広げられるロボットだ。 Research and Markets社発刊のレポート「Global Telepresence Robot Market Forecast to 2023」によれば、テレプレゼンスロボットの世界市場規模は2018年の約1億4580万ドルから2023年に3億1660万ドルまで成長すると予測されている。 今回はテレプレゼンスロボットの販売、開発提供を行うiPresence合同会社代表のクリストファーズ クリスフランシス氏にどのような未来を見据えているのか話を伺った。

目次

―テレプレゼンスロボットとはなんでしょうか?

テレプレゼンス(ビデオチャット)しながら会話だけでなく遠隔地に存在し、歩き回ったりできるロボットです。ただ、認知が拡大するに伴いテレプレゼンスロボットという言葉も、すでに古くなってきています。 今普及し始めているのは、遠隔地情報をいかに五感に訴えられるか、より繊細な遠隔作業を実現化するかをテーマにしたアバターロボット(Avatar Robot)という言葉です。 起業時は独自にリモートプレゼンスという造語を作ってスタートしましたが、リモートプレゼンスからテレポテーション、そこからアバターロボットというように世の中で受け入れられる言葉がどんどん変わってきています。 私達はそのように次々と変化する世の中に今受け入れられている言葉を読み取り、流れに合わせて柔軟に使う言葉を変えていっているんです。

―テレプレゼンスロボットビジネスをお考えになったきっかけを教えてください。

もともと2009年に世界最大の電話会議サービスプロバイダで関西ビジネスの立ち上げの仕事をしたことがきっかけで多数の通信メディアを統合して一つの遠隔会話体験を提供するという、ユニファイドコミュニケーションビジネスに深く関わりました。 そこで、遠隔コミュニケーションというものは、人がいる限り業界を問わずずっと必要とされる普遍的な分野だという確信を持ち、その業界で実績を出すのは未来に繋がるだろうと思いました。 立ち上げの仕事では、音声中心の電話会議システムから始まって、インターネットインフラの発展と共に資料共有できるWeb会議、ビデオ映像を通信するクラウドテレビ会議、大多数地点に同時配信できるライブ配信とかそういったものを、色々なグローバル企業に自分自身も学びながらシステム提供をしていったんですよ。 そういった遠隔コミュニケーションツールの進化の流れの中にいた時にテレプレゼンスロボットと出会い、興味を持って調べる中で「あ、これはその進化の延長上にあるソリューションだ!」と気づいたのがきっかけです。

―ビジネスのスタートに「ロボット」をテーマにされたきっかけや着想をお聞かせください。

未来のことを考えると、例えば、インターネット革命が起きて、IoTが出始めて、その次に来るものは何だろうと思った時に、ロボットかなと漠然と思ってました。また、もし将来的に何かに出資したり関わったりするのであれば、ロボット業界かなと。 一番最初に一般家庭に認められたロボットって「ルンバ」だと思うんです。一般家庭にロボットが受け入れられるって、結構衝撃でした。そういうことを考え始めたときに、素直に「あ、ルンバの事業には乗り遅れた」と思ったんですよ。 そこでその次に来るホームロボットはなんだろうとアンテナを張っていたときに、神戸でのあるイベントの立ち上げのボランティアに参画したんですが、そのイベントに「Double」という頭部がiPadで一輪の足で歩き回れるシンプルなテレプレゼンスロボットを使ってアメリカから参加してきたIT社長の方がいました。 私がセットアップとか担当して、アメリカからその人がアクセスして、会場内をぐるっと歩き廻るというのをやったんです。ただ、その時はピンと来ていなくて何となくですが、面白いなと思った程度でした。 ただ、コミュニケーションとロボットの組み合わせに興味は持ったので、テレプレゼンスロボットについてより深く調べていくうちに、実はアメリカではもう数千台と売れていることを知りました。そして、次に見つけたのが、シスコ社がルンバのiRobot社と共同開発したAvaというテレプレゼンスロボットでした。 当時、シスコ社は世界最大シェアのウェブ会議システムとテレビ会議システムのメーカーとして、私もよく一緒に仕事をさせてもらっていました。そのシスコは私が乗り遅れたと思ったルンバを発明した会社とテレプレゼンスロボットを本国で開発している、更に日本ではほとんど誰も見たことも聞いたこともない概念である。という事でやるなら今だなと思い、2014年に起業しました。

―衝撃的な組み合わせというわけですね。

はい。 単純ですが、100年後を考えた時に「コミュニケーション」というのは人の普遍的なニーズで必ず需要はあり続けるだろうということと、「ロボット」は今より発展することはあっても後退することはないだろうと考えて、この組み合わせは長期的に考えても事業として立上げる価値があるんじゃないかと思ったんですよ。 で、イベントににDoubleで参加してた社長さんに1週間貸してほしいと連絡したら「いいよ。貸してあげるよ」といってくれて。貸してもらった時に、いろんな人に見せに行ったら、すごい反応が良くて。 これだったら、すぐ世界中どこにも行けるというのをみんな分かるわけです。単純なシステムじゃないですか。タブレットを嵌めるだけで。子どもでも分かる。当時ロボットを開発したことも扱ったこともない私でも遠隔コミュニケーションツールとしてのロボットなら事業化出来ると思いました。

―パソコンの会議と比較したときにはどういったメリットがあるのでしょうか?

電話会議は遠隔のコミュニケーションとしては声だけです。その後に画像が付き、資料が付きました。テレプレゼンスロボットは移動できます。 一見、用途は一緒なんですけど、電話会議とテレプレゼンスロボットは、エクスペリエンスという点が違うんです。 例えば、あるイベントに参加するときに使ったときに使った際、遠隔でイベントを体験する方法って、これまでは配信とかテレビ中継とかありましたけど、その講演を聞く場合はそれで十分で、わざわざロボットで見にいく必要ない訳です。 でも、学会とかで、本当にやりたいのは、その中継の後の懇親会とか、交流会に出たいというニーズなんです。そういうところでこれはすごい価値が出てきます。色々な人とロボットで会って、会話したり、胸に名刺をぶら下げて写メで交換をお願いしたりとか、そんなことまで出来る。

―テレプレゼンスロボットの市場と今後の活用領域についてお聞かせください。

最初は物珍しさや研究用途などで購入される企業や大学などがほとんどでした。そこから徐々にイベントで利用したり、テレワークの取り組みの一環などで取り入れていただく企業なども出てきました。 あと、卓上版やAIや自動運転を搭載した異なった種類のテレプレゼンスロボットが出てきて活用領域がテレワークから遠隔観光、遠隔医療まで幅広くなってきていたりします。少子高齢化による人手不足の社会問題を解決する新たな手段としても注目されているんです。 でも同時に、多くの領域ではまだまだ遠隔でのエクスペリエンスの質が伴っていない、または社会的に理解が進んでいないが為に導入が大きく進まない現状もあります。 例えばアメリカでは主要な使い方の一つの学校での利用。病気で学校にいけない子がいる場合、ロボットでアクセスして授業を受けられます。アメリカでは小児がんの子どもがそういうことをやっているという記事を見て、日本でもやりたいなと思っていたんです。 でも実際はその分野では日本では全然売れなくて。なぜかというと、私はドクターでないし、専門家でもないので、誰にアプローチしていいかわからない。私も一応いろいろなところにアプローチしていたんですけどね。でも、今年になってちょっとずつ導入され始めてるんですよ。 私たちは、現在学校に卓上版テレプレゼンスロボット「Kubi」を置いて、ワンタッチで学校に行けるソリューションを提供し始めました。 このシステムだと病院から簡単に授業が受けられます。ロボットの体を借りてそこに存在しているので、昼休みに友達と出かけていくことだって出来る。これがすごいところです。

―導入する上での課題はありますか?

はい、特に病院からの遠隔授業に関して実際はその分野では日本では全然販路が作れなかったです。なぜかというと、私はドクターでないし、専門家でもないので、誰にアプローチしていいかわからない。私も一応いろいろなところにアプローチしていたんですけどね。 このサービスはご興味を持っていただいても、患者さんとか家族とか医療従事者や学校など周囲全員の同意を得ないと成り立たないんです。また、こういった仕組みを導入したいという場所でもその為のネット環境が整っていないケースも多くて、そこからコンサルティングやサービス提供させていただく事もよくあります。 でも、重い病気の子どもがいたりしたときなどに、その子を何とかして学校に行かせてあげたいっていう想いを持った方々が少しずつ出てきて、その人達が国のICT教育担当者や、学校、教育委員会や政治家を動かして、ついに尼崎市の教育委員長が、そこまで言うならばやろうと、今年の5月にはじめて契約をしてもらってこの取り組みも日本でスタートしたんですよ。

―最後に、改めて「TaaS」の目的と考え方、今後のビジネス展望について教えてください。

テレプレゼンスロボットはコミュニケーションの手段です。だから、自分たちはロボットを売りたいわけじゃない。ハードウェアは必用だけど、そこが目的じゃない。 Teleporation as a Service(TaaS)というのは、造語です。IoTデバイスやテレプレゼンスロボットなどのハードウェアとネットワーク化させたテレポーテーション技術を使って、遠隔でのショッピングや観光、教育などの体験を実現可能にするものとして考案しました。 次のステップとして、医療分野や病院からの遠隔教育などでの利用を促進する為にもこのシステムが保険適用できるようにしていきたいと思っています。そのための研究会の発足や、脈拍や表情などの効果測定も始めようとしています。 あと、更なるエクスペリエンス向上の為のAvatar Robotの世界やXPRIZE*の様な新たなチャレンジもしていきながら、更なるロボット開発も行っていきます。 ※人類の様々な分野の技術的進歩をコンペ形式で実施する米XPRIZE財団が企画する次世代アバターロボット開発コンペ、ANA AVATAR XPRIZEへ現在チャレンジ中。

Profile

iPresence合同会社(https://ipresence.jp)

Doubleをはじめ、kubiやtemiなどのテレプレゼンスロボットの仕入れ販売からスタートし、現在は関連サービス、ロボットシステムインテグレーションや独自アプリ、ロボット開発まで手掛ける神戸発のテックベンチャー企業。 デバイスとデバイスを繋ぐ従来の通話から、人と場所を繋ぐ新しいコミュニケーションの形を提供している。

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