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INTERVIEW

地方の未来を見据えて、循環型農業で田舎立て直しの前例を作る土佐ひかり近藤氏の挑戦。

近藤 広典氏

Masayuki Moriyama
土佐ひかりCDM 代表取締役

(株)土佐ひかりCDMの代表取締役近藤氏にお話を伺った。「10年待てば周囲の理解は得られるかもしれない。しかし10年後では遅い。そのくらい田舎は危機的な状況に来ている。」近藤氏の言葉の裏には、田舎が置かれている現状に対する危機感と、循環型農業をつうじた人材育成と事業への想いが隠れている。

目次

―土佐ひかりCDMの会社の由来と事業について教えて下さい。

社名は、土佐から世界に光(ひかり)をもたらそうというのが由来です。「ひかり」には私が大学生来のヘアスタイルも掛けています(笑)。CDMというのは、CleanDevelopment Mechanismの略で環境に優しい資源の再利用サイクルを事業にしようという趣旨でつけています。創業当時、国連に掛け合ってCDMの認証を取ろうとしていました。 現在は、「肥料」「飼料」「ニラ」「たまご」の生産と販売をてがけています。肥料は高知の港に揚がる魚の残渣(魚のあら)を利用して作り、その肥料で生産高日本一の高知で「ニラ」を育て、さらに「ニラ」の余った部分を混ぜた飼料で放し飼いの養鶏をして「たまご」を販売しています。私たちが目指しているのは、個々に生産するのではなく、地方のあらゆる資源を活かして循環させる事業を生み出すとことです。 よく「土佐ひかりCDMは何屋ですか」と聞かれるのですがニラ屋になりたいわけでも、肥料屋になりたいわけでもありません。世界中の地域に産業を興す集団になりたいと言っています。 現在、インドやスリランカなど海外からも人材教育のためにうちに人を送りたいという話をたくさんいただいています。循環型農業がなぜ大切なのかを教え、実際の肥料の生産や、商品の生産技術を含めたトータル教育を行うところが他にないからです。今後も海外とのつながりをどんどん増やしていきます。

―なぜ、循環させる事業が必要なのですか。

地方では単体事業をやってもビジネスとして成立しないのです。単体事業に特化すると、高いお金を払って農業資材を仕入れ、数千万以上の投資が必要なビニールハウスを建てて、多くの人手をかけて一つ一つ選別や袋詰めの出荷作業に追われます。さらに商品にならない部分はお金を払って処分してもらうのです。これを聞いて儲かると思いますか? 何かに特化してやればやるほど無駄や無理が増えて利益が出なくなるのです。利益を出すためには、地方にあるあらゆる資源、余っている物や使っていない物全てを使って、循環する様に産業を作っていかなければダメです。創業時、「それは机上の話だ。」とか「できるはずがない。」と周囲から散々に言われました。でも私たちはこのやり方を続けて、創業6年目にして黒字化を達成しました。

―愚問だと思いますが、黒字化するまでの道は険しかったのでは?

想定した以外のことで沢山の壁にぶつかりました。創業時、私は県内にある魚の残渣(ざんさ。魚のあらの事。)に目をつけました。高知は漁業が盛んですから港に行けばお金出して捨てている残渣をタダでもらえると思ってね。最初は問題なく分けて頂けたので、残渣を集めて肥料にするための倉庫を作りました。ところが、その倉庫から異臭があるということで、お借りしていた場所の周辺からたくさんの叱咤をいただきました。怪しい物を作っているとも言われました。なぜ民家のそばで肥料作りを始めたのか?と言うと、残渣から肥料を作る過程でかなりの熱が出るので、その熱を家やビニールハウスの暖房に使えないかと考えたからでした。 ようやく倉庫の屋根が出来上がり、臭いが外に漏れなくなったと思ったら、残渣を分けてもらえなくなりました。お金を払って処分しているのにもらえなくなった理由は、商売の妨げになるからとのこと。結局、残渣を使った肥料の生産は一時中断せざるを得なくなりました。 「ニラ」の栽培についても、畑をお借りしてビニールハウスを建てるまでに莫大な時間と労力がかかりました。余所者に土地を貸せないと言ったことを何度も言われました。今、ニラ畑となっている場所は、もともと休耕地で農業資材などがそのまま捨てられていました。土に埋もれたビニール資材などを掘り起こしたり、ビニールハウスの修繕も自分たちで行い使える様にしたのです。 田舎では、チャレンジは奇異に映るものです。私の様に肥料も自社で作り、ニラも養鶏も手がけ、若い子たちに農業やらせているとなるとそれこそ全く理解されません。現状のままでは、田舎は縮小どころか消滅してしまうということは、多くの人は分かっているのです。ただ「まだ大丈夫」「まだ大丈夫」と思い込もうとしているだけだと思います。私がやっていることを理解されないことなんてどうでもいいことです。10年後に人がいなくなり荒れた土地と空き家だらけになってからでは遅いからです。

―なぜ、農業で会社を創業したのですか。

まず農業がやりたかったわけではありません。 「地域活性」っていう言葉を知っていますか?この言葉を声高に言う人ほど、「地域活性」に本気で取り組んでいません。高知県は、日本で高齢化率トップクラスな上、他県よりも10年以上早く人口減少に転じています。高齢化と人口減少による過疎化の悪循環で、今の高知県はすごい速度で経済が縮小しています。誰もが知っている上場企業もありませんから、高知の経済縮小は、肌で感じることができるレベルですね。 こういう状況の中で、「地域活性」を口で言うだけでは全く意味がありません。「何が問題なのか。」「どうしたら良くなるのか。」「何をしなければいけないか。」を考えて行動にうつすコミュニティが必要です。「農業で出た問題は、農業で解決する。」、ではなくて「田舎全体で解決する。」ことを考えないといけないからです。そして、そういう考え方自体を浸透させていくためには教育にも取り組まなければいけません。

―その情熱と実行力はどこから来ているのですか。

ここで会社をやろうと思い立った時から基本的には変わりません。ただ先ほど話した様にインドやスリランカといった海外からも土佐ひかりの考え方・やり方を採り入れたいと言ってもらって、当初の考えは確信になってきていると思います。 逆に考えに共感してくれても、その通り実行には至らなかったり、苦い経験はたくさんありました。それでも、前へ前へ行くことで実績を作って形にしてきました。 地域で税金や公的な資金で活性化するのは限界があります。収入源は生産者人口の多さである程度決まります。例えば、そこで住む高齢者の人たちの医療費を払うのに人が減っていく同じ地域から集めるのは無理があるでしょう?例えて言うなら、四万十株式会社は、地域外と貿易しながら稼いだり、お金以外のことで役に立つことをするなどして、運営していかないと社会保障や公共サービスは提供できなくなるのです。 「地域活性」には、「若い子たちが移住して生活できるコミュニティがある」という意味もあります。だからどうすれば若い子たちがここで生活してくれるのか本気で考えなければなりません。だから、うちは大学生のインターンも受け入れるし、県外の若い子たちも社員にしています。

―土佐ひかりCDMは何を目指しているのですか。

事業計画として、「肥料」何トン、「ニラ」何キロと言った話は目指すことではなくて、事業としてやっていくことです。私たちが目指していることはそうですね、コミュニティを作り、行政レベルの組織を作り、もっと言えば国を作る、そういうビジョンそのものだと思います。土佐ひかりがこれまで前例がなかったことを一つずつ取り組む。そして新しい前例が一つできて、周りが受け入れて主流になっていく、それがどんどん広がって当たり前になっていくそれを目指していると思います。 些細なことでも前例がないと皆やりません。例えばですが、ニラは5キロ箱での納品が一般的で、作業などもそれに合わせています。しかし、配送料は5キロ箱と10キロ箱では違ってきます。10キロ箱で運んだ方が得です。勿体ないですよね。そこで運送会社に掛け合って、「5キロ箱ではなく10キロ箱でお願いできませんか?」と相談します。そうすると前例がなかったことに前例ができて、皆新しいチャレンジができるのです。こう言う事をたくさん積み重ねて主流を作るんです。 今の日本は変な閉塞感がある。どうせやっても無理だからという、やらない前提が染み付いていて、与えられたもので生活していく流れがある。それはやはりおかしい。このままだと日本は変な社会主義国みたいになってしまう。周囲から反発を受けると、10年早いかなと思う時も一瞬ありますが、10年後では遅い、そういうタイミングです。 確かにこれまでのやり方を変えようと動いてこけて失敗すると、「あぁやっぱりね」ということになるけれど、究極のアホはこけていることにも気づかずどんどん突き進む。最後には新しい前例を作ってしまう。そういうことをたくさん作っておかないと、と思うのです。あの近藤ができるんだったら、自分にもできるだろうということなります。だから自分がやることには意味があるんです。土佐ひかりは心臓みたいなもので、それ自体が大きくならなくても、海外の人たちにどんどん広がって大きくなっていきます。 その昔、この土地を治める人たちが、ここで何ができるか試行錯誤して農業をして、酪 農をして漁業をして、人々を豊かにしてきました。分業化・専門化が進んで、仕事を増や していきました。ただそれは若い人がたくさんいて人口が増えている時代だからこそでき ることでした。今はそのやり方自体がうまく機能しなくなってきたのです。だから今、新 しいやり方を作らんといけないと僕は思っています。

Finch編集部より

土佐弁の語り口に鋭い視線。農業ベンチャーの社長に話を聞きに来たはずなのに、腰を曲げてニラの根元に生える雑草を取り除きながら、新しい社会システムの必要性を語る近藤社長の熱弁をいつしか前のめりで聞いていた、それが率直な感想だ。 確かに高齢化や人口減少など日本を取り巻く環境変化の中で、戦後作り上げた社会システムに歪みが起きていることは至るところに書いてある。しかし義憤を抱いて「それはおかしい」と語り、未来ある若い人たちと肥料とニラとたまごの事業を育てるところから行動に移している姿にこそ、活路があるのだと教わった。 取材中、若い社員の肩に手を回し、なぜこの問題に真剣に取り組まなければいけないかを共有している姿に、私は心打たれた。20代半ばの県外から来た若い子たちと地方の問題にまっすぐ向き合い、前例がないだけで進んでいない「おかしい」ことに取り組む姿勢こそ、土佐ひかりの強みだと気付いたからだ。 「私はニラに一切こだわらない」という表現に、ものづくりへの軽視と誤解する人もいるかもしれない。しかし土佐ひかりの目指す姿を聞くうちに、その本質が地方の問題解決のためには、「ニラ」よりも「人づくり」と「コミュニティづくり」の方がずっとずっと大切だということに気づく。 高知県出身の坂本龍馬が明治維新で新しい社会システムへと日本を変える流れを作った。近藤社長は今そういう新しい流れを作ろうとしている。

Profile

(株)土佐ひかりCDM(http://www.tosahikari.co.jp/

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